25.カラオケ恋愛相談室
学校での一日を終え、楸とカラオケに着くと、ドリンクバー付きのフリータイムでお願いした。その後ドリンクバーで飲み物をもらって途中、楸が不思議そうに尋ねてくる。
「要くん、慣れとるねー? カラオケ初めてやないの?」
「おう。母さんが好きでさ、よく来てたんだよな」
「よく来てたん!?」
「久しぶりだからな、歌えっかな……」
「久しぶり!?」
そんなに驚くことなのかと思いつつ、俺は部屋に入るなり、デンモクで曲を検索してカラオケ機に歌を入れる。楸が「坊ちゃんがカラオケ機使いこなしとる……」とか言ってんのはイラッとするけど聞き流してやろう。母親が一般人なの知らねぇ奴多いからな、その辺は仕方ねぇだろ。
そう思いながら、早速入れた曲を歌い始める。終わると楸が拍手して嘆声を漏らす。
「歌も上手って……要くん、苦手なことないん?」
「苦手なことはねぇけど……俺、昔から運悪いから上手くいかないことが多いんだよな……。不幸体質ってやつでさー」
初めて剣持以外に自分の体質のことを話すと、楸は全く驚くことなく、俺の話を受け入れるように答える。
「ほへぇ……ほんなら、泥んこ坊ちゃんはその不幸体質のせいっちゅーことやったんか」
「まあな。……驚かないんだな」
「んー? 完璧な人なんておらんからな、ひとつくらい欠点あってもおかしくあらへんって。……あ、次俺や」
そう言って楸はマイクを持って自分が入れた曲を楽しそうに歌い始めた。歌超うめぇこいつ。
しばらく2人でカラオケを楽しんだ後、楸がきりのいいところで声をあげる。
「ちょい疲れたわー。一旦歌は休憩や。恋バナでもしよ、要くん」
「いいけど俺はねぇぞ」
「あるやん! 俺、絶対2人は付き合っとるって思っとったのに違うし、フラれたとか言うし。もっと詳しく聞きたいやん!」
「俺の心の傷を抉んじゃねぇ!!」
楸の頬を抓りながらそう言うと、楸は痛がりながら直ぐに謝ってきたので俺は手を離してやる。すると、頬を擦りながら楸がしゅんとした声を出す。
「ごめん、でも、フラれたっちゅーのが信じられへんくて……。誰がどう見ても恋人みたいな感じやったのにって……」
その様子を見て俺は、ため息をつきながら仕方なく今まで剣持とどんなことがあったのか、告白までの経緯を楸に話した。すると、楸がさも当然という顔で呟く。
「なんや、要くんが諦める理由なんてあらへんやん」
「お前、話聞いてた? 俺が御曹司だから、一般人の剣持にとって御曹司の迷惑になるって思われる存在だってはっきり言われたんだぞ?」
「人との関わりが苦手で、部活も委員会も最低限の会話しかしないことで有名な剣持ちゃんやで?」
確かにあいつが俺以外と一緒にいるとこあんま見たことねぇな。
「要くんとは一緒に帰ったり、休みの日も出かけたりしとったんやろ? ほんまにそう思っとったんやったらそもそも要くんと一緒におらんと思うけど?」
言われてみれば、と納得してしまう自分がいた。
俺が剣持にかけてもらって、嬉しくてたまらなかったあの言葉を思い出す。向き合ってくれる人が家族しかいなかったのに、あの時、あいつは言ってくれたんだった。なのに俺は……。
「馬鹿だな俺…………」
それに、俺はちゃんとあいつに伝えられてない。ちゃんと言わないまま諦めるのは違う気がする。だから_____。
俺の考えてることを察したかのように、頭にぽんっと楸の大きな手が優しく乗っかる。
「要くんの想い、全部伝えてきや」
「……おう」
「ん。さてと、休憩終わりや。何歌おかな」
それから俺たちは時間いっぱいカラオケを楽しんで、お金を払ってから店を出た。
「楸、今日はありがとな」
「あははっ、ええよー。俺も楽しかったわ〜、ありがとう。また明日ね、要くん」
ひらひらと手を振ってくる楸を見送った後、不幸発動防止のために黒澤に連絡を入れて迎えに来てもらった。家に着いてすぐ風呂や歯磨きを済ませて部屋に直行した俺は心の中で決意を固め、眠りについた。
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