26.諦めの悪いお嬢様が俺をデートに誘ってきた!

 朝、聞き慣れたアラーム音ではなく、電話の音が耳に響いて目を覚ます。


「……んー、はい……」

『ふふっ、おはようございま……』


 ブツッ


 おかしいな、前にもこんなことあった気が……。そんなことを思って体を起こすと再びスマホが鳴った。仕方なく出ると、甲高い怒りの声が耳に入る。


『出てすぐ切るなんて酷いですわ!』


 耳がキーンとなりながらも俺は適当に返事する。


「あーはいはい、悪かったよ。で、なんか用か?」

『ええ。カナ様、今日私と学校に行きませんか?』

「学校違うだろうが」

『そうですわよ? だからわざわざこの時間に誘っているのです』


 そうユリが言うもんだから、俺は部屋の時計に目を向けてみて目を見開いた。


「5時半!? お前ふざけんな!!」

『ふざけてなどいませんわ、今日一緒に学校に行くためですもの! どんな手でも使いますわ!』


 頭とち狂ってんの? いや、とち狂ってるからこういうことするんだよな、うん、知ってた。つか、あれで諦めてなかったのかよ、ほんと真顔になるわ。まあ、俺が「いいよ」って言うまでしつこく付きまとわれそうだし、仕方ねぇ、付き合ってやるか。そう決めた俺はため息混じりに答えると、ユリは嬉しそうにお礼を言ってきた後、真面目な声色になって告げる。


『今日の登校デートで、カナ様の気持ちが揺るがないのであれば潔く諦めますわ。今日は本気で落とすつもりで頑張りますから、覚悟してくださいまし。それでは、車でカナ様の家の前まで行きますのでよろしくお願い致しますわ』


 宣戦布告されて切られたんだが。

 まあ、いいか。ユリに揺らぐことはねぇし、剣持にもう一度告白するって決めてるんだ。諦めの悪いお嬢様にいい加減分かってもらわねぇとな……。そう思いながら俺は学校に行く準備を始めた。

 その後、ユリが家の前まで来て、俺の通う学校へと一緒に歩いて登校することになった。ま、少し離れた所から不動院家のSPが忍者のごとくついてきているというおまけ付きだけど。

 ゆっくり歩きながらユリは色んなことを聞いてきた。学校ではどうしてるのかとか、危ない目に遭っていないかとか、会社のためにしてることはないのかとか。どれもこれも御曹司としての俺を思っての質問。俺はそれに視線を合わせず適当に答えていく。

 早く学校着かねぇかな? つか、置いてっていい? そしたら俺解放されるんだけど。

 そんなことを思いユリの会話に付き合いながら歩いていくと、学校の門が見えてきた。すると、ユリが声をあげた。


「あら、剣持さんですわね」


 ユリの視線が向けられる方を見ると、彼女の言う通り、俺の想い人がいた。反射的に体が動いて、俺は剣持のそばに駆け寄る。


「剣持!」


 俺が名前を呼ぶと、肩をびくっとさせてから追いつかれまいというように逃げていった。そんなあからさまに避けられると心に来るんですけど……。そう思っていると、後ろからユリが声をかけてくる。


「カナ様、大丈夫ですか?」

「あー……うん、大丈夫……」


 そう答えると、陽気で嬉しそうにユリが告げる。


「ふふっ、そうですわよね。一般人が御曹司のカナ様のそばにいられたら迷惑ですものね」

「え……?」

「だってそうでしょう? 御曹司と聞いて遠目に見るのが一般人の当たり前の反応ですもの。御曹司や令嬢は同じ立場同士でいるべきですわ」


 それを聞いて俺は何故か剣持に振られた日のことを思い出した。


『お前は御曹司なんだから、私みたいな一般人といるのは迷惑になるだろう?』


 ユリが今言った言葉とほぼ同じ言葉をあの日、剣持は言っている。ただの偶然なのかもしれない。


 でも、もし剣持がそう思っていないのにあの言葉を告げたんだとしたら、誰かに似たようなことを言われたんじゃないのか?


 確かめるしかねぇ。俺は、ユリの顔を真っ直ぐに見つめた。


「…………ユリ。お前、剣持に何言った?」

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