17.恋愛成就確率0%

『カナ様の許嫁ですわ』


 下校しながら剣持に想いを伝えようと思っていたところにいきなりお嬢様が現れて許嫁宣言されました。


「いや、ちょっと待って。俺の許嫁? 初耳なんだけど」

「あら、事実ですわ。おじ様とお父様が決めてくださったんですの。それに、カナ様が仰られたではありませんか」

「俺が? いつ?」

「あれは年長の時ですわ」


 年長? てことは、あのお嬢様と坊ちゃまが行く幼稚園の頃か。

 記憶を辿っていくと、思い当たる出来事と人物が浮かんでくる。それに気づいたかのように不動院百合香と名乗るその少女は少し頬を染めながら口を開いた。


「『10年経ってもまだ俺を好きなら、仕方ないからもらってやるよ』って言って下さったではありませんか」


 それを聞いた瞬間、俺は頭を抱えた。

 そういえば、そんなことあった気が……。すげぇしつこく「好きだから結婚しろ」だの「好きになってくれるよね?」だの言われて苦肉の策を用いてそう言った記憶がある。ということは、こいつは…………。と思い、俺はその子を見て告げる。


「もしかして、ユリ?」

「あら、思い出してくださったのですね、嬉しいですわ」

「できることならずっと忘れていたかったよ……」


 心の底から思ったことを言うと、ユリは「カナ様ったら相変わらず照れ屋さんですわね」と言われて、わざわざまた言い直すのも面倒くさくなって棒読みで肯定した。こいつ、昔から人の話を全く聞かない奴だったわ。


 そんな会話をした後にユリが剣持の存在に気づいて彼女に話しかける。


「あなたは?」

「……剣持凛だ」


 自己紹介する剣持をユリは品定めするかのようにじっと見つめ、問いかける。


「カナ様とは…………?」

「あー、ただの友人だ」


 グサッ。……ただの友人……。


「友人にしては近い気もしますが……」

「西園寺のボディーガードをしているだけで、友人以上の感情はない」


 グサッ。……友人以上の感情はない……。


「あら、そうなんですの? てっきり私、カナ様と剣持さんは……」

「違う。…………私、好きな人がいるから」


 グサッ。……好きな人がいる……。


 見事な3連撃を食らい、俺の失恋が確定した。さよなら俺の初恋……。


「あら、それは安心しました、これでカナ様に遠慮なく愛を伝えて好きになってもらえますわ」

「いや、俺、好きな人いるし」


 心が泣いた状態になりながらも俺はユリの言葉に反論する。


「カナ様も好きな人がいらっしゃったのですか!?」

「あー、うん。でも、俺の片想いだし、フラれてるも同然っつーか……あはは……」

「そうでしたか……。では、新しい恋をするならば、カナ様の恋人に立候補させて下さいませ」


 そう言いながら俺に腕を回してくるユリ。剣持がいるのにやめてくれ、もう叶うことはないと分かっていても俺はまだ彼女に想いを寄せている。俺はユリの腕を掴んでなんとか阻止する。


「何でそういうことになるんだよ!? てか、やめろよ!」

「照れなくてもよいではありませんか。私とカナ様は永遠の愛を誓うのですから」

「いや、承諾してねぇんだけど!? ユリ、マジで近いから離れろ!」


 距離感バグってるんだよな、昔から。ほんとこいつ苦手だわ。てか、父さんと母さんの「頑張れ」は絶対こいつのことだ。家帰ったら洗いざらい吐かせる。


 そう思いながらユリに抱きつかれないように押しのけていると、剣持が申し訳なさそうな声をあげた。


「…………あのー、すまない。先に帰っていいだろうか? 今母からLIMEが来ておつかいを頼まれてしまった」

「え、あ、ああ。分かった。また明日な、剣持」

「…………ああ」


 ユリにぺこりと頭を下げた後、剣持は足早に帰っていった。彼女の背中を見送りながら俺は、何故か剣持とはこのまま友人としても一緒にいることが難しくなって、ボディーガードと守られる人というだけの関係になってしまうような、そんな予感がした。

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