第25話『男子交流会を終えて』
「お、俺のまれちゃんが他の男たちに奪われようとしてるだってぇっ!?」
「んなことは言ってない」
「人の話聞いてた?」
え、奪われかけてるって言ってなかった?
言ってない?
あぁ、そうよかった。
「じゃあなんだっけ?」
「他の男子にプロポーズをされたって話だよ」
「勘違い甚だしいんだけど」
だってまれちゃんが人からプロポーズされてるって。
俺、不安で不安で……。
「まぁ一方の彼女も全く相手にしてないって話だけどね」
「『わたしにはけーくんっていうこの世の誰よりも魅力的な婚約者がいるので』っていうのが断り文句って話らしいぜ」
「ま、まれちゃん……えへへ~」
「うわっ、うぜぇ」
「非常に腹の立つ顔だね」
だってまれちゃんが俺の事をそんな風に言ってくれてるなんて、もう嬉しくてしょうがないよね。
「なんだってみんな婚約者のいる女に惚れたんだかねぇ」
「それだけまれちゃんが魅力的ってことなんだよ」
「魅力的なのは同意だけどなんかキミが言うとムカッってくるのは何故なんだろうね」
「本当だな、ちょっと殴らせてくれ」
この二人妙に馬が合うのかさっきから遠慮がない。
や、やめろ!
お前の腕で殴られたらケガじゃ済まねぇよ!
「てかお前そのせいで他の男子に嫌われてんの知ってたか?」
「……え?」
……俺他の男子に嫌われてんの?
初耳で驚いている、だってまだ他の男子と喋ったことすらないのに。
「男が女に言い寄るなんてのは夢物語の話であって、普通は男が言い寄られる時代でしょ?」
「ま、まぁな……」
俺、その夢物語みたいな世界から来たようなもんなんだけどな。
「そんな中で現れた早川希華っていう男が目を奪われるような女の子が出てきたんだ。でもその子は既に他の男と婚約してると」
「当然『婚約者は誰だ?』ってなるよな? そんで調べた結果『E組の落ちこぼれだと!?』ってなればみんな自然とお前に良い気はしないよな」
「ただの僻みじゃねぇか!?」
まったくもってしょうもない理由で嫌われてんじゃねぇか。
これ俺が悪いのかぁ?
納得いかないよなぁ……。
……ん、まてよ?
とある可能性に辿り着いた。
恐る恐る二人へ確認を取る。
「も、もしかしてさっきから交流会って集まりなのに他の男子がいないのって……」
「お前が来るからみんな嫌なんじゃねぇか?」
「うわあぁぁっ!?」
完全に嫌われてんじゃねぇか。
ひでぇよ、みんなしてひでぇよ……。
俺はただまれちゃんと愛し合ってるだけだというのに……。
「まぁ俺たちも最初は一目会って嫌な奴だったらすぐ帰ろうかと思ったけどさ」
「結構おもしろいし、僕たちは嫌いじゃないよ」
ふ、二人とも……。
なんて良い奴らなんだ。
気のせいか二人が輝いて見えてきた。
「でもそれとは別で殴らせろ?」
「うんうん」
「そ、それは勘弁してくれ……」
前の世界での友達に雰囲気の似ていた彼らは、この世界でも友人となることが出来たのだった。
――
結局放課後の下校時間ギリギリまで喋っててしまった。
あの後も互いの過去話やどうでもいい話をしていて最終下校時刻のチャイムが鳴るまで俺たち話続けていたのだった。
「へぇ~恵斗は東葛駅から来てんだな、ここまで結構時間かかるんじゃねぇの?」
「電車乗ってたらあっという間だし大したことないよ、彰とリンはここから近いのか?」
「僕はここから自転車で10分くらいかな」
「オレは恵斗と同じで電車だがお前よりは近いぞ」
二人とは友人となったきっかけで下の名前で呼ぶようになった。
意図せぬことで他の男子とは交流が出来なくなったが、気が合う彼らと友人になれたから今日の交流会は俺の中では成功でいいだろう。
三人と歩きながら喋り続け校門の所へ着くとそこには部活終わりと思われる理奈が立っていた。
「あ、けーと今帰り?」
「理奈、どうしたんだこんな所で」
「さっき練習が終わったの、まだ視聴覚室に明かりがついてたからもしかしたらけーともいるかなって思って待ってたんだ」
練習上がりでシャワーを浴びてきたのだろうか、ほのかに香るシャンプーの良い香りが風を伝ってくる。
夕日に照らされてるのもあるけど、少し顔に赤みもあってそこがまた色っぽい。
「お、おい恵斗!」
こっちに来いといった感じで腕を引っ張る彰。
なんだよ俺は今理奈と話してんのに。
「あ、あの子元プロ野球選手の柚月選手の娘さんだろ、なんでお前と仲良さげなんだ!?」
「いや、んなこと言われても……」
どういう事だと詰め寄られても、同じ中学からの仲だし……。
それに理奈とは恋人でもあるし……。
その事をなるべく簡単に伝えると彰はまた頭を抱えて。
「お、オレはお前の友人を辞めたい……」
「なんでだよ!?」
「彰はね、柚月選手のファンなんだって」
い、いやそれは……。
うーん、逆の立場だったら同じ気持ちにはなりそうだがそれでも言いたい。
別に俺は悪くないと。
「とりあえず彼女に頼んでくれ、母親のサインくださいって」
恥ずかしそうに言うな、堂々と頼めばいいだろうが。
余計な事を言って怒らせるのも嫌なので理奈へと伝えてあげると『いいよ』と二つ返事が。
「おっしゃー!! オレは恵斗と友人になれてよかったよ、いやもう親友だな」
「お前のこと殴っていいか?」
肩を組んでくる彰を本気で殴りたい。
お前さっき友人辞めたいって言っただろ。
「どうせなら僕もお願いしていいかな柚月さん」
「うん、けーとの友達なら」
「ありがとう僕も恵斗の親友だよ、よろしくね」
「お前らホントふざけんなよ」
ちゃっかりしすぎなんだよ、理奈も苦笑いだ。
肩を組んでた彰が離れて『そういや』と話を切り出した。
「柚月って入学初日から二年の先輩にプロポーズされてたって話きいたけど」
「えぇ!? 本当なのか理奈!?」
驚き理奈を見る、当の彼女は少し申し訳なさそうな顔をしている。
「う、うん……、でも」
「『心に決めてる人がいるんでごめんなさい!』って秒で断ったって聞いたよ」
「理奈……それはやっぱり」
「……けーとの事に決まってるじゃん」
あぁ、理奈ありがとう!
嬉しくて二人の前だがつい理奈を抱きしめてしまう。
「も、もうけーと……」
「ありがとな理奈、絶対結婚して幸せになろうな?」
「うん、あたしのこと絶対に幸せにしてね?」
「もちろんだ、なぁ理奈キスしてもいいか?」
「う、うん、いいよ……」
「おい」
「二人の世界に入らないでほしいんですけど」
二人にジト目で見られる。
すまんな、理奈が可愛くてつい。
名残惜しみながら彼女との抱擁を終える。
「唐突にイチャつき始めるとは思わなかった」
「キミどんだけ適用外なのさ」
そんなこと言われても理奈が可愛いんだから仕方ないだろ。
理奈へキスするのは二人と別れてからするとして会話を続ける。
「そういえばキミの苗字『一ノ瀬』だったよね」
「もしかして一ノ瀬会長ってお前の姉か?」
「あぁ、一ノ瀬明美は俺の姉だけど」
何故に姉さんが?
その疑問はすぐに解消されることになる。
「『一ノ瀬会長』がプロポーズを次々と断ってるって話知ってるか?」
「はぁ?」
「あの会長って勉強も出来て人柄も良いし美人だろ、女子だけじゃなくて男子にも人気があるんだけどよ」
「プロポーズされても『けいちゃんみたいな男の子じゃないと嫌なので』って断られてるんだって」
「何やってんだよ姉さん!!」
姉さん婚活諦めたって言ってたじゃん。
気持ちは嬉しいけどこの世界の女性は結婚するのが大変なんだろ、断ってていいのかよ。
……そういえば。
理奈も姉さんも
ふーん……。
なるほどねぇ……。
「恵斗、今の話でわかるか?」
「……気付いたけど聞かせてくれるか?」
もうわかったよ何が起こってるか。
それでも一応事実確認はしておきたい。
「二人ともお前が好きでプロポーズ拒否してるってことだからさ」
「原因であるキミは当然上級生にも嫌われるってことだよね」
「……なんでだぁ~~っ!!」
――異世界小説に転生特典は付き物。
これは前の世界で読んだWEB小説の鉄板ネタだったが。
俺はこの世界の転生特典とやらで女性にモテる代わりに男性に嫌われる特典でも得たんですかね。
物凄く複雑なんですけど。
「お前本当に退屈しねぇな」
「キミと親友になれて良かったよ」
「嬉しくねーよ……」
ニヤニヤした二人は別れを告げて先に帰ってしまった。
一方取り残された俺は理奈に慰められながら空を仰ぎ見る。
――なんか変なところでめんどくさいことになってる。
勉強を子供の頃頑張らなかった結果、成績順で割り振られる学校で見事最底辺のクラスに。
意図せぬところで身の回りの女の子が男女比の偏った世界では珍しくモテていて、振られた腹いせに俺が嫌われる。
半分自業自得、半分は俺は悪くないといった所でこれからどう学校生活を送っていこうか俺は頭を悩ますのだった。
――『城神高校1年A組の憂鬱』
「はぁ……」
窓を見てため息を吐く早川希華、通称『まれちゃん』
彼女は城神高校入試の結果、学年一位の座を手にし、新一年生の中では知名度トップである。
そんな彼女の悩みの種と言えば。
「なぁ、せっかく僕が話しかけてるんだ。こっちを見たらどうだい?」
「はぁ……」
入学初日からひっきりなしに話しかけてくる隣の男性、名前を
眼鏡をかけたインテリ系男子でそこそこのイケメンでもある。
彼は数少ないとはいえ男子の中では学年トップで女子生徒のほとんどがお近づきになりたい男だ。
そんな彼が今興味を持っている女性がいわずもがな希華である。
初日の初顔合わせで希華の美貌に目を引かれた彼は即プロポーズをした。
『僕と結婚する権利を君に上げるよ』
この世界でのプロポーズ。
『結婚してください』ではなく『
しかし彼女は既に恋人がいる立場、もちろん微塵も考え込むことなく即お断りの返事。
返したセリフは『わたしにはけーくんっていうこの世の誰よりも魅力的な婚約者がいるので』
リンが恵斗に伝えたセリフは一言一句の間違いもなかった。
普段は恵斗が『まれちゃん可愛い』『まれちゃん大好き』と言っているから彼がぞっこんなだけのようにたまに見えなくはないが彼女も同じようなものである。
中学時代は朝の挨拶を恵斗にできなかっただけで泣き出してしまい、当時のクラスメイトの心に大きく傷を負わせたあの事件は今でも後輩に語り継がれている。
本当ならば今すぐクラスを抜け出して大好きな彼の元へ行きたい。
四六時中いつまでも、一時も彼の傍を離れたくないほど希華は恵斗を心から愛している。
けれど彼はこの学校で婚約者を作らなければならない。
幸いにも二人目は自身の親友でもある柚月理奈が晴れて結ばれることになったが。
最低でもあと一人、いやもう数名は作ってもらわないと困るのだ。
近々卒業に必要な婚約者の数が増えると噂になっている。
だからこそ彼にはもっともっとモテてもらわないといけない。
今希華が彼のクラスに走っていけば彼は快く抱きしめてキスもしてくれるだろう。
けれどそれではいけない。
結局中学時代は希華一強の存在がいたからモテてはいたものの誰一人恵斗へ告白する子は現れなかったのだから。
だから非常にストレスではあるものの、こうして興味のない男子の話を右から左へ聞き流すことで耐えている。
そんな彼女の様子を見て心を痛めている者もいた。
それは恵斗、希華と共に中学で同じクラスメイトだった他の少女たちである。
彼女たちは恵斗と希華のファンで高校でも間近で見たいが為に受験をし城神高校の生徒となった。
……というより中学の同級生全員の第一志望が城神高校で二人はそれほどに人気者だった。
さすがに全員が合格とならず城神高校に入学できたのは一部だけ。
そしてA組に潜り込めたのは成り行きを見守っているこの数名だけ。
初めは希華と同じクラスなのを喜んだが肝心の彼が最底辺のE組なのだ。
彼女たち中学の同級生は城神高校に受かるために毎日毎日勉強続けた。
雨の日も雪の日もいついかなる時も毎日勉強。
それでも二人と同じ学校へ通いたいから。
努力は実を結び合格をした彼女たちだったが、学力が一気に上がりE組に振られるような人間は当の彼を除いて存在しなかったのである。
さすがにこれは予想外だった。
そして希華が恋人と四六時中一緒に入れない寂しさと、しつこく求愛をしてくる興味のない男に迫られストレスが溜まっているのを間近でみている彼女たちは思う。
――さすがに恨むよ一ノ瀬くん。
この現状をグルチャに伝えると希華に同情の声と少しながら恵斗に対して非難の声も上がった。
……すぐに鎮火したが。
今日も1年A組は憂鬱である。
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