第2話『男女比のおかしな世界』


「昨日会見で官房長官は今年の男子出生率は昨年を下回ったことを発表、これで十年続けて下降中です」

「結婚する男性も毎年減ってきていますからねぇ……、これは次の選挙に大きく影響が出るでしょう」

「里中大臣が声を上げている一夫多妻制の枠増加……果たして実現するのでしょうか?」

「はっきりと声明はだしていませんがもう一つ考えている政策があるそうですよ、次回の会見が見ものですね」

「今後も与党の動きに注目ですね、以上夕方のニュースをお伝えしました。この後はお天気予報です」


 テレビで流れているニュースをぼうっと眺める。

 外もそろそろ日が沈んでくる時間帯、おやつも食べ終え宿題も終えた俺はやることもなくテレビを見ていた。


 ニュースの内容は全く頭に入っておらず右から左へ聞き流し今日の夕飯は何だろうか、そんなことを考えていると俺の頭にふわっと手が置かれた。


「けいちゃん~、ニュース見てるの? お利口さんだね~」

「あ、おかえり姉さん、帰ってたんだね」

「うん! ただいま~」


 ニコニコと俺の頭をなでるこの女の子は一ノ瀬明美あけみ、年は二つ上で現在二高校生、ツヤのある黒髪を背中までおろした俺の自慢の美人な姉だ。


「学校お疲れ様、今日は早かったね」

「部活も受験も終わったからね! それにけいちゃんに会いたかったからっ!」


 そして『んっ!』と両手を広げる。いつものアレのポーズだ。


「お疲れ様、今日もよくがんばったね」

「ん~っ! けいちゃん成分補充! お姉ちゃん幸せだよ!」


 背中に手をまわして軽く抱きしめてふわっと甘い匂いが鼻をくすぐる、姉さんは高校では料理部に所属していると聞いた。

 今日はお菓子作りをしてきたのだろうか、そんなことを考えていると耳元に姉さんの「はふぅ……」と吐息がこぼれてくる。


 姉だというのに耳を擽る甘い声にドキドキさせられてしまう。

 そもそも姉さんはとても綺麗なのだ、毎日のようにこうして抱きしめているがいつもドキドキする。

 

 十数秒くらいが経過しただろうか、離れた姉さんは元気満タンといった表情を浮かべていた。ただハグをしただけだというのにここまで喜んでくれるとやっぱり嬉しい。


「じゃあお姉ちゃんはお夕飯の準備してくるねっ!」

「何か手伝うよ?」

「いいのいいの、けいちゃんはのんびり待っててね!」

「いつもありがとね、夕飯楽しみにしてるよ」

「うん! お姉ちゃん頑張るよ!」


 笑顔を残して姉さんはキッチンへと向かっていった、手伝いは断られたけど皿を並べるくらいはいいだろう、続いてキッチンへ向かおうとすると階段から人が下りてくる音がする。


「兄さん」


 二階から降りてきたのは一ノ瀬芽美めぐみ、俺の妹である。

 自分と同じ茶髪寄りの色をしたショートボブ風の髪型をした女の子だ。


「勉強がんばりました、お願いします」


 先ほどの姉さんと同じように両手を伸ばしてハグの合図、いやそれはいいんだけども……。


「……1時間前にもやらなかったっけ?」

「芽美は1時間頑張りました!」


 なんとなくだがどやっとした表情で変わらずハグの姿勢、断る理由はないので姉さんと同様にぎゅっと抱きしめる。

 姉さんとは違うがそれでも女の子らしい甘い匂いが感じられる。


 芽美は背が自身の肩ぐらいなので頭がすっぽりと腕の中に収まる、年下ということもあって綺麗というよりは可愛い寄りな芽美、姉と同様妹であるがやはりドキドキする。けれども兄の余裕を少し見せておきたいと勝手に思い試しに片手で頭を撫でてみる。すると「んっ」と可愛い声が漏れた。

 

 ――や、やるんじゃなかった……。でも喜んでくれるし可愛い妹だから優しくしたいし……。


 結果的に余計にドキッとしてタジタジ、兄の余裕なんて所詮こんなものである。

 けれど芽美は喜んでくれたみたいで「えへ、兄さん♪」と語尾に音符がつくような調子で笑顔を向けた。

 俺の緊張度は鰻登りである。


 普段より少し長めに抱きしめ続け、途中勝手な自分の葛藤があったが、一方の芽美はとても満足したようで離れた後は溢れんばかりの笑顔だった。


「よし、これで夜も頑張れますっ」

「あんまり無理しちゃだめだよ、程々にね」

「ダメですっ、高校では絶対兄さんと同じ学校に行くんですから! でもまた頑張るんで後でぎゅってしてくださいね」

「いつでもおいで、とにかく無理しちゃだめだからね」

「えへへ、ありがとうございます兄さん! わたしも姉さんのお手伝いしますね」


 お願いされてやってるけど綺麗な姉と可愛い妹を抱きしめるのはただの役得であって結局のところ俺が一番嬉しいんだよね、緊張はしてるけれど。

 姉さんと夕飯の準備をする妹を見ながらそんなことを思った。さて俺も皿を出さなきゃな……。





 夕食の用意も終わりかけた頃、玄関のドアが開く音がした。どうやら母が仕事終えて帰宅したようだ。皿を並べた以降は手伝いにも笑顔で断られた為、特にできることもなかった俺は出迎えに玄関へ行く。


「お帰りなさい、母さん」

「今日も恵斗のお迎えでお母さんは嬉しいなぁ、ただいまー!」


 姉と妹にした同様のハグで母を出迎える。母親とはいうがまだ30代前半と言っても全然通用する人ですごく美人だ、姉さんが大人になったらきっと母さんみたいになるだろう。


 そしてこの母、一ノ瀬麻美あさみはボンキュッボンのナイスバディな人だ。つまり抱きしめるととても柔らかいものがあたるあたる。

 俺の背は母さんの肩ぐらいである為、抱きしめられると胸に顔が埋められてしまうのだ。おかげで俺はいつも腰を引かせなければならない、ナニがとは言わないが主張が激しくなるためだ。母ではあるがこればかりは仕方ない、本当に仕方ないのだ。


 もし母さんの身体に当ててでもしてみよう、母さんがどんな顔をするのかは容易に想像できる。明日からどんな顔をして生活すればいいんだ。


 そんないつもの役得と小さな葛藤な時間を終え離れた母さんは、見惚れるほどの笑顔を浮かべた。母親であるというのに毎回ドキドキさせられてしまうのは本当に仕方ない。


 この事あるごとにしているハグだが、元々は仲の良い幼馴染にごほうびにしていたものでそれを羨ましがった母が真似をし、やがて姉へ妹へうつっていき今ではすっかり毎日の習慣として定着してしまった。

 

 悲しいかな転生前は彼女なし歴年齢、いつもいつもドキドキさせられる。


 そう、早いもので俺がこの世界に生まれてから既に十五年の月日が流れていた。


 俺の名前は一ノ瀬恵斗けいととして生を受けてしまった男である。

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