第2話『男女比のおかしな世界』☆


「昨日会見で官房長官は今年の男子出生率は昨年を下回ったことを発表、これで十年続けて下降中です」

「結婚する男性も毎年減ってきていますからねぇ……致し方ない数字でしょう」

「厚生労働省が声明を出した将来的な一夫多妻制の枠増加……果たして実現するのでしょうか?」

「うーん、どうなんでしょうね。はっきりとしたメリットを掲げないと誰も納得しませんから。最近では女性の権利を訴える団体の動きも激しくなってきましたからね」

「今後も与党の動きに注目ですね、以上夕方のニュースをお伝えしました。この後はお天気予報です」


 テレビで流れているニュースをぼうっと眺める。

 今話していたコメンテーターと思われる女性たちはみんな女性だった。

 

 外もそろそろ日が沈んでくる時間帯、宿題を終えた俺はやることもなく、ギターを触りながらテレビを見ていた。

 とはいっても、ニュースの内容は全く頭に入っておらず右から左へ聞き流していたんだけど。


 ここで突然の自己紹介。

 俺の名前は一ノ瀬恵斗いちのせけいと


 前世では社会人であったがとあるネットアンケートに答えたら転生を果たしていた元日本男児である。

 ネットアンケート踏んで転生とか怖すぎるだろ。


 とはいいつつも、こうしてこの世界に生まれもう15年、とある理由で一時期は軟禁生活を送っていたが……まぁそれはいつか語るだろう。

 苗字も名前も前世と変わりなく、こうして流れているテレビの風景も変わりない。

 転生とはいえ順応しやすい環境である……一部を除いて。


 そんなこんなで自己語り終わり、テレビへと意識を戻す。

 

 テレビの画面は天気予報が流れている。夜に雨が降るのか、洗濯終えておいてよかったな。

 天気予報が終わった後は10分程のショートドラマが放送された。


 先程の天気予報にショートドラマ、当然のように出演していない。

 ドラマが終わるとCMが流れる。これも出演しているのはだ。

 

 テレビを流し見しながらジャカジャカギターを弾いていく、エレキギターである為生音はそんなに出ない。

 ギターを適当に弾きながら『今日の夕飯はなんだろうな~』と考えていると俺の頭にふわっと手が置かれた。


「けいちゃん~、今日もギター弾いてるの?」

「あ、おかえり姉さん、帰ってたんだね」

「うん! ただいま~」


 ニコニコと俺の頭をなでるこの女の子は一ノ瀬明美あけみ、年は二つ上で現在二高校生、ツヤのある黒髪を背中までおろした俺の自慢の美人な姉だ。


「学校お疲れ様、今日は早かったね」

「今日は部活が早く終わったからね、あとはもちろん……けいちゃんに早く会いたかったからっ!」


 そして『んっ!』と両手を広げる。いつものアレのポーズだ。


「お疲れ様、今日もよくがんばったね」

「ん~っ! けいちゃん成分補充! お姉ちゃん幸せだよ!」


 背中に手をまわして軽く抱きしめてふわっと甘い匂いが鼻をくすぐる、姉さんは高校では料理部に所属していると聞いた。

 今日はお菓子作りをしてきたのだろうか、そんなことを考えていると耳元に姉さんの『はふぅ……』と吐息がこぼれてくる。


 姉相手だというのに耳を擽る甘い声にドキドキさせられてしまう。

 そもそも姉さんはとても綺麗なのだ、毎日のようにこうして抱きしめているがいつもドキドキする。

 

 十数秒くらいが経過しただろうか、離れた姉さんは元気満タンといった表情を浮かべていた。ただハグをしただけだというのにここまで喜んでくれるとやっぱり嬉しい。


「じゃあお姉ちゃんはお夕飯の準備してくるねっ!」

「何か手伝うよ?」

「いいのいいの、けいちゃんはのんびり待っててね!」

「いつもありがとう、夕飯楽しみにしてるよ」

「うん、お姉ちゃん頑張るよ!」


 笑顔を残して姉さんはキッチンへと向かっていった、手伝いは断られたけど皿を並べるくらいはいいだろう、続いてキッチンへ向かおうとすると階段から人が下りてくる音がする。


「兄さん」


 二階から降りてきたのは一ノ瀬芽美めぐみ、俺の妹である。

 自分と同じ茶髪寄りの色をしたショートボブ風の髪型をした女の子だ。


「勉強がんばりました、お願いします」


 先ほどの姉さんと同じように両手を伸ばしてハグの合図、いや、それはいいんだけども……。


「……30分前にもやらなかったっけ?」

「芽美は30分頑張りました!」


 なんとなくだがどやっとした表情で変わらずハグの姿勢、断る理由はないので姉さんと同様にぎゅっと抱きしめる。

 姉さんとは違うがそれでも女の子らしい甘い匂いが感じられる。


 芽美は背が俺の肩ぐらいなので頭がすっぽりと腕の中に収まる、年下ということもあって綺麗というよりは可愛い寄りな芽美、姉と同様で妹であるがやはりドキドキする。

 けれども兄の余裕を少し見せておきたいと勝手に思い、試しに片手で頭を撫でてみる。すると『んっ』と可愛い声が漏れた。

 

 ――や、やるんじゃなかった……。でも喜んでくれるし可愛い妹だから甘えさせたいし……。


 結果的に余計ドキッとしてタジタジ、兄の余裕なんて所詮こんなものである。

 けれど芽美は喜んでくれたみたいで『兄さぁん♪』と語尾に音符がつくような調子で笑顔を向けた。

 俺の心拍数は鰻登りである。


 普段より少し長めに抱きしめ続け、途中勝手な自分の葛藤もあったが、一方の芽美はとても満足したようで離れた後は溢れんばかりの笑顔だった。


「よし、これで夜も頑張れますっ」

「あんまり無理しちゃだめだよ、程々にね」

「ダメです、高校では絶対兄さんと同じ学校に行くんですからっ、でもまた頑張るんで後でぎゅってしてくださいね!」

「いつでもおいで、とにかく無理しちゃだめだからね」

「えへへ、ありがとうございます兄さん! わたしも姉さんのお手伝いしますね」


 お願いされてやってるけど、綺麗な姉と可愛い妹を抱きしめるのはただの役得であって、結局のところ俺が一番幸せなんだよね、ドキドキはするけれど。

 姉さんと夕飯の準備をする妹を見ながらそんなことを思った。さて俺も皿を出さなきゃな……。





 夕食の用意も終わりかけた頃、玄関のドアが開く音がした。どうやら母さんが仕事終えて帰宅したようだ。皿を並べた以降は二人に手伝いも笑顔で断られた為、特にできることもなく再びギターを弾いていた俺は楽器を一旦ソファに置き出迎えの為に玄関へ行く。


「お帰りなさい、母さん」

「今日も恵斗のお迎えでお母さんは嬉しいなぁ、ただいまー!」


 姉と妹にした同様のハグで母を出迎える。母親とはいうがまだ30代前半と言っても全然通用する人ですごく美人だ、姉さんが大人になったらきっと母さんみたいな美しい人へとなるだろう。


 そしてこの母、一ノ瀬麻美あさみはボンキュッボンのナイスバディな人だ。つまり抱きしめるととても柔らかいものがあたってしまう。

 

 母さんに抱きしめられるとその、胸が身体へと密着をする。

 そうすると男である俺は興奮をしてしまうだろ。

 おかげで下腹部に血流が溜まり、アレが主張をしようとする。


 ナニがとは言わないアレである。

 

 というわけでいつものように母の身体にアレを当てないように腰を引かせる。

 親相手に興奮するなど息子失格であるがこればかりは仕方ない、本当に仕方ないのだ。


 そんないつもの役得と小さな葛藤な時間を終え離れた母さんは、見惚れるほどの笑顔を浮かべた。母親であるというのに毎回ドキドキさせられてしまうのは本当に仕方ない。


 三人とも、容姿端麗すぎるんだ。

 美人相手にドキドキしないわけがないだろう!


 そのおかげか俺の容姿も以前と比べると大分整っている、所謂イケメン的な。

 母の血が色濃く継がれたのだろう、感謝しかない。

 

 この事あるごとにしているハグだが、元々は恋人である幼馴染にごほうびとしてやっていたものだった。

 だがそれを羨ましがった姉さんが真似をし、やがて母へそして妹と移っていき今ではすっかり毎日の習慣として定着してしまった。


「あぁー、お母さんだけズルい!」

「兄さん、芽美にもしてください!」

「いや、さっき二人にもちゃんとやったじゃん――」


 姉さんの『問答無用!』の一言共に二人も俺へと抱き着いてくる。

 玄関先で母、姉、妹と抱き合う。どんな絵図だよこれ。


「はぁ~けいちゃん好きぃ……」

「兄さぁ~ん……」

「じゃあ私もこのままっ」

「か、勘弁してくれぇ……」


 柔らかな感触、甘い匂い。三人の美しい女性に囲まれた俺はノックアウト寸前だった。


 今の状況はまさしく『モテている』のだろう。

 過去の人生で俺が望んでやまなかった状況が今ここにある。


「けいちゃんこの世に生まれてくれてありがとう」

「ふふっ、ほんとね。恵斗が生まれてきてくれて本当によかったわ」

「急になにさ……」

「だって、兄さんみたいな男の人はこの世の何処をさがしてもいないんですからっ!」

「それはからそう思うだけじゃないの――」

『そんなことない!』


 彼女たちは口をそろえて言う。


「女性ばかりの世の中で」

「家族と言えど女の子に抱きしめられて怒らない男なんて」

「この世にはいないんですっ!」


 そう、俺が生まれたのは世界。

 へと転生を遂げていたのだった――。



 ――

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