第4話『まれちゃんには敵わない』
俺がこの世界に転生して初めて友達になった女の子だ。
彼女とは小さなころに出会い、今もずっと付き合いが続いている。そしてある事をきっかけに俺が恋をしてその後恋人になった。
彼女とは三年間ずっと同じクラスで過ごし今に至り、学校公認の仲でもある。
朝のプチ
中学校生活も残す所あと少し、四月からは高校生活が始める。高校からはいろいろと将来のことを考えなければならなくなるが、ひとまずはもう一度始まる高校生活が楽しみでもある。
「けーくんお昼たべよ~」
「あぁ、今準備するよ」
午前の授業が流れるように終わり時間は昼休みへ、前の席に座る彼女は椅子を回してこちらに向き直り可愛らしいお弁当を机に置いた。
「相変わらず早苗さんの用意するお弁当は可愛らしいね」
「わたしもママも可愛いの大好きだからね~」
話しながらにこにこお弁当を開ける、今挙がった『早苗』さんという人は彼女の母親のことだ、家族ぐるみの付き合いで俺もよくお世話になっている。
「そういえば理奈は?」
いつもなら弁当を用意してる頃に合流する隣のクラスの子、俺たちの友達である『
「りなちゃんは今日後輩と一緒に食べるって連絡があったよ」
スマホのチャット画面を見せてくれる。『ごめんねっ、お昼後輩たちに誘われていけなくなっちゃった!』『二人でいちゃいちゃしててね♪』と載っている。
いちゃいちゃって……、まぁ朝からほっぺとはいえキスしてるぐらいだし否定はしないけども。
「理奈は後輩に慕われてるなぁ」
「野球部のエースだもんね」
理奈は野球部のエースで4番、将来はプロ野球選手になるんじゃないかってぐらいに野球が上手だ。以前もいったがこの世界では当然女子野球である、男子野球は人数が足りず存在していない、もし男子が野球に関わるなら選手ではなくマネージャーになるだろう。
「でもけーくんも野球上手だよね、りなちゃんとたまにキャッチボールしてるんでしょ?」
「キャッチボールくらいならね、とてもじゃないけど本格的にはできないよ」
「けーくんは野球に限らず運動神経高いからなぁ、スポーツやってみるとおもしろそうだよ」
「嬉しいけど本格的にやる気はないかなぁ」
この世界の男子基準で言えば俺はわりと運動神経が良いほうだ。なぜ高いのかといえば前世でモテるために頑張ったからどう動けばいいか頭で覚えているということ。だらしない男子でいるのは嫌だからある程度身体も鍛えているしそのおかげでもあるだろう。
「それに運動だけじゃなく歌も上手だし、ギターなんてどこで覚えたの?」
「あー、ネットとかで独学でなんとなくかなぁ」
モテるためにやってました。とは言えないがそれとは別でせっかく趣味にするくらい好きだったわけだしこの世界でも以前の趣味は続けていた。ある程度コツはわかっているので身体さえ慣れればキャッチボールでもギターでもなんとかなるものなのだ。こういうことを考えるとやはり前世知識ってかなりのアドバンテージだと感じる。前世でモテまくってたり成功してる連中って実は2回目の人生でも送ってるんじゃないかな。
ちなみに少し関係ない話になるがこの世界での男は小学校に通わない、何故ならば好奇心旺盛な育ち盛りの女の子が珍しい男に何をするかわからないからだ。昔それがきっかけでとある男子が極度の女性不振に陥るという事件があった為小学校での義務教育はなくなった。同様の理由で保育園や幼稚園というものはない。
そしてそれが理由で小学生を送る予定だった6年間は暇だったので体を鍛えたり趣味を増やしたりしていたのである。
「けーくんは何でも出来て本当にすごいなぁ……」
「でも頭はからっきしだよ、俺と違ってまれちゃんは勉強が凄くできるし凄いじゃないか」
そう、俺がこの世界に生まれて唯一苦戦していることが勉強なのだ。
最初は前世持ちだから余裕と高をくくっていたのだが、いざ蓋を開けてみればテストは平均点ギリギリ、今日の抜き打ちテストは見事平均点以下を叩き出した。
そりゃあね、前世はモテたい為に勉強はそこそこ頑張ってトップ10位以内には入っていましたよ、もしかしたらクラスの女子に『勉強教えてほしいなぁ』とか言われてお近づき案件が起こるかと思ってね、そんなイベントは一切起こらずに卒業しましたけども!
そして今世ではねぇ、何もしなくてもモテてるんだから運動や趣味は別として勉強はあまり頑張ってないんだよ、学生時代の内容なんて何十年以上も経ってんだから覚えてるわけないじゃん。社会で使うような簡単な英語とか基本的な算数は出来るよ、けどさ、因数分解? 二次方程式? 物理に化学? そんなもの一般社会では使わないんですよ、つまり忘れたのさ!
6年間ちゃんと勉強していればよかったのではという意見は割愛する。
「まれちゃんがいないと俺は課題も終わらせられないくらい馬鹿なんだ……」
余談だが歴史も前世とまるで違う事を辿っているのでこれもボロボロである。
「つまり俺なんてただ男なだけでなにも凄くないんだよ、もしここに他の男子がいればみんなそっちに目移りするはずだよ」
自分で言ってて正直凄く悲しくなってくる。
そう……、あれはいくら頑張っても生徒会長に勝てないと思い知った時だったかなぁ。
それともイケメンのバンドマンのモテっぷりを見てた時だったかなぁ。
「ふふっ、そんなことないよ、みんなけーくんが好きなのはけーくんだからだよ、きっと他の男の人がいてもそんなの関係ないよ、それにわたしは何回か都市部で男の人見たことあるけど、誰を見てもけーくんのが素敵だったよ。多分けーくんが抱いてる他の男性像とわたしたちが知ってる男性は違うはずだよ」
悲しい昔を思い出しそうになったとこだったが、にこっと笑いながら希華は俺の悲観的な想いを否定してくれた。
「あとね? けーくんは弱点なんか無いすごい人なのっ、お勉強はわたしと一緒にお勉強してくれるためにわざと頑張らないでいてくれてるの知ってるんだからねっ?」
「そんなことはないんですけど!?」
彼女は本当にそう思ってくれてるのだろう、たしかに一緒にいたい気持ちを思っていたのは事実だが実際に勉強ができないのは本当に俺の実力である。まれちゃんの聖母のような優しさが心を抉る。
「……もっとお勉強もできるの知ってるんだから、本当にけーくんは優しいんだからっ」
頬を染めてニコッと手を組む希華。
……あぁ、その顔をされたら見惚れてもうなにもいえないや。
惚れた女に男は一切敵わないのである。
「今日も一緒にお勉強しようね?」
「う、うん……」
「えへへ、楽しみだなぁ! けーくんが来るとお母さん喜ぶんだよっ」
結局流されてしまったが彼女と一緒にいられるのは俺も本望ではあるし……。
なんだかんだ放課後のことを楽しみにしながら昼休みは過ぎていった。
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