9.口から出てしまう俺の本心

 剣持が好きと自覚してしまってから、俺は上の空だ。


「要さま、着きましたよ」

「んー」

「要さま、降りないということは、本日は学校をお休みになられますか?」

「んー……」


 今日は珍しく黒澤が学校まで送ってくれたのだが、俺は黒澤の言っていることに適当に返事して聞き流してぼーっとしていた。


「はぁ……やーっぱ納得いかないんだよな」


 自分の気持ちを分かっているのに、「何で」ばかりが頭に浮かんで永遠ループだ。独りごちていると黒澤が尋ねてくる。


「要さま、お悩みごとですか?」

「んー……そんなとこー……はぁ……」

「大変分かりやすい恋煩いでございますね」

「んー…………ってちょっと待て、俺何も言ってねぇぞ」


 黒澤に悩んでいることを言い当てられて驚いた声を上げると、彼はキリッとした顔で答えた。


「要さまは分かりやすいですから。黒澤は話を聞く準備ができておりますよ。遅刻する前に、さぁ」

「……興味津々だなおい」


 話すまで降りる許可も出なさそうだな、鍵ガチャッつったわ。開けてもすぐ閉められるんだけど、いじめか? 黒澤酷くね?


 俺は諦めて、剣持の名前は伏せて黒澤に一通りのことを話した。話し終わると黒澤は少し考えてから運転席から俺がいる後部座席に振り返って俺の名前を呼ぶ。


「要さま」

「な、なんだよ?」

「諦めましょう、もう恋に落ちた時点でもう抗えません」

「聞いといてそれか!! てか、抗えないって何にだよ!?」


 俺の質問に黒澤が淡々と答える。


「本心というか、本音……ですね」

「何を根拠に……」

「根拠って…………要さまはすぐ思ったことが口から出てしまうではありませんか」

「はい?????」

「無自覚なのが一番タチが悪いです」


 遅刻したらいけないのでとりあえず黒澤に礼を言って車から降り、黒澤に言われたことを考えながら教室に向かった。


 え、俺そんなに口に出して言ってるか?


 教室に入って、クラスメイトに挨拶をして席に向かうと、既に剣持の姿があった。


「おはよ、剣持」

「おはよう、西園寺」


 くるっと振り返って柔らかく微笑む彼女。


 あー、くそ可愛い…………。と頭を抱えていると、前から不審がるような、少し恥ずかしがるような声が聞こえた。


「……っ、は? なんだ急に」

「え?何が?」

「か、可愛いって…………」


 ……………………………………え?


 剣持と同じように困惑した俺は、おそるおそる剣持に尋ねた。


「え、今、俺、口に出して言ってた?」

「……言ってたな」

「…………………………」

「……? 西園寺、どうし……」

「〜〜っ、い、今の忘れろ!! いや、別にお前が可愛くないとかそういうんじゃねぇけど忘れろ! いいな!?」

「…………あ、ああ」


 顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった俺は、必死になって言い訳をして一旦教室から出て、人が来なさそうな階段裏まで来てしゃがみ込んだ。


 や、やらかした…………。黒澤の言う通りだった。俺、思ったこと口に出してる。……ってことは、俺、他にもやらかしてる可能性あるんじゃねぇか?え、俺、何言ったっけ?


『俺と結婚して下さい!!』


 待って、とんでもねぇ心当たりあったじゃーん……。


「……………………マージか」


 これはまずい。非常にまずいぞ。だが、まだ告白となりえるようなことを言っていないだけまだいい。

 え?もう既にプロポーズしてるって? の、ノーカンノーカン!(言い聞かせ)

 とにかく、既にやらかしている分、いつ「好き」と言うかも分からない。早急に解決策を見つけなければ…………。


 予鈴の音を聞いて教室に戻った俺は、今日の授業が全部終わるまでには解決方法を見つけると心に誓ったのだった。

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