第24話『男子交流会』
「今日は放課後に男子交流会があるので女子生徒の皆さんは極力視聴覚室へ近寄らないようにしてくださいね」
「男子交流会?」
朝のHRで担任の鷹崎先生から聞き慣れない単語が、名前からして男子と交流するってそのまんまの意味なのかな?
「男子が一か所に集まるなんて……」
「うぅ~、その現場一目だけでいいから見たいよ~」
「でもうちの王子様が一番よね」
「当たり前じゃない、王子様に敵う男子なんて居ないんだから!」
クラスメイト達が何か言ってる。
褒められるのは嬉しいからもっともっと言ってくれ。
「一ノ瀬君は放課後になったら視聴覚室へ向かってくださいね、そこには君が待ち望む男子生徒がいますよ」
「お、おぉ……それは楽しみですね!」
ついにこの世界の男子と会える。
俺は放課後を楽しみに今日の授業を過ごすのだった。
――
「ここかぁ、視聴覚室は」
今日の授業を終え、鷹崎先生に言われた通り視聴覚室へ行く。
いよいよ男子が……、この教室に……。
緊張の心持ちで居室の扉を開く、扉を開けた先には二人の男子生徒が座って待っていた。
「お! お前がE組の男子だな?」
「ホントだ、こっちこっち~」
談笑してた二人だったが、教室にやってきた俺を見て手を振っている。
「初めましてだな、オレは
茶髪の短髪男子、身体つきは俺よりより一回り大きく力がありそうで目つきが結構鋭い男子だ。
「僕は
こちらは灰よりの髪色をした目がくりっとしている童顔寄りの男子だ。
背は俺と二神よりも小さい。
「俺は一ノ瀬恵斗、よろしく!」
自分の名前を名乗り自己紹介を終えた。
初めての男子生徒、彼らをどこかで見たことあると思ったら入学式で昔の友人に似てると思った二人だった。
「お前有名だぜ結構」
「有名?」
「『適用外男子』だって?」
「あぁ、それね」
「なんだ、ムッとしねぇのな」
もう今更って感じだし、いちいち怒るなんてことはしないよ。
「結構気に入ってんだよその呼ばれ方、蔑称なのは間違いないんだろうけど良い方向にも考えられるしさ」
「へー、例えばどんな?」
「常識の『適用外』って意味でさ、男だからああだ、男だからこうだとか言われるのが最近は受け入れてきたけどまだ反発したい自分も居てね。適用外ってのはある意味俺に合ってるんだよ。ただクラスメイトはその呼び名が嫌らしいしある先輩にはいずれその呼び名を覆してやります的な啖呵を切っちゃったからあんまり気に入ってるって公言はしないようにしてるけどな」
「ふーん……」
興味深そうに俺を見る三条、二神もニヤッとしながら俺の話を聞いている。
「子供みたいだけどさ人とは違う自分に酔ってる感じで今の俺は好きなんだ」
「なんだそれ、キミ変な奴だね」
「人伝に聞いたんだが女にモテたいってのもそこから来てんのか?」
知ってたのか、自己紹介で『モテたい』って堂々と宣言したし噂になってたりするんだろうか。
「それもあるっちゃあるが『モテたい』ってのは俺の全てでさ、この気持ちを無くさなかったからこそ今の俺があるんだ」
「ふーん……でもさ、僕たち男ってただそれだけでモテるんだよ? 意味なんてあるの?」
「ふっ、わかってないなぁ」
チッチッチと指を振り舌で音をわざとらしく立てる。
わかってない、わかってないんだよ三条!
「それは俺を見てるんじゃない『男』って肩書の俺を見てるのさ」
「何が違うんだい?」
「楽しくないんだよそれは、モテるなら俺自身を見てほしい。『男』だからモテる? そんなの俺じゃなくて『男』がモテてるだけじゃないか」
『……』
口をあんぐりと開けて言葉が出ない二人、しかし俺の演説はまだまだ終わらない。
「『俺』自身がモテたいからこそ俺は努力する。『普通男は女子の名前を覚えない?』俺に話しかけてくれる子たちに失礼じゃないかちゃんとフルネーム覚えるぞ、『男に好意をぶつけるのが失礼?』好意を受けて喜ばないわけないだろう、まさにモテてる証明なんだから嬉しいに決まってるさ!」
『……』
「まだ入学して少しだけどクラスメイトにはいつも囲まれ彼女たちはみんな俺を憧れるように見つめる。俺が一言発するだけで彼女たちは喜んでくれる。これだけのことでも毎日が楽しいんだ。『適用外男子』で結構、他の男子たちがモテたくないなら代わりに俺が全部もらってやる! ……ちょっと熱く語ったけどそんな感じで生きてるんだよ」
「……なんていうかさ、本当に君って適用外なんだね」
苦笑しながら三条は言った。
「わざわざ女の子に囲まれたい気持ちが僕にはわからないよ」
「だなぁ、こっちは好きで男に生まれたわけじゃねぇのにさ。いつもいつも事あるごとにキャーキャー言われて迷惑だろ」
「……逆に俺はそっちの感覚を聞きたいんだよ、どういう感じなんだ?」
俺の元の世界は極端ではないが男子に寄ってる比率だったのでイケメンでもない限り無条件にモテやしない。
生まれた時からモテることが決まっている彼らはいつもどういう心境で過ごしてきたのか、そこに興味があった。
「今言ったとおりだよ、事あるごとに褒め称えたりしてくるんだよ、嬉しくもなんともねぇ」
「褒められるってのは嬉しい事じゃないのか?」
「度合によるに決まってんだろ」
「学校で高得点を取ったら過剰に持ち上げられるしね、気味悪かったのが初めての英語のテストだよ、あんなのABCさえできれば誰だって満点取れるのに『三条君ってすごいね』『天才だね』ってさ、君たちも満点じゃん何言ってんのって」
「あったあった。何か一つするだけで『さすが二神くん!』『男の子はすごい!』ってこいつらどんだけヨイショが好きなんだって呆れちまったよ」
「そうそう、どんだけ僕らに気に入られようとしてんだろって、却って気持ち悪いよ」
まぁ、覚えはないわけじゃない。
中学の時にも同じようなことは俺にもあった、教師に指定された問題を答えれば『凄いよ一ノ瀬君』だったり。
校内にあったゴミが気になったから捨てといただけで『一ノ瀬君って凄く気遣いが出来る人なんだね!』『尊敬しちゃう!』って持ち上げられたな。
でも、なんか二人とは受け取り方が全然違うんだな……。
俺なんかは今のような当たり前のことで女の子に褒めてもらうのってすごく嬉しかったりする。
人ってやっぱり褒められると嬉しくなるものだからさ。
それにこういう状況って如何にもちやほやされてるって思うし、女の子と喋るって行為自体が俺は楽しいからやっぱり受け取り方の問題もあったりするのかな。
ちなみにテストで満点とか全然取らないからそこの所の気持ちはわからない。
「それにあいつら事あるごとについてくるんだよ、コンビニに行くだけだって言ってんのにわらわらと暇なのかって付いて来てさ」
「買い物にだって気軽に行けないよね、結局いつも使うのは通販でさ、本当は実物を見て買いたいものだってあるのにね」
「あぁ……それはわかるかもなぁ」
まれちゃんと初めて遠出しようとした時は他の女性に囲まれて大変だった。あの時はさすがに邪魔しないでくれって心から思ったし結局それが原因で今の今まで彼女とは近場のデートしかしてないし。
まれちゃんと一緒に夢の国周ってみたいなぁ。
今だったら理奈も一緒に来てくれるかな。
三人で手を繋いで夢の国を周るのを想像する。
あぁ、ニヤニヤが止まらん!
「なんでニヤけてんだこいつ」
「やっぱり適用外なんだよ」
失礼な、いまのはちょっと恋人たちとデートする自分を想像してニヤけてしまっただけだ。
「俺も子供の頃はさ、地区で最初の男の子だって有名になっちゃって色んな女性に家中囲まれて怖かった時期もあったよ」
「へぇ~、それがなんでまたモテたいってなったんだ?」
「元から女の子にキャーキャー言われたい欲が潜在的にあったのとまれちゃんと会えたのが大きかったなぁ」
前世からモテたいって思ってたことは潜在的ということでごまかす、けれども俺の場合は結局まれちゃんとこうして出会ってなければ今の彼らのように女性に対して良い感情は持たなかったのかもしれない。
「その『まれちゃん』ってのは、あの『早川希華』か?」
「え、まれちゃん有名なの?」
「そりゃあ頭も良いし、あの見た目は女にあまり興味ない俺達でも目で追うし」
「うんうん、正直あの子なら……って思うことはあったよ」
「いやぁわかってるな君たちは! まれちゃんはそうなんだよ可愛くて綺麗で性格も完璧で理想の女の子なんだよ!!」
「あーうん、大体わかったから」
「君が例の恋人だってのはわかったから」
引いてるのがわかるけど俺は止まらない、まれちゃんの魅力を女の子に興味がないと言ってる彼らにこれでもかと教えなければならないと俺の脳が告げている。
「まれちゃんはなぁ、女に怖がってた俺を助けてくれた子で、この世界に生まれてきてよかったと思わせてくれた女の子なんだ。あの時記者たちに立ち向かったあの姿、あれは男の俺でもカッコいいって思ったよ、あの姿を見た時俺はもう彼女に心から恋しちゃって、いやきっと恋したのはその前からで初めて会った時俺の心はもうまれちゃんに……」
「こいつ止まんねぇんだけど」
「やっぱりやばい奴じゃん」
何を言われようと俺のまれちゃんを想う気持ちは止められない。
まだまだ語り足りないとしゃべり続ける俺だったが、ある一言が俺をストップさせる。
「大変だな彼女も、こんなに一途な男が居るのに色んな男に目を付けられてんだから」
「……は?」
「あ、やっぱり知らないんだ、入学してからすぐクラスの男子にプロポーズされたって話」
「……はぁ!?」
なんだよその話。
俺のまれちゃんがプロポーズされてる!?
そんなことを全く知らなかった俺は語りたい想いを忘れて二人にその男について詳細を訪ねるのだった。
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