24.新しい友人は噂好きでおバカな関西人
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」
翌朝、俺はすごく憂鬱な気分で登校した。
何せ昨日フラれたばかりの相手と嫌でも顔を合わせなければならない。それに、席が前後なのが地獄すぎるんだよなー。
教室にたどり着くと、剣持は既に席についていた。いつもしていた挨拶をしないのも変に意識しているように思えて、俺はできるだけ普段と変わらないトーンで剣持に声をかける。
「おはよ」
「…………おはよう」
びくっと体を震わせてから、俺の方に見向きもせず返ってきた挨拶を受けた俺は、昨日の告白とあの言葉が現実だと改めて実感した。席が前後だとこの気まずい空気がずっと続くのかと沈んでいると、先生の言葉でその悩みは一瞬で解決した。朝のHRで席替えをするらしい。
くじ引きによって席替えがされ、俺は窓際の1番後ろになった。剣持とは席が離れて気まずさがなくなると安堵する一方で、なんだかもやもやした気分が消えなかった。
俺以外の奴と話して仲良くなんのかな……。俺に関係ないのに、剣持が俺以外の男と仲良くするのが嫌で、彼女を目で追いながらそんなことを考えていた。俺はまだ剣持のことを好きなんだと思い知らされる。まあ、たった一日で忘れられる方がどうかしてるか。
新しい席に移動すると、隣から声をかけられる。
「後ろ、要くんかー、よろしゅうな」
「……よろしく、
「苗字やなくて俺のことは気軽に下の名前で呼んでや」
「あ、おう」
高槻
この学校唯一の関西出身者で、180と高身長、金髪に紫の縁の太めの眼鏡をかけていて、口元のほくろが印象的だ。運動神経抜群なのだが、座学はてんでダメで赤点の常習犯。こんなにも明るい性格でムードメーカー気質だが、入学して最初の1週間、関西からということもあっての家庭事情で休んでいたおかげで友人を作る機会を失い、ちょっと浮いた存在となっている。
まあ、賑やかなのは嫌いじゃねぇけど、
「俺、要くんと友達になりたいんやけど、連絡先交換せぇへん?」
い、嫌とは言えねぇ……。
「いいけど……何で俺?」
そう、俺は「西園寺家の坊ちゃん」ということもあり、挨拶や日常会話くらいはするが、友人になりたいと言う人はいない。そう問いかけると、楸はさも当然といった顔で言った。
「何でって、要くん、お坊ちゃんなんやろ? 皆お坊ちゃんやから近寄り難い言うてるけど、剣持ちゃんと仲ええの見とると普通の子とおんなじやんって、一緒にいたら楽しそうやなって思ったんよ」
「そうなんだな。……じゃあ今日から友達な」
「あっはは、めちゃくちゃ嬉しいわー」
俺が答えると、とても嬉しそうにわんこみたいな笑顔を見せた。なんだよ、めちゃめちゃいい奴じゃん。それに、俺の不幸に巻き込んだら悪いと思って生きてきたけどさ。
俺、ずっと同性の友達欲しかったんだよな!!!(本音)念願の友達だー!!! 俺のスマホに剣持と家族、黒澤以外の番号が……っ。嬉しすぎる。
連絡先が増えたスマホをしまいながら、喉が渇いたなと水筒を傾けてお茶を口に含んだ矢先。
「あ、そういえば、剣持ちゃんと付き合っとるってほんまなん?」
「ぶーーーーっ!?」
「うわっ!? きったな!!」
「げほっ、ごほ……っ、お前がいきなり変な事言うからだろうが!!」
一瞬とはいえ彼女のことが頭に浮かんでいたせいで驚きすぎて吹いた。やっべ。ていうか……。
「その噂、まだ存在してたんだな……」
「有名やで? 要くん、挨拶はしてくれるし、イケメンでモテるけど、剣持ちゃん以外とはまともに話さへんって。で、噂の真偽はどうなん?」
「…………付き合ってねぇよ」
残念ながら俺の片想いだよ。
「ほんなら、他校生彼女が……」
「それは100%違ぇ」
…………そっちの噂もあったんだった。
ユリにははっきり言ったが、あれだけで諦めるとは思えねぇからな。何か企む前にどうにかしねぇとだな。と考えていると、楸がニヤニヤしながら俺を見ていることに気づいた。
「な、なんだよ……?」
「要くんって分かりやすいなー」
「は?」
訳が分からないという反応をしていると、楸は俺の耳に顔を寄せて囁いてきた。
「剣持ちゃんのこと、好きなんや?」
一瞬でバレたんだが。俺の顔と口調はどんだけ分かりやすさの塊なんだよ。否定も肯定もせずに黙っていると、楸は楽しそうに聞いてくる。
「分かるで、剣持ちゃん美人やし、隠れファン多いもんな」
「おい待て、隠れファン多いの?」
「なんや、知らんの? 剣持ちゃんモテるんやで? まあ、要くんの方がモテるんやけど…………っておーい、要くん? 聞いとるー?」
剣持がモテる……? その言葉が頭から離れなくて、楸がそれ以降に言ったことが耳に入っていない。いやまあ確かに剣持は美人だし、何より可愛いし、クールな見た目してるのにめちゃくちゃ甘いもの好きだし、魅力はあるよな……。そうか、モテるのか……。気にしたところで、俺フラれてるし、あいつには好きな人いるし、俺の入る隙なんてないんだけどな。
俺が盛大にため息をついてまた憂鬱な気分になっていると、楸が頭にハテナを浮かべていた。
「どしたんよ? 剣持ちゃんと何かあったん?」
「あー、まあ……告って」
「告っ……!?」
「で、フラれた」
「フラれ……もごっ!?」
「声でけぇよ、バカ!」
あまりにも大声で叫ぶものだから、俺は咄嗟に楸の口を両手で塞いだ。ギブアップと言うように俺の手をバンバンと叩いてくるので、ぱっと離してやるとちょっと苦しそうに呼吸しながら小声で話してくる。
「はぁ、死ぬかと思ったわ……。フラれたって、ほんま?」
「俺に嘘つくメリットあるか?」
「要くん…………今日カラオケでも行こか」
慰めてくれているんだろうが、めっちゃ腹立つ顔してんな、こいつ。「あの要くんでもフラれるんか」みたいな顔やめろ。
まあ、男友達が初めてできたし、純粋に楸の気持ちもすげぇ嬉しいから一旦剣持のことは置いといて、こいつとぱぁっと遊んで気分転換するか。顔は腹立つけど、気分転換考えてくれるなんていい奴だな、楸。
「いいよ、行こうぜカラオケ」
「やったー! 楽しみやなー! ……あ、せや、要くん」
「何だよ?」
「宿題忘れてしもたから写さして、お願い♡」
…………いい奴だけど、こいつバカだったの忘れてたわ。
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