【 佐藤さんの病気 】


 ある時、私が佐藤さんのベッドの横にお邪魔して、病気のことを話していた時のこと。

 佐藤さんは、病名を私に教えてくれた。


「実は、僕さ。膵臓すいぞうが悪いんだ」


「えっ? 膵臓ですか……?」


「うん、もうね。外科手術もできないんだよ。だから、今は痛みを止めているだけ」


 そう言って、ベッドの横に置いてあったある小さな冊子を私に見せてくれる。

 その冊子には、こんな文字が書かれていた。


『膵臓がん……』


 私はそれを見て、勇気を振り絞って、佐藤さんに聞いてみる。


「佐藤さん……、膵臓がん……、なんですか……?」


「ははは、そうみたい。もうね、抗がん剤治療とか免疫療法とか色々やってるんだけどね。痛いんだよね、膵臓って」


 その時私は、病名を初めて聞いた。


 でも、痛いことは知っていた。


 なぜなら、毎晩のように佐藤さんは、痛みから、今まで聞いたこともないような声をあげ、ナースコールを押していることを知っていたからだ。



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