第3話『幼馴染で恋人のまれちゃん』
この世界の男女比はとても偏っている。
俺の住んでいた世界とは比べ物にならないくらいに
世の中は女性が多くを占めており、テレビに映るのはもちろんほとんどが女性、役者も芸人もアイドルもスポーツ選手もほとんどが女性だ。
もちろん中には男性もいるが本当に稀である。
テレビドラマの男役は大体が女性が代役をしており、超有名ドラマやスペシャルの時なんかに出演するくらいだ。
そうでないと引っ張りだこすぎて身体がその名の通り持たないのだろう。
スポーツも野球やサッカーといったものはあるが全て女性選手だ。
男性が存在するスポーツは全て個人競技の卓球やテニスなど、チーム競技するほど男がいないからだろう。
ちなみに相撲は存在がなかった。そんなに観たことはなかったが相撲が存在しないことは元の世界の日本人としてショックだった。
そして俺は自分以外の男性という存在を生まれてから未だ生で一度も見た事が無い。
母さんは人工授精で俺たちを産んだため結婚はしていないから父親はいない。
近所に住む人たちは全て女性、現在中学校に通っているが学校全員が女子生徒。何処も彼処も女性でありふれている。
来年進学する高校は推薦で決まっておりそこには男子がひとクラス二、三人の割合で存在するようだ。今から他の男子に会える時が楽しみである。
ちなみに推薦の試験は面接だったわけだが『ご希望されるクラスメイトのイメージ像はお決まりでしょうか?』『当校に用意しておいてほしいものはありますか?』等というとても試験とは思えない聞き取り調査みたいなものだった。
男という存在なだけで志願書を出せばそれだけで合格なのだろう。
こういう感じでとにかく男に優しく甘い世界であり、男として生まれた俺は既に人生イージーモードだ。
俺はこの世界で今度こそモテモテライフを送るんだ!!
まぁ実はその夢は……。
「一ノ瀬君おはよう」
「桜井さんもおはよう」
「今日も一ノ瀬君はかっこいいね!」
「あはは、ありがとね」
「一ノ瀬君昨日妹とクッキー焼いたんだけどよかったらもらってくれるかな?」
「おぉ、有難く頂くよ、前橋さんの妹さんは芽美がお世話になってるからね、よろしく言っておいてくれる?」
「一ノ瀬君今日の宿題やってきた? 今日はそこの内容から今学期最後のテストするって噂だよ」
「そうなんだ、宿題はしっかりやってきたから大丈夫だよ、不安だし今から復習しようかな」
「あ、じゃあ私も一緒にいいかな?」
「ずるーい! あたしもいいでしょ!?」
「わたしもわたしも!!」
既に叶ってしまっている。
あれ程憧れたモテモテな自分、それがただ男であるというだけで簡単に手に入ってしまった……。
なんだろうこの虚無感、主に前世に対して。
とはいえやはりモテているのはとても気分が良い、遠くから見ることしかできなかったあの時の光景が自分に置き換わっている。
そもそもこのクラスには一人しか男子がおらず、元の世界のサークルの姫みたいな感じだ。
彼女たちも希少な男子と話したいのだろうからひっきりなしに声を掛けられる。
毎回相槌をうつのはもちろん大変だが今世でも『人に優しく』を座右の銘に掲げている自分にとって蔑ろにする気はさらさらない、しっかり話を聞いて目を合わせて笑いながら返事をするのだ。
これは前世で読んだ人から好感を得られる方法という本に基づいての行動であるのだが、こうした反応が好感に繋がっているみたいでクラスメイトたちから受けはかなり良い、みんなに恋愛的とは言わないが好かれている自信が正直いってかなりある。
――あぁ、これぞ夢焦がれたモテモテライフ!!
実は子供のころに昔はモテる夢を一時期諦めるというか止めたい出来事があったんだけど、その話はまたどこかで語るとしよう。
と、そんな中自分を囲む輪が突然崩れ扉に向かって道のように広がっていく。
目を向けるとそこを歩いてきたのは、艶のあるプラチナブロンドの髪をしたセミロングの女の子、俺の幼馴染の
「きたわ、早川さんよ」
「道を空けなきゃ、一ノ瀬君に嫌われちゃう」
「いやいや……そんなことで俺は嫌ったりしないって」
「ダメよ! 早川さんを悲しませるとイコールで一ノ瀬君が傷つくもの!」
「一ノ瀬君と早川さんはイコールで成り立ってるの、だから早川さんが喜べば一ノ瀬君が喜ぶ、早川さんが悲しめば一ノ瀬君が悲しむ、私たちは一ノ瀬君にずっと笑っててほしいんだから!」
「あ、うん、ありがとうございます?」
俺は知らなかったことだが、彼女たちには謎の決まりがあるらしい、息の合った動きで広がっていきやがて俺の前には誰もいなくなった。
そして俺の前に立った彼女……早川希華はニコッと笑い。
「けーくんおはよう~」
例えるなら大輪の花が咲いた笑顔、声を掛けた彼女は俺にいつもの挨拶で……ぎゅっと抱き着いた。
「おはようまれちゃん、今日は時間に余裕だね?」
「うん、今日はいつもより早く起きれたんだ~」
「そっか、えらいえらい」
「えへへ~、ぎゅ~っ」
可愛さ、癒しの塊、全てを兼ね備えた最強の女の子がこの子、早川希華こと『まれちゃん』だ。
「はぁ……尊いっ」
「これよこれ、朝はこれを見なきゃ始まらないわ」
「あたしこれを見るためのおかげで今日まで皆勤賞なのよね」
列になっていたクラスメイトは再び輪になっていた。廊下へ目を向けると他クラスメイトが教室を覗き込むように集まっている。
なぜなのかわからないが俺とまれちゃんが抱きしめ合うのをみんな毎日見に来る、それもクラスだけでなく他クラスや下級生まで。
「けーくん、わたし今日早起きするのがんばったよ、だから……ね?」
「あぁ、わかったよ。よくがんばったねまれちゃん」
彼女はとにかく朝に弱い、登校してくる時は大体予鈴5分前くらいだ。
初めの頃は毎日迎えに行ってたりしたのだが、いくら揺すったり肩を叩いたり大きな音を立ててもまるで起きることはないし、起きたとしても完全に覚醒するまでは何もできないのだ。
そういうわけなので一か月くらいで朝に一緒に登校するのはお互いに諦めた。
もちろん遅刻したらまずい時とかは迎えに行くのだが、その時にまた苦労することがあるのでそこはまたいつか語ろう。
そんな彼女がいつもよりだいぶ早く登校してきたのだ、いつもの挨拶に加えてご褒美の要求をする。
もちろん俺は拒むことなくそっと彼女の頬へキスをした。
「きゃーーっ! 今日はレア日よ!」
「今日は一ノ瀬君のキスが朝から見れるなんてっ」
「はぁ~眼福眼福、今日も一日勉強捗るわ」
「私プリンスの挨拶見ないと過呼吸起きちゃうんだよね」
「多分アンタがこの学校で一番の中毒者ね」
「ねぇっ! 早川さんが来てるってチャットあったんだけど! もしかしてもう……!?」
「残念でした、今朝のプリンスと早川さんの挨拶は終わったわよ、今日はキス付きのレア日で」
「キス付き!? うそでしょ!? 朝からプリンスのプロマイド見て鼻血出して転んで制服の着替え直しがなければ間に合ってたのにぃ……っ」
「朝から何やってんの」
周囲の喧騒も関係なしに腕の中のまれちゃんはにこにこ笑っている。これがいつもの俺たちの挨拶でクラス、いや学校中の名物になっているものだ。
家族には挨拶とごほうびという名目でハグだけをしているが彼女だけは少し違う、おはようとさよならでは同じようにハグをするが頑張った時はご褒美には頬にキスをする。
これは早川希華という少女が俺の幼馴染であり恋人でもあるからこその特別なことで、昔から彼女と約束したことだからだ。
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