22.言われたくなかった言葉
緊張して眠れなかった上にいつもよりも早く起きてしまった俺は、学校に行く準備をし食卓につく。朝ごはんをそそくさと食べ終わって席を立つと、丁度起きてきた母に声をかけられる。
「あら、要。早いわね、今日」
「あー、うん、まあ……」
好きな子に告白するだなんて恥ずかしくて言えず、ぎこちない返答になってしまう。それだけで何かを察した母は一瞬きょとんとしてからすぐニヤニヤしだし、
「あらまあ、気合い入っちゃってー。ふふっ、頑張んなさいよー」
と言いながら手をひらひらと振りながらダイニングルームに入っていった。確実にバレてるわ。隠すつもりだったのに、俺の「分かりやすい」性格では力不足だったって訳か、くっそぅ。少し顔に熱がこもるのを感じながらぶっきらぼうに行ってきますを言って家を出る。
いつもより早く学校に着いた俺が教室に向かうと、剣持はまだ来ていなかった。初めてあいつより先に学校に着いたな。カバンを片付けて席について机に伏せる。
やべぇ、まだ剣持が来てすらいないのに緊張で吐きそう。心拍数えげつねぇし、平常心ってどうやって保つんだっけ? 吐き気はどうすりゃいいんだ、何か食えばいい? いや食ったらやばいか? うん、思考回路がおかしくなってるわ俺。落ち着け俺。
情緒不安定とテンションがおかしくなっている俺が落ち着こうとしているうち、剣持が教室に入ってきた。
「剣持、おはよ。あのさ、部活前に少しだけ時間取れねぇか?」
すぐに声かけると、剣持はいつもより真剣さを帯びた顔で答える。
「…………ああ。私もちょうど話したいことがある」
「そっか。んじゃ、放課後屋上な」
そう言って、いつもより集中できずに授業を受け、あっという間に放課後になって2人で屋上に向かう。緊張感のある沈黙が屋上に着くまで続いた後、俺は剣持の方に向き直って真っ直ぐ彼女を見つめる。
「……剣持、昨日の話の、続きなんだけど」
「…………うん」
「……可愛いって思うのも、一緒にいて心地いいって思うのもお前だけなんだ」
そこまで言って、一度深呼吸をする。
「俺、剣持のことが……」
「ごめん……」
最後まで言う前に俺の言葉を遮るようにして剣持が謝る。
「……お前の気持ちには答えられない」
返ってきて欲しくないと願った答えが返ってくる。俺は、胸に鈍い痛みを感じながら無理やり笑顔を貼り付けて口を開く。
「そ、そっか……。部活あるだろ? 話聞いてくれてありがとな。あー、えっと今日は先に帰るからボディーガードはいいよ」
少し俯いた剣持が、パッと顔を上げて真剣な顔を向けてくる。
「……そのことなんだが、お前のボディーガードも辞める」
………………え?
「今、何つった?」
「……だから、ボディーガードを辞める」
一瞬、自分の耳を疑ったが、どうやら聞き間違いではないらしい。
「は? いや、何で? それは続けろよ、俺なら大丈…………」
俺は困惑しながら彼女に問いかけると、剣持は少し辛そうとも悔しいとも取れる顔で俺に向かって言い放った。
「……っ、そういう問題じゃない! お前は御曹司なんだから、私みたいな一般人といるのは迷惑になるだろう?」
見た目と肩書きで判断されるのが嫌いだった。当たり前にみんながすることが俺は心底嫌で、本当の俺を見てくれる人がいつか現れることをずっと期待してた。
やっと、そういう人に出会えて、本気で好きになった。
なのに_____。
「お前にだけは……その言葉、言われたくなかった」
そう言って俺はその場を後にする。
今日、俺の初恋は終わりを告げた。
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