第5話『野球少女の柚月理奈』☆
体育の授業、この時間は俺にとって何よりも素晴らしい時間である。
授業内容的に自然と服装はみんな体操着になる。
ということはつまりだ……。
目の前に映る光景は何もかもが目の保養だということだ。
ここは異世界ではあるが日本みたいなものだ、そして前の世界では大分廃れてしまった文化『ブルマ』がここには未だに存在している。
そしてこの世界の女性のほとんどが容姿、身体に対する意識がとても高いので、美しく可愛い女性が多く存在している。
小学校の道徳では『数少ない男性に目を向けてもらう為に女は常に努力すべし』といった教えを耳がタコになるほど聴かされるらしいので、この世の女の子はとても美に対する意識が高い。
そんな中でのプールの授業は最高だった。
何処を見ても美少女がプールでキャッキャとはしゃいでいるのだ。
とある部分を収めるのに必死だったと言っておこう。
ちなみに俺は強制見学でした。
ナニが起きてしまっては責任をとれないという方針らしい。
一体ナニが起きる想定なのだろうか。
それと体育で俺が着替える時はとある個室へ移動し、ガードマンが部屋の前で見張りを立つということが起きる。
これもナニが起きてしまってはいけないという学校の配慮らしい。
本当ナニが起きるんでしょうかね……。
そういうわけで、今年度最後の体育の授業となった今回は野球をすることになった。ちなみに体育の授業は隣のクラスと合同に行っている。
「けーとっ、 一緒にキャッチボールしよっ!」
各自が軽い準備運動として相手を探す中、俺へ真っ先に声をかけてくるこの女の子は
スポーツをする時は特徴である赤い髪を後ろで束ね、ポニーテールスタイルとしている。
昼休みに来ることが出来なかった俺とまれちゃんの友達だ。彼女もまれちゃんと同じで、中学に入る前からの友達である。
いつでも元気で笑顔なので、一緒にいるとこっちも楽しくなるような存在である。
「いいよ、やろうか」
「やたーっ、それっ!」
速い球が放られる、それを俺は難なくキャッチして理奈へとボールを返す。
「相変わらずセンスがいいねけーと、一緒に高校でやろうよ」
「マネージャー業はあまり興味がないなぁ」
キャッチボールをしながら彼女と会話を交わす。
いつものように理奈は俺を野球部へと誘おうと試みる。
「ちがうよっ、選手だよ!」
「それこそ無理だって、いつも言ってるじゃん」
「むーっ、勿体ないなぁ……」
大体いつも一緒に野球をやろうと誘ってくるがこの世界は女子野球しかないから無理だ。
「絶対高校ではけーとを野球部に入れるんだから!」
「城神高校野球部強いとこじゃん、俺じゃついていけないって」
――都市部城神高校。
4月から俺とまれちゃん、理奈が進学する高校だ。
都市部でも有名な学校で、理奈はここの野球部の特別推薦を受けている。
甲子園に常連で出場しているとても野球が強い強豪校だ。
「じゃあ同好会作るよ! それならけーとも参加できるでしょ!」
「強豪校の練習ってハードらしいし、理奈が同好会なんてやってる暇ないんじゃない?」
「うぅー……でもでもぉっ!」
今日は中々折れてくれない。普段なら既に『しょうがないなぁっ!』と彼女はスッパリ諦めるのだが……。
明らかに落ち込んでいてシュンッとしてしまい、ボールを投げる手が止まる。
「こうしてキャッチボールくらいならいつでもするからさ」
「本当? 本当にいつでもキャッチボールしてくれる?」
「理奈とキャッチボールするのは俺も好きなんだよ、だから、ね?」
「……うん、わかった! 約束だからねっ!」
再び理奈に笑顔が戻る。
うん、いつでも元気な彼女にはやはり笑顔が一番だ。
準備運動を終え試合をすることになった。全員が参加できるように守備交代自由の無制限で打順は全員に回るルールで行っている。
「よーっし! バシバシ三振とるぞぉーっ!」
相手のチームのピッチャーは理奈だ。相応の加減をしてくれているとはいえ既に強豪校の推薦が決まっている理奈。正直かなり分が悪い。
宣言通りどんどんと三振をとっていき全くヒットが出ない。
「うぅ……、りなちゃんのボール速いよぉ」
まれちゃんも当然のように三振して帰ってくる、ちなみにまれちゃんは運動が基本的に苦手、どんな人間にも必ず弱点はある、俺にとっては聖女のようなまれちゃんにも苦手なことがあってとても可愛い。
「けいくん~……」
「よしよし、残念だったね」
落ち込んで帰ってきた彼女を抱きとめる。俺に抱き着いたのは打算もなく本気で落ち込んでしまって慰めてほしいからだと思う、理奈の球を打てるわけがないのにショックを受けてしまうまれちゃんはホント可愛い。
授業中も構わず俺たちを咎める人はおらず、それどころか拝んでる人も出てくる。みんなで試合そっちのけかいっ!
「えっへへ~、ぜっこうちょう~!」
一方の理奈は次々と三振を取っていきとてもご機嫌な様子らしい。
あの子あれでもかなり手加減をしてるんだから凄いよ、理奈が出てる試合を見に行ったこともあるけど、あの時は完全試合を成し遂げてたしこの子は野球超人だと俺は思っている。
「お、そろそろ俺の番か」
点も取れないがこちらも相手をしっかり押さえこみ、投手戦が続いている。相手の攻撃を抑え再びこちら側の攻撃になり、順番的に次の次が俺の番だ。
ちなみに俺は守備には着いてない、クラスメイトに『プリンスを立ちっ放しにさせるなんてとんでもない!』と止められたからだ。
変に意地を張って無理やり守備に就くのも彼女たちに悪いので、遠慮せずにベンチで試合を眺めさせてもらっている。
前の二人のバッターも三振に倒れ俺の番が回ってくる。理奈と対戦するのは久しぶりで少しわくわくする。
「むっ、 来たねけーと! 手加減しないよ!」
「いやいや、手加減して?」
マウンド上で胸を張って宣言する理奈に苦笑する。
野球超人理奈のボールを手加減なしで打てるわけないし、お願いしてなんとか手加減してもらえることになった。
「いっくよー!」
まず1球目、速いボールでタイミング合わずに空振り。
あいつ本当に加減してんですかね……?
2球目も同じく速いボールでこれまた空振り、完全に振り遅れてしまっている。
「少し短く持つか」
グリップを拳分位の隙間を開けバットを持ち直す。
そして3球目に備えるが――。
「――は?」
1.2球目と比べ物にならない早いボールが来て見事な見逃し三振。
おいおい理奈さん……?
なんか試合で見た時と変わらない速さなんですけど?
「ごめんね、プリンス。理奈あぁだから……」
理奈と野球部のチームメイトであるキャッチャーの子が、呆れた様子でマウンド方面を指さす。
釣られて俺も顔を向けると理奈がVサインをしていた。
「えっへへ―! あたしの勝ちーっ!」
おまけにぴょんぴょんと飛んで喜びを爆発させている。
まったくあいつは……。
彼女のはしゃぎっぷりを見ると悪意なんてなく、本気で喜んでいるのが伝わる。
『理奈の事だからまぁ……』と、呆れながらも納得できたので大人しくベンチに戻ってまれちゃんに慰めてもらった。まれちゃんありがとう、好き。
結局試合は理奈の奪三振ショーとホームランで相手の勝利、理奈無双で中学最後の体育が終わった。
「ごめんね、けーと」
各自割り振られた道具の片づけをしていると、理奈が申し訳なさそうにこちらにやってきた。
「どうしたの急に?」
「だって手加減するって嘘ついちゃった……」
試合中はあんなに喜んでいたというのに、今ではしゅんとしてしまって、まるで叱られた子犬のようだ。
この素直さが彼女のとても良いところでもある。
もちろん彼女を非難するつもりが俺には微塵も無い。
「理奈が真剣に勝負したかったんだからいいんだよ、つか打席で見ると理奈のボールはあんなにも速いんだな。この間の完全試合も納得だよ。せめてバットぐらいは振れる反応をしたかったけど悔しいな」
「お、怒ってないの……?」
「怒るわけないじゃん」
むしろたいした相手にならなかった俺の方が悪い。
せめて次は前に飛ばすぐらいはやってやらないとな、帰ったら素振りでもするか。
「ほら、その落ち込んだ顔はもう終わり。いつもでも素直で笑ってる理奈が俺は好きなんだから、落ち込まないくれよ」
「好き……、えへへっ、ありがとけーと」
理奈は溢れんばかりの笑顔を浮かべる。
うんうん、この子に落ち込んだ顔は似合わないしこうして笑ってるのがよく似合うよ。
「りなちゃん、わたしにも本気だったよね……」
恨めしそうにやってくるまれちゃん、だがそんな彼女に理奈は。
「へ? まれには思いっきり手加減したよ?」
「えぇっ、凄く速かったよ!?」
「まれは野球へたっぴだもん!」
「ひどいよっ、りなちゃん!」
最後にオチがついてしまったが、本気で投げられたと勘違いしていたまれちゃんは凄く可愛くて俺と理奈は大笑いしたのだった。
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