第27話『部活紹介で』


 余計な邪魔は入ったが部活紹介は予定通り行われる。

 智子先輩からは『もう余計な騒ぎは起こさないでね』と釘を刺されたが俺は断じて悪くないと言いたい。


 そういやあの眼鏡帰ったけど部活紹介観ないのか?

 別に気にしてないけど男子は部活入らなきゃヤバいんだろ、別に気にしてないけど。


 と思いながら辺りを見回したら後ろの方の席にいた。

 目が合うと俺を忌々しそうに睨んでくるので、まれちゃんの髪を撫でてたら視線が鋭くなった。


 急に髪を撫でられながらもまれちゃんは嫌がることもなく甘えるように俺の肩に頭をコトンと乗せた、見てるか眼鏡野郎!


 この子の髪を撫でるのも、甘えてもらうのも俺だけの特権さ!


 射殺さんばりに視線が強くなったので煽るのはほどほどにしておく。


 この流れを隣で見てた千尋は『いいなぁ……わたしもいつか』とつぶやく。

 

 今日の千尋はやけに正直な気持ちを漏らしている、前に話した『本気でわたしに惚れさせる』その言葉の行動がそう遠くないうちに来るんじゃないか、なんとなく予感がしていた。


 そんなこんなもありながら部活紹介が始まる。


 最初の部活はダンス部、ダンスの事は全くわからないけどノリノリの曲に合わせて激しく踊るので見ている側はとても楽しく曲に合わせて手拍子も起こる。


 掴みはバッチリという感じで曲が終わると活動内容とメンバーの紹介が行われた。


 一発目だけど凄い盛り上がったな、千尋の隣に座るみくさんは『アタシ入ろっかな~』と目を輝かしてる。


 ダンス部の次は茶道部が紹介された。

 さっきまでの盛り上がりは一転静けさに包まれる体育館。


 しかし白けているではなくカメラ映像を介しながらお茶をたてる動作は圧巻だった。

 あぁやって作ってもらったお茶をズズッと啜って『結構なお手前で』とか言ってみたいよね。


 紗耶香さんは茶道部が気になったのか興味深そうに見ていた。


 その後も運動部、文化部と順不同で部活紹介は行われていき、理奈が所属する野球部の番となった。


 野球部の過去の試合映像やこれまでの成績の映像を流しつつ最後に部員たちが壇上に登場した。


「みなさん! 野球部ではマネージャーを男女問わず募集しています!」

「私たちと一緒に甲子園目指してがんばりませんかー?」

「一年生のあたしたちもいっぱいいるよー!」


 理奈が最後に両手を振って野球部の紹介は終わった。


 彼女の母親は元プロ野球選手ということもあってその娘でもある理奈は注目の的だったらしく、彼女が登場した際は見ている生徒たちから『おぉっ』と声が沸いた。


 理奈は部活では既に夏の予選でのメンバー入りをするんじゃないかって言われているくらい凄い選手だ。

 もし甲子園に行ったら絶対に生で観に行きたいと思う。


 紹介が終わり捌けていく野球部員たちを眺める。途中理奈と目が合い小さく手を振ってくれた。


 俺の恋人は可愛いなぁ……。


 ニヤけそうになる頬を引き締めながら頭の中は理奈の事でいっぱいになっていたのだった。


 部活紹介も終盤に差し掛かる。


 前の部の紹介が終わり次の部活紹介の準備が始まった。


 マイクスタンドやドラムの設置をしている、次は軽音楽部か。


 俺が一番楽しみにしていた部活だ。


 更にギター、ベースを持った部員たちが現れる。

 

 その中で一際目立ったのが銀髪の女の子だ。


 マイクスタンドの高さや、音の具合を調整しているしボーカルかな。


 調整が終わり準備OKとなったのか、合図をして観客たちの方へ向いた。


「えーこんにちは、軽音楽部です!」


 ボーカルの子が紹介を始めると一部の集団たちから『きゃー日笠さん!』『こっち見て奏ー!』と歓声が上がった。


 すごいな『かなで』って書いた団扇を持ってる人もいるぞ。

 余程人気がある人なんだな……。


 さっきまで気付いてなかったけどあそこの集団は上級生たちか、部活紹介関係ないけどこのライブの為に居たのだろうか。


「じゃあいつものあの歌いくから、みんな掛け声お願いね! 一年生たちもノッていっちゃってね!」


 ドラムのリズムから曲がスタートされる。

 上級生たちにはお馴染なのか曲に合わせた手拍子と掛け声で一緒に参加している。


 アップテンポ調で自然に身体を揺らしてしまうような曲だ、俺たちも自然に身体を揺するように動いていく。


 曲はサビに突入してどんどん盛り上がってきた。

 

 そんな中ステージの真ん中で歌うボーカルの女の子に目を奪われる。


 惚れたとかそういうのじゃなくて、なんていうのかな……。


 ――恰好いいな、輝いてるなぁ。


 小さい頃、モテたいと初めて思ったアイドルの歌う姿。

 アイドルとバンドでは違うけど、なんだかその時の映像とこの子が重なって見えた。


 ――俺もあんな風になりたいな。


 あの女の子みたいになりたい、俺もあんな風に輝いて歓声を浴びたい。


 ――軽音部に入ろう。


 ただモテたいからと思って入ったあの時とは違って、もうひとつ目標が出来た俺は軽音楽部に入ることを決意したのだった。




「部活紹介楽しかったねー」


 全ての部活紹介が終わりまれちゃんと共に家路に着く。


 理奈はあれから練習があるので学校に残り、千尋たち三人は『作戦タイム』と言って喫茶店へ向かった。

 作戦てなんのことだろう、明日聞いてみよう。


「最後の料理部のアレは驚かされたけど、楽しかったね」

「お、お姉さんね、あはは……」


 部活紹介のフィナーレを飾ったのは料理部だった。

 

 なんで料理部って思うだろうが、紹介も併せて新入生へ手作りのクッキーが振舞われたのだ。


 そして料理部の部長は姉さんである。


 壇上で俺の姿を探してた時から嫌な予感がひしひしと感じたよ。


 他の部員たちが配り始める中、真っ先に俺の元にやってきて姉さんは『はいけいちゃん! お姉ちゃんからの愛のこもったクッキーだよ!』と言ってのけたのだ。


 まれちゃんは『や、やっぱり……』とわかってた様子だが他の人からすれば『えぇ、一ノ瀬会長!?』『気高い会長がまるで乙女みたい……』とちょっとした騒ぎになってしまった。


『ね、けいちゃん、お姉ちゃんの愛のこもったクッキーだよ。食べて欲しいなぁ』

『ね、姉さん他の人も見てるからさぁ……』

『お、お姉さんちょっと……』

『む、まれかちゃん邪魔するの!? 義理の妹になる予定だからってけいちゃんとの時間を奪うのはお姉ちゃん感心しないよ!』

『姉さんそういうわけじゃなくてね』

『何やってんですかあなたは!』


 以前の時と同じようにハリセンで頭を叩かれた姉さんは智子先輩に連行されていった。

 去り際の智子先輩からは『騒ぎ起こすの止めてって言ったよね?』と怒られた。


 俺のせいではないと声を大にして言いたかったが、自分の姉のせいであるので『すみません』とペコペコするしかなかった。


 姉さんは今頃きっと智子先輩に説教されてるに違いない。


 気高い姉さんて本当誰だよ、去年まで姉さんて学校でどんな存在だったんだか。


 まぁ結局渡されたクッキーは美味しかったので連行されてる途中に『クッキー美味しいよ!』って声を掛けたら『やったー!』とピースしていたのはなんか可笑しかった。


 そんな騒動もあってか結構疲れてしまった。


「ねぇけーくん、アレのことなんだけど……」

「アレ?」


 申し訳なさそうに伝えられる、いったい何のことだろうか。


「その、他の男子に告白されてるって、けーくんに言ってなくてその……」

「あぁ、なんだそのことか」

「ち、違うの! 本当にけーくん以外の男なんて興味なくて迷惑だっただけで」

「まれちゃん、わかってるよ」


 取り繕うように言葉を出す彼女の両手を包むように握る。

 その話は既に彼らに聞いていたんだから驚くこともないし何も気にしていない。


「まれちゃんが他の男に告白されるのはそれだけまれちゃんが魅力的ってことだから何も悪い事なんかじゃないんだよ」

「け、けーくん……」

「それにしたって他の男たちは可哀想だよ」

「……それってどういう?」

「だって俺は君を絶対に手放すつもりもないし、盗られるつもりもないんだ。何をしてこようと無駄さ、例え何があっても君を離さないよ俺は」

「……」

「……ってちょっとくさくてキモかったかな。でもそれだけまれちゃんの事が好きで好きでしょうがない、心から愛してるんだ」


 これまでずっと共に在ったまれちゃん。

 今更彼女が離れることなんて想像もつかないし、したくもない。


 以前に別れる想像をしてしまったけど本気で落ち込んでしまったんだ。


 彼女に恋したあの日から今もずっと彼女への想いは増し続けている。


 だからあの眼鏡野郎はもちろん、誰にもまれちゃんを渡さない。


「わたしも……」

「まれちゃん?」

「わたしもけーくんから離れるつもりもない! ずっとずっとけーくんと一緒にいる! けーくんの事愛してるんだから……っ」


 想いを返してくれた彼女へ言葉はいらない、彼女もわかってるようで目を瞑る。


 夕日をバックに俺とまれちゃんは長いキスをしたのだった。




「まれちゃん、週末デートしようか」

「……うんっ」


 幼いころからの約束。


 それを果たす時は目前に迫っていた。

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