男女比のおかしな世界~人に優しい男が転生しモテる人生~(2章改訂中)
ヤニ―
第1章『この世界の男女比はおかしい』
第1話『モテなかった人生』☆
突然だが俺はモテない。
男なら一度は夢見たことがあるはずだ。女の子たちからモテたい、キャーキャー言われたいと!
幼い頃、テレビで有名な男性アイドルが女の子たちから黄色い声援を浴びているのを見て、俺もモテたいと思ったのだ。
子供だった俺は父にどうすればモテるのか尋ねた。
父はそんな俺を見てめんどくさそうに『女の子に優しくしてればいいんじゃないの?』と言った。
今思うと適当感溢れていた態度ではあるが、あの時の俺はガキだった。
『わかったよ! 僕女の子に優しくするね!』
と、ピュアだった俺は父親の言葉を安易に信じてしまい、この日から『女の子に優しく』を座右の銘として生きていくこととなった。
幼少期。
ある日の幼稚園。いつものように友達と外を駆け回っていた俺は公園で遊んでいた女の子が砂場で転んだのを見つけた。
それを見た俺はすぐに駆け寄り『大丈夫?』と声をかけ、手を差し出した。
女の子は涙を浮かべながらも俺の手を掴んで立ち上がり『ありがとう』と、照れたように笑う、その笑顔を見て俺は『喜び』を得た。
小学生の頃。
昼休み、俺は校庭の隅で何やら騒がしい声が聞こえたからそっちへと目を向けた。
何人かのクラスの男子が輪になって何かをしている。中心には、隣のクラスの女の子が困った顔で立っていた。
「ほら、取ってみろよ!」
「そんなに大事なら、取り返してみな!」
「ねえ、止めてってばぁ……っ」
男の子たちが楽しそうに手にしているのは、彼女のぬいぐるみ。彼らはそのぬいぐるみを高く持ち上げたり、投げ合ったりして、女の子をからかっている。
しかし当の彼女は今にも泣きだしそうな様子だった。
「やめろぉー!」
輪の中へと突っ込み強引にぬいぐるみを奪い取って女の子へと渡す。
揶揄っていた男の子たちは『なにすんだよ!』と非難めいた声をあげるが。
「うるせぇ! 女の子泣かして何が楽しいんだ!」
負けじと俺も怒鳴り返した。
ぬいぐるみにはリボン付いていてこの子がコレを大事にしているのが良く分かった。
人の大事なものを奪いとるなんて最低で許せなかった。
結局男の子たちは『ちぇっ、なんなんだよ』とつまらなさそうに去っていったが、残された女の子から『ありがとう!』と満面の笑みでお礼を言われた。
女の子が笑顔になる、これこそが俺にとっての『喜び』だった。
中学生の頃。
放課後、クラスメイトの女の子がいつもなら友達と一緒に笑っているはずなのに、今日は一人で窓際に座って外をぼんやり見つめている。周りが帰り支度をする中、彼女だけが時間が止まったように動かない。
だからだろう、なんとなく気になって、俺はそっと彼女の横に座った。
「元気ないみたいだけど、大丈夫?」
彼女は一瞬だけ俺を見たけど、すぐにまた窓の外に視線を戻した。
震えながら「……大丈夫だよ」と答えた声にはいつもの元気さがない。明らかに無理をしているのがわかる。
しばらく何も言わずにいたけど、女の子の方が沈黙に耐え切れなくなったのか、とにかく話を聞いてほしかったのかポツリと話し始めた。
「隣のクラスの佐伯君に彼女ができたんだって、私彼のことが好きだったの」
「そ、そうか……それは、辛いよな」
「私彼とは幼馴染でずっと好きだったんだよ。でも、結局私じゃなかった。あの人には私以外の誰かがいたんだって……」
彼女は涙が溢れそうなのを必死に堪えているのがわかった。
女の子が泣いているのが嫌で、俺は何とか彼女を慰めようと必死に言葉を選ぶ。
「でもさ、それでキミの価値が変わるわけじゃないだろ? その人が選ばなかったのはただのタイミングとか、運の問題だよ。キミはキミで素敵なところがあるんだから」
彼女は一瞬驚いたように俺を見た。でも、すぐに微笑んで『ありがとう』と笑う。
彼女に笑顔が戻ったのを見て少しホッとした。
「まあ、無理に元気出せとは言わないけど、俺でよければ話し相手になるからさ」
と言葉を掛ける。その後も彼女は彼の格好いい所、好きなところを語っていくうちに『私の気持ち全然わかってなくて!』と徐々に不満もぶちまけるようになる。
話が終わったのはすっかり陽が沈んだ頃だったけれど。
「ほんとにありがとう。一ノ瀬君と話せて楽になったよ!」
と、帰り際に微笑んだ表情を見て、またひとつ『幸せ』を得た。
そして高校生になってから1年が経ち。
「おかしいな、モテないぞ」
高校生の頃、ふと気付いた。
なんで俺の周りには女の子がいないんだ。
「一ノ瀬ちゃんどした~ん?」
クラスメイトのチャラ男が声を掛ける。
「モテないんだよ」
「は? なんて?」
「いやさ、俺モテないんだよ」
「一ノ瀬ちゃん何言ってんの? マジウケるわー」
隣のチャラ男が爆笑している、いや笑ってないでさ考えろよ。
なんで俺はモテないんだよ。
「わーったって、じゃあ一ノ瀬ちゃんおれっちとバンドやろうぜ?」
「バンド?」
「おう、バンドやればマジモテまくりだから。兄貴もバンドやって女の子食いまくってるから」
「よし、じゃあモテるためにやるか!」
こうしてチャラ男と他数名でバンド活動を始めた。
俺の担当はボーカル&ギター。
俺たちのバンド活動は所謂コピーバンドだったけど、それでも地元ではそこそこ人気が出る程知名度をあげていった。
だけど――。
「おかしい、モテない」
ボーカルの俺がモテず、ドラムとベース、キーボードばかりがモテる。
普通さ、ボーカルの俺がキャーキャー言われんじゃないの?
「一ノ瀬ちゃんはさ、モテない星の下に生まれたんだよ」
「は? ぶっ飛ばすぞ」
「んー、なんていうのかな、女の子にモテるために必死で頑張ってるんだけど、すべてが空回りってかただの『良い人』で終わってるってーか」
「バカにしてんの?」
「んなわけねーじゃん、おれらズッ友っしょうぇーい!」
いつものノリでグータッチをする。
とりあえず、俺も勢いでグーを重ねるが納得はいかない。
「だから言っているだろう、一ノ瀬。お前はもう少し勉強をしろ」
そう言ってくるのは眼鏡をかけた短髪黒髪のイケメン、まぁ俺の友人の一人だった。
「勉強してさぁ、本当にモテんのかなぁ?」
「何を言っている、今時勉強しないでモテるのは漫画の中だけだぞ」
「いや、こいつめっちゃモテてんだけど」
「こいつはもう人生を遊びに振り切ってるからな」
「うぇーいっ、人生楽しんじゃうよぉー!」
お前今馬鹿にされてんだよ。
まぁ何言われても気にせず明るい所がこのチャラ男の良い所なんだけど。
「しゃあねぇ、勉強すっか」
「あぁ、その意気だ一ノ瀬。僕と一緒に生徒会も目指そうじゃないか」
「一ノ瀬ちゃん、バンドも忘れちゃだめだかんねー?」
そういう訳で俺は学年10位以内に入る程努力をし、こいつと一緒に生徒会に入り副会長として活躍した。
――なのだが。
「おい、なんでモテないんだ?」
「……モテない星の下に生まれたんじゃないのか」
「チャラ男と同じこと言ってんじゃねぇよ!」
生徒会長となった眼鏡の胸倉を掴んで抗議する。
彼は顔をそっと背けるだけだった。
「この間さ、実はモテるとかじゃなくて単純に彼女欲しいから告白したんだよ」
「ほう、やるじゃないか」
「そしたらよ振られたんだ」
「……そうか、それはその、残念だったな」
「しかも振られ際にさ『生徒会長のおまけみたいな雰囲気だったから……そういう目で見ることできなかった』って言われたんだが」
「……」
「……」
「さぁ、今日の会議のまとめをしよう」
「俺もう生徒会辞める!」
結局バンドで活躍しても、勉強で成果をあげても、俺がモテることは一度もなかったのだ。
そして――。
「はぁ……なんかもういっか」
唐突に冷めてしまった。
数年後、社会人になって仕事も一人で任せてもらえる案件も増え、自信が付いて来ていたとある日の休日。
「なんだこの広告……」
外は雨で休日にやることがなかった俺はWEB動画を見ようとパソコンを起動した。
有料会員ではないので動画の初めには広告が流れる。
大抵は30秒くらいすれば終わるのだが画面はいつまでも変わることなく。
『貴方はモテたいですか?』
この表示で止まっていた。
更新ボタンやブラウザバックも試したが結局はこの画面に帰ってくる。
パソコンの電源を落とそうとも考えたが『モテたい』の文字にふと胸の奥底にしまい込んだはずの欲望が再燃しつつあった。
「いや、でもなぁ……」
幼い頃から学生時代は色々と頑張って来たけれど。
成果はなくモテることがなかった。
「もう諦めたんだけどな」
『一ノ瀬ちゃんはさ、モテない星の下に生まれたんだよ』
チャラ男の言葉がフラッシュバックする。
そうさ、俺はこの先もずっとモテないまま人生を送るんだ。
上司との飲みに付き合えば『結婚はいいぞぉ』が口癖で、愛想笑いで疲れるし。
仲の良い同期も結婚してからは、子供の自慢話が増え毎日相槌を打つ日々ばかりだ。
そもそも俺はモテたい以前に、一人の結婚相手を探す努力をすべきなんじゃないのか。
だけど……。
『貴方はモテたいですか?』この文字から目が離せない。
気付いたらマウスを握り、画面下の『YES』を押していた。
この広告はどうやらアンケートみたいだ。
『貴方は女性が好きですか?』
『好きな女性のタイプは?』
『貴方の得意なこと苦手なことは?』
等、時に選択。
時に記述式でアンケートを答えていく。
全ての質問を真剣に回答していく。途中で『いったいなにやってんだろ……』と自問自答することもあった。
やっぱ止めようかなとアンケートに答えるのを中断もしたけれど……。
結局最後の質問にたどり着くまで回答をしてしまっていた。
時間にして約30分くらいだろうか、最後の質問と表示がされている。
『女性に優しくすることが出来ますか?』
……なにを当然なことを、女性に優しくすることは男として当たり前だろう。
これこそがここまでの俺のすべてなのだから。
YESのボタンをクリックする。すると画面は光り輝いていき。
『おめでとうございます、貴方は資格を得ました。私たちの世界に招待します。一人でも多くの女性を幸せにしてください』
目の前が真っ白に包まれて俺はそこで意識を手放した。
「生まれた! 生まれましたよ! 元気な男の子です!」
『……え?』
なんと俺は赤ちゃんになっていた!
――
〇作者からの一言
現在第1~2章をリメイク作業している最中です。
☆が付いた話がリメイク済みとなります。
なるべく新規で読まれる方にも話がおかしくならないように注意はしていますが、そこの所ご了承願います。
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