第26話『部活紹介の前に』


「王子様、今日は放課後に部活紹介があるらしいよ」

「部活かぁ」


 いつもの何気ない日常、入学して一週間は経過しておりみんな新たな学校生活へ馴染みつつある。


「みんな気になってるよ、王子様がなんの部活に入るのかなって」

「うーん、何も決めてないんだよねぇ」

「そうなの? 男の人は部活に入らなきゃ拙いんじゃないの……?」

「……そこん所詳しく?」


 なんでも男子生徒は大学への進学に非常に大切なポイントは内申点らしい。


 これは学業はもちろんそれ以外での学内外を問わない活動、日頃の姿勢などなど……。


 特に部活動に所属しているいないは男女問わず内申点へ大いに影響があるのだと。


『入学の案内にも書いてあったよ』とスマホで見せてもらう。


 まれちゃん~?

 やっぱり俺これ見なきゃ拙いものだったんでは~?


『えへへ♪』と言って笑顔で悪戯成功と思ってそうなまれちゃんが容易に想像できる。


 いつも俺の為にいろいろ気遣ってくれるけど結構悪戯好きなんだよな彼女。

 小さい頃は結構驚かされたよ。


 家の花瓶割ったら平然と俺がやらかしたような証拠を残してきた時はホントにビビった。


 結論、まれちゃんは今も昔も可愛い。


 とはいえだ、部活の事ちゃんと考えておかないとだ。

 教えてくれた工藤さんに感謝しないと。


「部活に入っとかなきゃマズいね、放課後の部活紹介ってどこでやるの?」

「体育館らしいよ」

「そっか教えてくれてありがとね工藤さん、俺もそれに参加してみるよ」

「ふふ、どういたしまして!」


 部活かぁ、ちゃんと考えてなかったけどどうしよう。

 

 前世では軽音楽部だったけれど。


 バンドやればモテるよって言われたから入ってギターデビューなんかしたわけで、その後も趣味になったから良い思い出だったけれど、今世ではもうモテてるからなぁ。


 でも文化祭のライブでやったライブは気持ちよかったな。


 キャーキャー言われることはなかったけど、有名な曲のコピーだったからみんなで合いの手を入れてくれたりで凄く楽しかった。


 なにはともあれ放課後の部活紹介に参加しよう。


 やがて鷹崎先生が教室へ入ってきて朝のHRが始まるのだった。




 ――


 授業は流れるように過ぎ、あっという間の放課後の時間。


 俺は部活紹介を見に体育館へやってきた。


 そしてクラスメイトの千尋、みくさん、紗耶香さんも一緒である。


「三人は目星とかはつけてるの?」

「アタシは運動部かなー、厳しすぎない所とか」

「私は文化部系にしようと思ってます」

「わたしは……中学では不登校だったから良い所があったら入りたいなぁって」


 三人がそれぞれ答えてくれる。


 千尋、さらっと爆弾発言。


 そっか、中学では不登校だったんだ。

 今でこそ普通に話してくれるけど最初はかなりオドオドしていたし、その時の影響があったんだろうか。


 まぁ何回言ったかもう分からないけど、あの時の怖がり方はほとんど俺が悪いし。

 一週間くらいしか経ってないけど懐かしい思い出だよね。


 過去の彼女に何があったかわからないが、いつか話してくれる時が来るといいな。


「まだ部活紹介は始まってないな」


 壇上はまだ準備中のようで生徒たちが入り乱れている。

 席もまばらに空いてるしどこか適当なところに座るか。


 と、考えていた時だった。


「だーれだ?」


 耳を溶かすくらいに甘い声、一生聞いていたい声の持ち主が俺の目を塞いだ。


 簡単すぎるクイズだぜ、姿が見えずとも間違えるはずがないじゃないか。


「間違えるはずがないじゃないか、まれちゃんだよ」

「残念でしたー、正解は『俺のまれちゃん』でした」


 ぬあぁっ!?

 やっちまったあぁっ!?


 お、俺が……まれちゃんに関することで不正解?

 し、しかも彼女が自身を俺の物アピール!?


 ショックと動揺で過呼吸になりそう。


「わ、悪かったよまれちゃん、俺がまれちゃんの声を聴き間違えるはずがなくてあまりにも簡単な問題だと思ったからつい簡単に答えちゃったね、もう一度答えさせてくれ、俺の目を塞いでいた可愛い声、最上級に柔らかい手の持ち主は『愛する俺のまれちゃん』だよ」

「えへへ~、大正解~!」


 可愛すぎて抱きしめました。


 はぁ~幸せ、生き返る。


「い、一ノ瀬君……?」

「ま、希華……そいつは何だ!?」


 まれちゃんと抱きしめ合って互いの後ろにいる人物を目にする。


 俺の後ろにはさっきも言ったクラスメイトの三人が、まれちゃんの後ろには眼鏡をかけた男子が。


『……誰?』


 俺とまれちゃんの声が重なった。


「えーと、まれちゃん。彼女たちは俺のクラスメイトで佐良千尋さん、仙道みくさん、砂村紗耶香さんっていうんだ」

「初めまして……」

「どもども~」

「よろしくお願いしますね」


 約一名緊張した様子だったが残り二人は普段通り、まれちゃんもにこやかに『よろしくね~』と返す。


「で、そいつは?」


 後ろの眼鏡をかけ腕を組んでいる男子、こいつ前に俺が前世の生徒会長に似てるって思ったやつだな。


 ――俺の愛するまれちゃんを名前呼びしてますけどどういったご関係で?


 若干頬をピクつかせながら問いかけた。

 けどまれちゃんは興味なさげに。


「知らない」

「な、希華、何を言うんだ!」

「知らない、あと希華って呼ばないでっていつも言ってるから」


 慌てふためく眼鏡男はどうでもいいが、まれちゃんが俺も聞いた事が無いくらいに冷たい声を出している。


「本当に迷惑だからついてこないでよ」

「希華、頭の良い君なら理解できるはずだ。僕と結婚することが君の幸せにつながるのだと」


 はぁ?


 何言ってんだこいつ~?


 急に出てきてまれちゃんと結婚するだぁ?

 おいおい意味わからなさ過ぎて面白いんですけど。


「あ、あの一ノ瀬君……?」

「ん、なにかな千尋」

「ひぃっ、何でもないです……」


 ――お、王子めっちゃキレてんじゃん。

 ――王子様のあんな顔初めて見たね

 ――うぅ怖かったよぉ、……でも早川さんいいなぁ。


 千尋が怖がってしまったのは申し訳ないけれど、俺は怒ってない怒ってない。

 ただちょっとイラついてるだけなんだよ。


 急に現れて人のまれちゃんを名前呼び、挙句の果てに結婚だぁ?


 面白すぎて欠伸が出るよ、今夜も快眠できそうだ。


 まぁ、そういうのは正直どうでもいい、彼女は美しくて可憐で可愛くて崇められるような女の子だからね、この世界の男なら自分の物にしたくなるのはなんとなくわかるよ。


 まれちゃんがモテるのは嬉しい、これは素直な感想だ。


 ただ……まれちゃんの嫌がるだけはするな。


「そこの眼鏡野郎、俺のまれちゃんに迷惑かけないでくれる?」

「俺のだと? あぁ、そうかお前が例の『適用外』くんか」

「はいはいその適用外くんだよ、まぁお前はまれちゃんの適用外……いや『論外』くんっぽいけどね」

「言葉に気を付けろよ落ちこぼれが」


 バチバチと睨みあう俺と論外。


 まれちゃんは『はぁ』とため息を吐いて俺の腕を組んだ。


「いつも言ってるけどけーくん以外の男子なんて興味ないからもう話しかけないで」

「だが希華、君の価値はこんな男なぞに……っ」

「ホント無理、わたしはあなたに本気で興味ないの、わたしはけーくんのモノなの、けーくん以外の男は目に入らないの」

「まれちゃん……そんなに俺の事を想ってくれてるだなんて」

「……こんなにけーくんの事を想ってたのに気付いてなかったの?」

「そんなことはない! 俺の人生はまれちゃんあってこそなんだから。ただまれちゃんを想う気持ちが強すぎて強すぎて、たまにこの想いは迷惑なんじゃないかと思ってたんだけどまれちゃんの言葉を聞いて安心したよ、あぁまれちゃん大好きだ!」

「ふふっ、わたしも大好きだよけーくん」

「人を無視していちゃつくなぁ!!」


 うるさいなぁ、俺とまれちゃんの時間を邪魔するなよ。


「ちょっとそこ、何騒いでるの?」


 俺たちのやりとりは少し騒ぎになっていたようで、注意しに来る生徒が……って智子先輩じゃないか。


「弟くんじゃない、またぁ?」

「またって何ですか、騒ぎを起こしたことなんてないですよ!」

「あなたって何かと校内で話題になってるから、ずっともめ事を起こしてる気になるのよねぇ」


 理不尽すぎる、俺はただいつものようにちやほやされているだけなのに……。

 

 ……これが原因だったりしないよね?


「それで騒ぎの要因は何?」


 智子先輩へわかりやすいように俺とまれちゃんは同時に眼鏡野郎を指さす。


『こいつが人の恋路に口を挟んできます』

「な……っ」

「うわー息ぴったり」

「ホントに熱々なんだねぇ」

「うぅ……負けらんないもん」


 俺とまれちゃんは魂レベルで繋がってるから息ぴったりなのは仕方ないんだよ。


「はぁ……事情は察したわよ、あなた1年A組の及川君でしょ? 悪いことは言わないから人の恋人に手を出すのは止めなさい」

「女が僕に対して意見をするだと!?」

「女だろうが男だろうが関係ないわよ、むしろ人の恋人に手を出すような男は最低な人間よ、わかってるの?」


 おぉ、智子先輩かっけぇ。

 この世界って男が立場上みたいな風潮あるから正面から意見言えるの凄いな。


 周りの女子生徒も『さっすが智子先輩、素敵!』『会長と副会長位よね。男子に物言えるのって』と先輩を褒め称えている。


 さすがに分が悪いと感じたのか眼鏡野郎も。


「ちっ……、そこの落ちこぼれ! お前を僕は認めんからな!」


 漫画でよくあるような捨てセリフを吐いて眼鏡は去っていった。

 

 どうでもいいけどあいつ及川っていうのな、心の底からどうでもいいけど。


「稀にあったらしいのよね、一人の女の子を取り合う男たちのやり取り。まさか私がこの目で見ることになるとは思わなかったけど」

『いえ、まったくあいつに興味ありませんから』

「あなたたち、あけ先輩に聞いてたけど本当に凄いのね……」


 なんせ俺とまれちゃん相思相愛だからな、まれちゃんが愛おしくて俺は彼女を抱き寄せる。

 彼女もそれが嬉しかったようでギュッと俺を抱きしめた。


「けーとさぁ」

「うおっ!?」


 後ろから聞き慣れた声がするので振り返ると野球部のユニフォーム姿の理奈が。

 なぜこんなところにこの格好でいるのかと思ったが彼女は部活紹介側で来たのだろうか。


 恨めしそうな顔をしているが、いやいや俺は理奈の事もちゃんと想ってるぞ!


「ごめんな理奈、俺またお前の事傷付けちまった。これで許されるかわからないけど」

「あ……っ、う、嬉しいけどそうじゃないの!」

「え、そうなの?」


 顔を真っ赤にして離れる理奈。


 理奈を寂しがらせたんじゃないとすると……なんだ?


「入学式に言ったじゃん、学校が変わったこと自覚してって」

「あー……」


『けーとはもう学校が変わったことを自覚してよ』


 こんなこと言われた気がする。

 たしかあの時もまれちゃんを抱きしめようとしたんだっけ。


「見てよ、周り」

「ん?」


 辺りを見回してみる。

 クラスメイト、違うクラス、違う学年の女子生徒たちが胸に手を当ててる。


 なんか妙にすっきりした顔をしてるんだけど。


「また中学の時と同じだよ」

「なにが!?」


 俺は知らなかった。

 それも無理はない。


 俺とまれちゃんがいちゃつくと周りの女子生徒が『浄化』と言って尊んでいたのは一度たりとも耳に入っていなかったからだ。


 これは裏で中学の女子生徒が楽しみにしていたからだとあとで理奈に教えてもらった。


 つまり中学の時と同じように俺とまれちゃんの行為は周りに浄化として認められるようになったのだった。

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