27.見えた真実
「…………ユリ。お前、剣持に何言った?」
「え? いきなり何ですの?」
まるで心当たりがないという顔を向けてくるユリを見て、嘘をついているようには見えなかった。まあ、嘘ついてたとしてもバレないようにするのは当然か。そう思った俺は、いつもと変わらない態度でユリに謝る。
「あー、悪い。何もねぇならいいんだ、じゃあな。ちゃんと学校行けよー」
振り向かずに後ろ手で手を振って校門前で別れを言って俺は教室に向かった。「放課後も一緒に帰りましょうねー!」は聞かなかったことにしたい。
剣持とは会話できないまま、楸とご飯を食べたり、休み時間中に授業の話をしたり、真面目に授業を受けたりしながら一日が終わる。ホームルームの後、楸が声をかけてきた。
「要くん、今日一緒に帰ろー」
「おう、いいぜ」
「やったー!あ、せや。要くん、コロッケ好き?」
「好きだけど、どうした?」
「ふふーん、実はな、コロッケがめっちゃ美味い店見つけたんよ。帰り寄っていかへん?」
「いいな。行こうぜ」
ユリが帰りも一緒にとか言ってたのはスルーでいいだろ、うん。大丈夫、怒られはしねぇし。後のこと?………………うん、考えるのやめよう。
楸と話して、そんなことを思いながら下駄箱で靴を履き替えて校門を出ると、見覚えのある2人の背中が前方に見えた。
あれは…………剣持と、ユリ? 何であいつらが一緒にいるんだ? 隣にいた楸もそれを見て違和感を感じたようで俺に伝えてくる。
「剣持ちゃんが誰かとおるなんて珍しい。隣の子って確か要くんと噂になっとる子やんな?」
「不服だけど、そうだな。でも1回しか面識ねぇはずだし、そんなに仲良くなりそうな雰囲気はなかったんだけどな」
「へぇ……。ほな、ついてってみる?」
楸の提案で俺は楸と一緒に剣持たちにバレないようについて行くことにした。しばらく後を追っていると、近くの公園に彼女たちが入っていくのが見えたので、俺たちは公園の裏手に回り音を立てないようにして茂みに隠れて耳をそば立てた。
「どうやら約束は守っていただけているようですわね」
「勘違いしないでくれ。私はあいつに迷惑をかけたくないだけだ」
「あら、ようやくご自分がカナ様にとってどれ程迷惑になるかお分かり頂けたのですね、嬉しいですわ」
それを聞いて俺はようやく確信できた。
剣持がよそよそしくなったのは、やっぱりユリのせいかよ。俺が迷惑に思ってんのはユリなんですけど。つか、剣持も馬鹿だろ。俺があいつを迷惑に思うわけねぇのに、何勝手に決めてんだよ。
苛立っている俺をよそに、2人の話は進んでいく。
「それで、話とは何だ? 私は不動院さんと話すことなどないのだが」
「ふふっ、こちらを差し上げようと思いまして。今後とも約束を守っていただけるようですから、ほんのお礼ですわ」
そう言ってユリが手を上げると、ユリについている執事らしき人たちが剣持の前に剣道の道具を差し出した。
「有名な職人に作らせた最高級の素材を使った逸品ですわ。お受け取りください」
賄賂かよ、そうまでして俺と剣持を離れさせてぇのか。それは楸も思ったらしく、俺の耳元でこっそりと「賄賂やん、怖いなぁ」と呟く。剣持のやつ、受けとんのかな……。なんて一瞬でも思った俺が馬鹿だった。
「いらない」
剣持はただ一言静かな声色でそう言い放った。
「……………………は、はい? 今、何と……」
「だから、いらないと言ったんだ」
断られるとは思っていなかったようで、ユリはかなり動揺した声を出す。
「で、ですが、最高級品ですわよ? いらないだなんて……」
「いくらの物だろうが、もらう気はない。じゃあ」
そう言って去って行こうとした剣持が思い出したかのように声を上げてユリの方に振り返った。
「それと、西園寺に好きになってもらいたいのなら、その価値観を改めた方がいい。あいつは『一般人だから』だとか『金持ちだから』だとか、そういう決めつけが嫌いだからな」
「……貴女にカナ様の何が分かるんですの?」
その後に飛び出る言葉に俺は驚きすぎて固まる。
「分かるさ、西園寺のそういうところを私は好きになったんだ」
き、聞き間違い……? なんか「好き」って聞こえたけど。と思っていると、楸が口笛をヒューっと吹いたので、どうやら聞き間違いではないらしい。というか……。
「口笛吹くなよお前!」
「わっ、ちょ、待って、要く……!」
「は? うわっ!?」
小声で言い合いながら楸の口を塞ごうと揉み合いになっていると、楸がバランスを崩して、俺はそのまま引っ張られて2人して茂みに倒れ込んでしまった。剣持とユリは音に反応してこちらを向いて驚いた声を上げる。
「……!? え、さ、西園寺? と、高槻くん」
「か、カナ様!?」
「や、やほー、剣持ちゃーん」
「…………ども」
バレた。
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