13.いつも通りの君でいて

 剣持と2人で駅に向かいながら、今日の行き先について聞いてみることにした。


「で、どこのスイーツ食べに行くんだ?」

「駅の近くに最近できた店だ。ロールケーキが絶品らしくて」

「へぇ、他にも種類あんの?」

「お前が甘すぎるのは苦手と聞いていたからな、リサーチ済みだ」


 少し得意げに言う剣持を見て、俺は空を仰いだ。


 俺のためにリサーチ……。超嬉しいし、ちょっと得意げな剣持可愛い。……隣で変な行動をするなとすねを蹴られた。痛い。


 それからしばらく歩くと、メルヘンチックで可愛らしい店が見えてきた。中に入ると、女性客しかおらず、男性客は俺だけだった。場違い感すげぇ。

 店員に席を案内されてメニューに目を通すと、どれも見た目が可愛くて、男の俺が頼みづらいようなケーキが多かった。俺、ここに来てよかったんだろうかと思い始めてきた……。なんて思っていると剣持に名前を呼ばれる。


「私はロールケーキと苺タルト、ガトーショコラ、シュークリームにするが、お前はどうするんだ?」

「あー……じゃあ、チーズケーキ。てか、4つも食えんの?」

「ああ、むしろお前は1個で足りるのか?」

「足りるよ。何で足りないと思ってんだ」

「すごいな、私はこれでも厳選したのに……」


 まだ食う気だった…………。名残惜しそうに他に食べたかったケーキの写真を眺めている剣持を見て俺は、ため息をつきながら彼女に言う。


「はぁ、お前が食いたいやつ好きなだけ頼めよ。俺が払うし、一口もらったら残りはお前にやるよ」

「本当か? ……ふふっ、どうしようかな」


 結局、剣持は店のメニューの半分は頼んでいた。いや、頼みすぎだろ。俺が一口もらうとはいえ本当に食えんの?と思っていたが、杞憂きゆうに終わった。本当に全部食ったよ、マジでどこに入ってんだ?

 会計を済ませて店を出ると、剣持が上機嫌で満足した様子で言う。


「美味しかったな」

「美味かったな……」


 絶賛胸焼け中な俺は少し元気のない声で返した。チーズケーキは食べやすくてぺろっと食べてしまったし、他のケーキも美味しくてついつい食べてしまったが、流石に一口もらいすぎた。口の中甘すぎて気持ち悪い。


「なぁ、ごめん。お茶買ってきていい? 口の中ヤバい」

「お前そんなに食べてないじゃないか。……分かった、ここで待ってるから早く買ってこい」


 そう言われて近くの自販機に向かった。ところまではよかった。


「…………やっと、買えた…………」


 まさか近くの自販機全部お茶が売り切れで、少し先のコンビニまで買いに行かされるとは……。どんだけお茶売れてんだよ、夏なら分かるが、まだ春だぞ。なんかキャンペーンでもやってたのか?


 なんて思いながら苦労して買ったペットボトルのお茶を少し飲んでから剣持の所に向かっていると、少し遠目に剣持が誰かと話しているのが見えた。


「お姉さん、いいじゃん、俺らと遊ぼー」

「だから、私はここで人を待っているから行かないと言っているだろう」

「でも来てねぇんだろ? 大丈夫だって。こんな可愛い子ほっとくなんてそいつがおかしいよ」


 ナンパされてるじゃねぇか! え、俺がいない間に何してんのあいつ。てか、なんか様子おかしくねぇか?


 普段の剣持ならあの時のひったくり犯を捕まえた時のように、すぐにでも相手を返り討ちにするだろうに今日はそれをしない。俺なんかしょっちゅう蹴られたり頭はたかれてんのに他の男には違うってことなのか?

 なんて馬鹿なことを考えながら剣持の方を見ると、彼女が男から後ずさりするのが見えて、あることに気付く。俺は咄嗟に剣持の名前を叫んだ。


「……凛!」

「……!? あ、さい……」

「待たせて悪い。自販機のお茶全部売り切れててコンビニまで行ってた」


 剣持の言葉を遮るように彼女に事情を話した後、俺は男を少し睨みながら剣持の肩を抱く。


「俺の彼女になんか用ですか?」

「……え、あ、いや…………な、なんだよ、お姉さん、こんなかっこいい彼氏いるなら言ってくれたらよかったのに! あ、あはは……」


 そう言ってそそくさと男は立ち去っていくのを見て、俺は剣持に声をかける。


「剣持、大丈夫? 何もされてねぇ?」

「……あ、ああ。平気だ」

「よかったー……」


 剣持に何もなくて安心した俺は剣持から手を離して彼女の前で背を向けてしゃがむ。


「帰んぞ」

「…………え?」

「足、慣れないヒール履くから靴擦れして痛いんじゃねぇの? でなきゃお前がナンパ男追い払えない訳がねぇ」

「……っ、べ、別に平気だ。というか、私をおんぶできるのか?」

「女の子一人くらいおぶれるっての、ほら」


 そう伝えると、剣持はとても申し訳なさそうに俺の首に腕を回して背中に乗った。

 帰り道、俺は彼女がナンパされていた時のことを思い出しながら考えていた。剣持は綺麗とか美人と噂されることも多いし、実際綺麗系の女の子だ。だから、普段から彼女を可愛いなんて思ってるのは俺くらいだと思ってたのに、あの野郎、剣持を見て可愛いって言ってた。それが無性に腹が立つ。

 俺は少し不機嫌な声で彼女に声をかけた。


「剣持、今後そういう格好禁止な」

「は? 何でお前に禁止されなきゃならないんだ?」

「やっぱりいつものがいいなって思ったから」


 つか、あんな可愛い格好してまたナンパされてるのは見たくねぇ。なんて言ったら、今しているであろう不審顔が更に不審さを滲ませる顔になるだろうから、言わねぇけど。


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