【 初めての言葉 】


 その後、女の子とあまり話しをしたことがない僕は、間が持たず、場つなぎでテレビを点けた。

 すると、彼女は急におびえたように僕にしがみつく。


「ど、どうしたんだい……? テレビ、見たことがないの……?」


 彼女は震えながら、僕の服をギュッと握り締めている。


「大丈夫だよ。これはテレビだから、何も怖がることはないよ」


 しばらく、彼女とピッタリとくっついたまま、テレビを見ることになってしまった……。

 彼女のいない僕にとって、これは一大事だ。


 こんなかわいらしい女の子が、僕を頼ってずっと隣でくっついている。

 テレビの内容なんて、全然頭に入ってこない。

 僕の心臓はずっとドキドキして、彼女に伝わってしまっているように思う。


 ギュッと握る彼女の手の甲にそっと、右手を添えた。

 横目で彼女を見ると、真剣な眼差しでテレビに釘付けのよう。


 口を何やらパクパクと動かし始めた。

 その唇は、まるで赤ちゃんが初めてしゃべるかのように不思議と見える。


 そして、いつしか彼女の口から、声が漏れた。


「わ、わたし……。き、きみ……」


 これが、僕が彼女から初めて聞いた言葉だった……。



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