第14話『自己紹介タイム』☆
理奈の事、俺以外存在しない男子生徒。
問題は山積みだが、そんな俺を置いて先生の話が始まる。
「さっきも伝えましたが、改めてみなさん入学おめでとうございます。城神高校はあなたたちを歓迎します」
教壇に立つ先生は名前を
「とはいえです、皆さんが配属されたのはEクラスです。ご存じだと思いますが我が校は入学試験の出来によってクラスが割り振られます。この事実はあまり嬉しくないでしょう、そのことを常々忘れないようにしてください」
教室に緊張感が走る、この学校にはFクラスまで存在するがFはスポーツ推薦クラス。
一般学生はEが最底辺となる。要はEクラスというのは城神高校においての最底辺クラスということになる。
そのことを感じ取った生徒たち一人ひとりの表情が変わる。
『こんなところに居られない』
『来年こそは……っ』
と、決意のこもった表情に変化していく。
この世界の高校生活というのは、前の世界のような青春を謳歌するだけの所ではない。
自分の人生を決めるターニングポイントになるところでもある。
『数少ない男性に目を向けてもらう為に女は常に努力すべし』
これは外見の話だけではなく、学問、生活力、様々な意味を含めている。
もちろん覚悟を決めたのは女の子たちだけではない。
そう、俺の事だ。
幼い頃から頭脳明晰で優秀なまれちゃんは、この先学年が上がってもAクラスを維持し続けることだろう。
このままEクラスで燻ぶっていては高校生活で彼女と同じクラスになることなく終える事となってしまう。
――来年こそはまれちゃんと……。
壊滅的な成績だった俺がこの先、どれ程の成果が必要なのかはわからない。
けれども、愛する彼女と同じクラスで過ごすこと、それこそが俺の今の望みなのだからその為に努力をしていかなければならない。
来年はこのクラスのどれだけが上のクラスに上がるかが見物だろう。
生徒たちの決意を受け取った鷹崎先生は満足したように頷き話を進める。
「とはいえせっかく入学したのですから、三年間素敵な思い出を作るのも大事ですよ、華の高校生活を皆さん満喫してくださいね」
先生は笑ってパンッと両手を合わせる。
少し真剣になりつつあった空気が和らいでいった。
「それでは最初ですので皆さんに自己紹介をしてもらいましょう。まずは廊下側の前の席の方からお願いしますね」
そうして自己紹介が始まると思ったが『あ、そうだ』と先生は付け足して俺を見据えた。
「男子生徒の貴方は最後でお願いしますね」
なんでだろう?
疑問には思ったが、特に異を唱えることはしなかったので順番に自己紹介が始まっていく。
自己紹介はシンプルに名前と出身校、そして好きなことを発表する程度でスムーズに進行されていく。
やがて隣の席のみくさん、俺を飛ばして紗耶香さんたちへ回ってきた。
「西飛道中学校から来ました仙道みくでーす、趣味は休日にアクセサリーを買いに都市部のお店を回る事かな、みんなよろしくねっ」
「西飛道中学校から来ました砂村紗耶香です、趣味は読書なので学校でも読書を楽しもうと思います、みなさんよろしくお願いします」
そして自己紹介は進んでいき……本名不詳のピンク髪の少女へと回る。
「
自己紹介を終えたらすぐに着席をし、周りの反応を見ずに下を向いてしまった。
結構後ろ向きの性格なのだろうか、言葉も詰まっていたり、電車の時もかなりビクビクしていたし。
……いや、痴漢されたら誰だって怖くて震えるよな。
先程は事なきを得たが、改めて彼女にもう一度誠心誠意謝罪を謝罪をしなければ。
どこかで佐良さんと二人きりになれるタイミングがあればいいんだけど……。
――まてよ。
そもそも痴漢した男と二人きりになってくれる女の子っているのか?
……居ないだろう。
謝罪を切り出す場を作るのも難しそうだな、と思いながら自己紹介は進んでいく。
そうしてクラス内の女子生徒の自己紹介が終わりようやく俺の番へ。
さて、俺の番か。
みんな簡単に一言で終えてるし俺も趣味はギターと運動とでも言っておけばいいか。
「男子の貴方はしっかりと自己紹介をお願いしますか?」
「へ?」
なんでだろう、適当に済ませようとしたのがバレたのかな。
「ごめんなさいね、男子生徒である貴方の自己紹介が皆一番聞きたいはずなので」
鷹崎先生はそう言って、申し訳なさそうに言った。
そういえば高校生活は婚活でもあるって朝にまれちゃんが言ってたな。
恐らくはその関連でもあるのだろう。
よし、ならばしっかりと自己紹介をしよう。
「俺の名前は一ノ瀬恵斗です。もっかい言いますけど一ノ瀬恵斗ですよ! ここ大事ですからね!」
大事なことなので二度言わせてもらった。
鷹崎先生は『はぁ……』と言った顔をしているけど重要なことなんですよ。
俺は王子様じゃないよ、一ノ瀬恵斗だよ!
――みんなニコニコ聞いてるけど、本当に覚えてくれたんですかね……。
「えーと、自分は東葛中学から来ました。家族は母と姉に妹。姉さんはこの学校の三年生でもあります。妹とはゲームしたりと仲は良いですね」
まずは出身校と家族構成について話す、何かメモを取ってる子がいるけどそんな大層な情報じゃないと思いますよ。
「好きなことはギターを弾いたり、友達とキャッチボールしたり、苦手なことは……勉強です。子供の頃に全く勉強せず遊び呆けていたのでこうしてEクラスにいます……ははっ」
少し自嘲気味に笑いを零すと『一緒のクラスになれて嬉しいよ王子!』とみくさんが声を掛けてくれた。
それに続いて同じように声が上がっていく。
優しい女の子たちだなぁ、涙が出るよ。
あと俺は王子じゃなくて一ノ瀬恵斗ね。
「最後に、自分の生まれた地区には他の男の子がいなかったんで、この世の中の男の子という存在を知らないんです、だからここ城神高校で男子生徒に会えるのが凄く楽しみでした――あれ?」
突如首を傾げた俺に、クラスメイトたちもどうしたのだろうかといった反応を見せた。
「えーと、鷹崎先生。自己紹介の途中なんですけど質問いいですか?」
「え、えぇ……」
自己紹介を切り上げて鷹崎先生を挙手をしながら用件を伝える。
許可はもらったので俺は聞くことにした。
――何故他に男子生徒がいないのかを。
……いや、薄々気付いていたけど一応確認をしたかった。
「城神高校ってひとクラスにだいたい二人は男子生徒が配属されるって聞いてるんですけど……、なんでEクラスには男子生徒がいないんでしょう?」
「あ、あぁ……それはその、ね……」
俺の質問に鷹崎先生は、スッと目線を逸らし、言いにくそうに言葉を濁した。
「……本当はEクラスに男子生徒が配属される事自体が無い事なんですよ、その……いくら成績が悪いとはいえ男の人に失礼って考えもあるので……」
――Eクラスに配属されるのはありえない。
その事実が俺の胸に突き刺さっていく。
「でも……一ノ瀬君の場合、あまりにも、その……」
ここで鷹崎先生は口を閉ざしてしまった。
……もう大体察しがつきましたよ。
俺は笑顔で鷹崎先生へ投げかける。
「先生、言ってください。どんな結果でも受け止めますから。俺はどうしてEクラスなんでしょう?」
「……試験の結果が酷すぎたので、特例でEクラスになりました。他に男子生徒がいないのはそれが理由です」
「……かふっ(崩れ落ちる音)」
「王子様ーっ!?」
膝から崩れ落ちた俺を隣の席の紗耶香さんが心配そうに声を上げた。
本当にさぁ……何やってんだよ俺。
これでも人生2週目なんだけど……、過去には成績上位者にも入ったことがあるんですけど……。
能天気に生きすぎた結果、ここまで落ちぶれることになるとは……。
あまりの馬鹿さ加減に身体の力が入らない。
「と、とりあえず自己紹介は以上です……」
「ど、どうか元気を出してね……?」
「……ありがとうございます」
優しい先生だ、意気消沈しながら着席する。
何とも微妙な空気になってしまったけど、鷹崎先生は『そ、それでは』と一旦咳払いをしてから話を続けた。
「ここからは個人へ質問したい方がある人は挙手をしてください、といっても全て一ノ瀬君宛てになるでしょうけど……」
「……そういうものなんですか?」
「そういうものなんですね」
にっこりと大人の余裕がある笑みで返された。
なるほど、と納得をしていると佐良さんを除くすべてのクラスメイトから手が挙がる。
……みんな積極的ね。
「では、まずは中野さんからどうぞ」
指名をされた女子生徒は立ち上がり俺を見据える。
「はい、今朝王子様を見かけた時二人の女子生徒が一緒に居ましたけど、彼女たちはもう婚約者なんですか?」
あぁ、朝の登校の様子か。
特に隠すことでもないので素直に答える。
「一人は俺の幼い頃からの彼女だよ、将来は結婚するつもりだね。もう一人も前からの友達なんだけど、特にそういう関係……ではないかな」
「なるほど、さすが王子様、もう枠が一人埋まっているんですね!」
「ありがとう、あと俺は一ノ瀬だからね」
「はい、王子様!」
どうして……。
徹底的に苗字呼びをスルーされることに泣いた。
中野さんは着席をし、すぐに他の生徒たちからも手が挙がる。
「はい、じゃあ次はアタシお願いします!」
「はい、仙道さんどうぞ」
隣の席のみくさんが立ち上がった。
「えと、王子はどんな子がタイプですか?」
「タイプかぁ、一緒にいて安心できる、楽しい女の子が俺は好きかな」
「なるほどね、アタシは一緒にいると元気が出るねってよく言われるよ!」
その後も代わる代わる質問が続き、時間いっぱいまで俺の事に関することが聞かれた。
今まで出かけたところ、好きな女優さん、好きな食べ物、一番良い思い出等々、根掘り葉掘りって表現がふさわしいくらいに。
「はい、じゃあ時間もいっぱいなので質問タイムは終わりにします。今日はこれで下校していいので明日から皆さん授業を頑張りましょう」
「つ、疲れた……」
ずっと喋りっぱなしだったぞ俺。
やっと解放されて机に突っ伏す、しばらく動きたくない。
けれどそういうわけにもいかず……。
「ねぇ王子」
「……うん?」
机に突っ伏していると、みくさんから声を掛けられる。
「話があるから付き合ってくれる?」
佐良さんを指さしてにっこり微笑まれた。
紗耶香さんも同じように俺を見ている。
まだまだ今日は終わらなさそうだな……。
そしてこの時。
何故先に、大事な彼女たちへ事情を説明しにいかなかったんだろうと、後になって後悔をしたのだった。
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