8.関節キスと好きの破壊力はすげぇって話

 俺の好きなタイプは、可愛くて、ふわふわしてて、守ってあげたくなるような子で。決してこんなにクールで、男の俺をも守れる腕っ節を持った強い子じゃないはずなんだ。


「はずなんだけどな…………」


 剣持の部活も終わり、帰り途中に寄ったコンビニで会計を済ませている剣持を待っている俺は一人考えにふけっていた。


 思えば、出会って間もない女の子を可愛い可愛いって思ってる時点で既に「好き」のフラグは立ってたじゃねぇか。剣持は可愛い。可愛いけど俺の好きなタイプの可愛いとはジャンル違ぇんだよなー。


「認めたくねぇ…………」

「何がだ?」

「ひぇっ!?」


 ぼそっと呟いた瞬間に首元に冷たいものを当てられて飛び上がる。振り向くとくすくすと笑いながら俺にアイスを渡そうとする剣持がいた。


「ふふっ、いい反応するな、お前。ほら」

「うるせぇよ……。あんがと」


 俺はアイスを受け取り封を開けながらちらっと剣持の方に視線を向けると、俺と味違いのゴリゴリくんアイスを食べていた。俺が買ってもらったのはベーシックである水色のソーダ味なのだが、剣持が食べているゴリゴリくんは薄ピンク色をしている。


「剣持、それ何味?」

「いちご練乳」

「まーた甘そうなもんを……」

「美味しいぞ、食べるか?」

「お、マジ?」


 そう言って彼女がアイスを向けてきたので、いちご練乳味に興味はあったので1口もらうことにした俺は、差し出してくるアイスにいただきますと言ってぱくっとかじった。


「……ん、美味ぇけど甘ぇ……」

「甘いの苦手なのか?」

「甘すぎるのが苦手なんだよ。あ、ほら、1口くれたし、俺のも食っていいよ」

「ありがとう」


 そう言って剣持が俺のソーダ味をかじろうとしたその時。


「あー! コンビニの前でいちゃいちゃしてるー!!」

「関節キスだー!!」


 小学生たちの突然の冷やかしの声に俺は驚いて固まる。


 …………か、関節、キス?


 その言葉に俺は自分の持つアイスの方に目を向けた。小学生など気にしている様子もなく、俺のアイスをひとくち食べる剣持。思いの外近くて、彼女の細部の綺麗さにその一瞬で見入ってしまう。特に口元に。その上、彼女のシャンプーの香りが鼻をくすぐってドキッとする。


「美味しいな…………ん? 顔塞いでどうした?」

「ナンデモナイデス」


 えっっろいな!!!!!(感想)


 はっ……! いや違う違う、そうじゃねぇだろ。いや、うん、そう思ったけど別に好きとかそういうじゃないっていうか……いや、誰に言い訳してんだ俺。自分か?好きって認めたくないのは確かにそうだけど、認めざるを得ないっつーか……。あとガキ共、ヒューヒュー言うなうるせぇよ。


「わー、兄ちゃんのが照れてるー! だっせぇ!」

「かっこわるー!」


 イラッとした俺は小学生たちの方に近寄って、にっこりと優しい口調で言い放った。


「ガキんちょ、なんでも好きなお菓子買ってやるよ、お兄ちゃんが」

「いいの!? やったー!!」

「兄ちゃんかっけー!!」

「よし、じゃあ早速お菓子を選……いってぇ!!」


 頭に重い打撃を受けてうずくまる俺の上から呆れた声が降ってくる。


「お前な……。チビたちも知らない人からはものを貰うなと言われているだろう、だめだぞ」

「……はーい、ごめんなさいお姉ちゃん」


 そう言って小学生たちは大人しく帰っていき、剣持は俺に向き直った。


「少し冷やかされたくらいで大人げないな」

「付き合ってねぇのにあー言われるのはお前も嫌だろうが」

「まあ、そうだが……。でも、関節キスと言われたくらいであんなに照れなくてもいいだろう」


 そう言って思い出し笑いをする剣持を見て、俺は顔に熱を集中させ、どもりながら言葉を発した。


「おまっ、あれ、分かって……っ!?」

「案外、初心ウブだなお前。それに、坊ちゃまらしくないし」

「馬鹿にしてんのか?」


 残っていたアイスを食べるかと口にアイスを持っていこうとしたその時、俺の言葉に対する答えが返ってきた。


「いや……むしろそういうお前が好きだ」


 そう言い終えて彼女は最後の一口を食べて棒を見てぼそっと「あ、当たりだ」と呟く。


 唐突に気づいた自分の気持ちを認めたくなかった。だけど、もう認める。認めます。だから。


「西園寺、見ろ、当たったぞ。…………西園寺? おーい、西園寺ー…………聞こえていないのか? おーい。手、見えてるか? 西園寺、返事しろ。おーい、アイス溶けるぞー」



 流石にキャパオーバーだから勘弁してくれ。

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