10.口から出てしまう俺の本心 ~side凛~

 私_剣持凛が、西園寺要のボディーガードになってから1週間。


 西園寺の様子がおかしい。

 いや、いつもおかしいといえばおかしいのだが、いつも以上におかしいのである。

 気付くと私の事をじーっと見つめては、何か思い悩んだような顔をしたり、顔を真っ赤にしたり、頭を抱えたりと忙しくしている。百面相して疲れないのかあいつは。


 いつものように登校して、予習や小テストの再確認をしていると、後ろから名前を呼ばれる。


「おはよ、剣持」

「おはよう、西園寺」


 聞きなれた声に振り返っていつも通りに挨拶を返すと、西園寺は少し俯いて顔を手で塞ぎ、ぼそっとなんとか聞き取れるような声で呟いた。


「あー、くそ可愛い…………」

「……っ、は? なんだ急に」


 聞こえてきた言葉に驚きすぎて、変な声が出てしまうが、すぐに平静を取り戻して続きの言葉を紡ぐ。西園寺は自分の発言を自覚していないようで、頭にハテナを浮かべている。


「え? 何が?」

「か、可愛いって………………」

「え、今、俺、口に出して言ってた?」

「……言ってたな」


 西園寺の問いかけに答えると、彼は俯いて急に黙り込んでしまった。私はまずいことでも言ったか?と心配になって彼の顔を覗き込むようにして声をかけた。


「……? 西園寺、どうし……」


 彼の顔を見た瞬間、言葉を失った。


 何でそんなに真っ赤になってるんだ? そう思ったけれど、その問いは言葉にならずに終わり、西園寺が先に口を開いた。


「〜〜っ、い、今の忘れろ!! いや、別にお前が可愛くないとかそういうんじゃねぇけど忘れろ! いいな!?」

「…………あ、ああ」


 その後すぐに西園寺は便所に行ってくると言って教室を出ていった。その背中を見送りながら頭の中で西園寺に言いたかったことが溢れた。


 全く、あいつはいきなり何を言うんだ。忘れろとか無茶なことも言うし、可愛くないとかそういうんじゃないって、結局どっちなんだ。それに、可愛いなど、好いている相手やふわふわした女子への言葉だろう。私は可愛くはない、そう言われてきたし。……これで2回目だな、言われるの。変な気分だ。


 そう思っていると、先程西園寺が騒いだせいでクラスメイトの女子が心配そうに私に声をかけてきた。いいか西園寺、こういう子が可愛いと言うんだぞ。


「剣持さん、大丈夫? 西園寺くんと喧嘩でも……剣持さん、熱でもあるの?」

「…………え?」

「顔真っ赤だよ? 体調悪いなら保健室に行った方が…………」

「…………平気だ。ありがとう」


 そう笑顔で伝えてからついでにクラスメイトに西園寺との事も適当に説明した。クラスメイトが私の席から離れたことを確認してから、自分の両頬を両手で触れてみる。いつもより少し熱い気がするが、気の所為だろう。


 そうだ、気の所為に決まっている。こんな変な気分なのは、あいつが変なことを言って、あんな顔をするから悪いんだ。私はいつも通り、のはずなのに、微かにくすぐったいような、でも少し不快な気持ちになっている。まあ、直ぐに収まるだろう。全部馬鹿な西園寺のせいだ。


 自分にそう言い聞かせて、私は生まれて初めて心に宿った訳の分からない感情と顔にこもった熱が収まるように願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る