12.普段と違う君も俺の天敵

 稽古を終え、剣持から着替えたら玄関で待っていろと言われた俺は、剣持のじいさんに借りた道着から自分の服に着替えて言われた通りに待っていた。しばらくしてお待たせという声が耳に入り、俺は顔を上げた。


 …………………………………………え?


 さっきまで着ていた道着や学校で見慣れた制服ではなくレースがほどこされた白いワンピースを身に纏い、いつもポニーテールしている髪を下ろして編み込み入りのハーフアップになっている剣持がまるで別人のように思えて固まる。


 いつもと雰囲気が違いすぎて、一瞬誰か分からなかった……。てか、やばい、めっちゃ好みなんですけど。


 今の剣持の見た目は、ふわふわしてて、守ってあげたくなる女子そのものだと思いながら見惚れていると、目を逸らしながら少し恥ずかしさが混ざる声で俺に尋ねてくる。


「な、なんだ、じっと見つめて……」

「……っ、あー、いや……そういう服着るんだなって」

「分かってるんだ、似合ってないことくらいは。母さんが着ろと言うから仕方なく……」

「似合ってないなんて一言も言ってねぇだろ。可愛いよ」


 何の意識もせずに本心を伝えた後に、俺は焦る。


 やっべ、ついまた可愛いって言っちまった! へ、変に思われてたらやべぇ!


 そう思って取り繕おうとしたその時、剣持が少し嬉しそうに微笑んだ。


「……そうか、よかった」


 ガンッ


「……おい、ドアが壊れる。人の家で物を壊そうとするな」

「……………………ごめん。ちょっとこうしないとヤバかったんで」

「……? 訳が分からないことを言うな」

「うん、マジでごめん」


 好きって言いそうになったとか、言えるわけない。おでこめちゃくちゃ痛ぇ。

 危ねぇ、やめろよ。お前のその一つ一つの行動と言葉がどんだけ俺の「好き」に刺さってると思ってんだ。マジで今のは危なかった。


 なるべく気をつけてはいるつもりだが、黒澤の言う通りだ。好きになったら抗えない。剣持はある意味思ったことをすぐ口に出す俺にとっての天敵だ。


「ドアに頭ぶつけたことは謝るけど、お前のそういうとこ、マジでよくねぇからな」

「は? 何の話だ」


 俺の言葉の意味も分からないで彼女を見て、俺はため息をつきながら「なんでもねぇよ、行こうぜ」と伝えた。


 まさかデート中にこのふわふわした可愛い剣持が、俺にとってだけじゃなく、他の男にも魅力的に見えていると気付かされるなんて知らずに。

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