【 土佐の山奥 】


 人嫌いな僕は、東京の人混みを避けて、全国でも空家率の高いこの土佐の山に住むことに決めたのだが、いざ一人で住み、3年も経つと、やはり人恋しくもなるもんだ。

 お昼ご飯をひとりで食べるより、ふたりで食べた方が楽しいし、作り甲斐もある。


 彼女がお昼にこの家に来るようになったのは、1週間前。

 僕が山に山菜を取りに行った時のことだった――。


 ある大きな木の根元に、彼女が震えながら丸まっているのを発見した。

 着ていた白のワンピースの服は薄汚れていて、顔も頭も手も足も、土をかぶったようだった。

 心配して、彼女に声をかける。


「ど、どうしたの……? こんなところで、大丈夫……?」


「うぅぅ……」


 彼女の僕を見る目は、初め正直怖かった。

 瞳の色はシルバーで、少しつり目がかっていて、噛み締めるような口元から八重歯が覗く。


 彼女が道に迷ってしまった『迷子まいご』だと思い、僕は手を差し伸べた。

 しかし、その少女はその手を『パシッ』と払い除ける。

 一瞬にして手の甲に、彼女の爪あとが残った。


「大丈夫、安心して。君に何も危害を加えたりしないから。迷子になっちゃったんだよね。さあ、僕と一緒にお家へ帰ろう」


 すると、彼女のお腹が『グルル』と鳴った。

 彼女が何も食べずに迷子になっていると思い、胸ポケットに入れていた飴玉を取り出し彼女へ差し出した。


「お腹空いてるんだね。飴玉あるから、舐める?」


 飴玉の袋を開けて彼女に渡すと、素直に受け取り、一度鼻の前にやり「くんくん」と匂いを嗅ぐ仕草をしてから、ガリガリとその飴玉をかじるようにして一瞬で食べてしまった。

 食べ終わると彼女は僕の胸ポケットの方を見ている。


「あっ、まだあるよ。もっと食べる?」


「ぐぅぅ……」


 それが彼女との初めての出会いだった。



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