【 第二話: 父と彼 】


 母がいなくなったこともあり、父とのふたりの生活に、苦労が無かった訳ではない。

 中学の時に、初めて父に反抗し、家を飛び出したこともあった。


 高校へ入ると、父との会話も減り、父が毎日作ってくれていた弁当箱に、『マズイから肉じゃがは二度と入れないで!』とメモで伝えたこともあった。

 それでも、父は何も言わずその残された弁当をもったいないからと、夜に一人寂しく食べていたことを憶えている。


 高校を卒業して、地元の飲食店で働くようになった。

 20歳の頃、実家を離れ、近くのアパートで一人暮らしを始めた。

 昼と夜とが逆転していたこともあり、父に会うこともほとんど無くなり、完全にふたりの生活はバラバラになっていった。


 23歳の頃、初めて男の人と交際をした時にも、父には何一つ言っていない。

 普通の家族なら、母に相談できるのだろうが、父には何故だか相談したくなかったんだ。


 そして、28歳の時に5年間付き合った彼と別れた。

 初めての彼だったこともあり、別れを告げられた時、一日中涙が止まらなかった。


 原因は、彼の浮気。


 私はショックのあまり、完全にこの出口の見えない暗闇の中に迷い込んでいたんだ。


 そんな時に、今の彼、誠一せいいちさんと偶然知り合った。

 私の働いていたお店に、ここの焼き鳥が美味しいからと言って、彼が通い詰めるようになったのがきっかけ。


 彼は当時、34歳の弁護士。

 背は高く、真面目で清潔感があり、1000万円を超える年収に、人気高層マンションの最上階で暮らしている、いわゆる勝ち組という部類の人。


 初めに彼に告白された時には、前の彼と別れたばかりで、男性不信になっていたこともあり、だまされているとさえ思っていた。


 彼の性格はさっぱりしており、誰にでもやさしく、誰にでも好かれているよう。

 私と付き合う前には、何人もの彼女がいたと、彼の口からも聞いた。


 でも、そんな正直なことを言ってくれる誠一さんに、3度目の告白で私はOKをしたんだ……。



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