【 小さなドラマ 】


 病院には、ドラマがある。

 この1つの病室にも、変わらずその人たちの物語がある。


 それは、リアルな現実に起こっている、小さな人生の物語。


 だから、今感じたことを私は、書かないといけないと思った。


 先生に許可を得て、ノートパソコンとスマートフォンを持ち込み、とある小説投稿サイトで、小説を書き続けた。



 自分が病院から執筆していることを隠して。



「未来ちゃん、何してるの?」


 佐藤さんがベッドの上のテーブルに置いてあるノートパソコンに、カチャカチャと音を立てて打ち込んでいる私にそう言った。


「あっ、小説を書いてます……。まだ、全然、上手に書けないですけど……」


「ふ~ん、そうなんだ。僕も小説でも書けたら、自分の病気のことを書けるんだけどな」


「佐藤さんも書いてみたらどうですか?」


「僕はそんな才能ないから、書けないよ」


「あっ、私も才能なんてないですけど、書いてますよ。うふふっ」


「あはは、じゃあ、機会があったらでいいから……」



「僕のことでも書いてよ」



 佐藤さんは、笑いながらポツリと、私にそう言った。


 そんな佐藤さんとの小さな約束……。



 その時の佐藤さんの顔を、一生、忘れることはない……。



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