祝われたいのに呪われる。2022

びぐろ勇

 祝われたいのに呪われる。

朝が、ついに来た。




この日を何か月も待っていた。




そう。もうみんなわかっているんだ。それは、このわたし八城千尋の...。




---------------------------------------誕生日---------------------------------------




それなのに、今朝は夜中からコンビニのバイトでへとへと。ようやく家に帰れるというのに元気がなかったら祝われるより先に心配されてしまうかもしれない。




「そんなこと、あってはいけない!!」




「おいバイト、うるさいぞ。」




「あっすんません...。」




まずい。つい声が出てしまった。だがこれは仕方のないことではなかろうか。それは朝起きたらトイレに行きたくなり、チョコを食べてしまうのと同じことだ。




それにシフトはあと小一時間といったところなのだ。みんな私が今日誕生日なのは一般常識として知っているはずなのだし(少なくともこのコンビニのバイト仲間くらいは)、許してくれたって...。




話が逸れた。まぁあと一時間で祝われまくるんだし、辛抱しようか。




「いらっしゃいませー。」




「アツアツの肉まんはいかがですかー」




「あ、ピザまんですか。1,800円になります。」




「肉まんは...。」




「にく...。」




「に...。」




やっと終わった。ついに、ついに解放されるんだ!後はいつも通りタイムカードを押して祝われようではないか。




ふーっと一息つき、バックヤードへの扉を開く。




そこそこ広い部屋にほかのバイトたちのカバンやら何やらが置きっぱなしにされた無駄にでかい机。




「八城さん~お疲れ様。」




一年先にバイトに入っていた先輩の東西さんだ。大学二年で何をとっても普通としか言いようのないただの凡人だ。確証はないが。




「あ、東西さん。お疲れ様です。先輩はこれから二時間くらいやって帰るんでしたっけ。」




こんな会話がしたいわけではないがあくまで先輩なので反応してあげよう。




「うん。正直面倒だよねぇ。」




普通の先輩の普通のセリフだ。




「じゃあ頑張ってください。お先に失礼します。」




早く帰ろう。




「あっ、八城さん。」




扉の取ってに手をかけたところだった。ただ切実に思う。早く...帰りたい。




「え、なんでしょうか?」




「お誕生日、おめでとう。」




意外にも最初に言ってきたのは先輩だった。




嬉しいと思う、と思うのか?喜ばしく思っていると思うか?




残念だったな。




なんでお前なんだよ!!!これが本来の思いだ。だがあちらも良かれと思ってやっているのだ。




「え!覚えててくれたんですか?ありがとうございます!」




完璧な演技だ。




「当然だよ。、はいこれ。こんなものしかないけど...。」




ほほう。何かもらえるのならば悪い気はしないな。




「これは...?」




「さっき買った肉まんだよ。今日は全然売れなかったねー。」




そんなのかよ。




「ありがとうございます。いただきますね!」




「こんなのしかあげられなくてごめんね~、僕も結構かつかつで。」




ほんとだよ。まあいいか、これ食べながらさっさと家に帰ろう。




「そんなことないですよ。気持ちだけでもうれしいのに。」




「ありがとね、じゃあお疲れ様。また今度。」




「お疲れさまでした~。」




はあ、ようやく解放された。さてと、帰るぞ!




バックヤードの扉を開いた瞬間のことだった。




「強盗だ!金を出せ!」




レジを担当していた早朝バイトの女の子が強盗にナイフを突きつけられていた。




「あ、あの、えっと、その...。」




だめだ。あの女の子は震えてろくに動けていない。




「はやくしろ。」




強盗がナイフを近づける。正直こんなことどうでもいいから帰らせてほしい。だがいま私が動けばあの強盗を刺激してしまうかもしれない。




「出せって言ってんだろ!!それん中に入ってる金全部出しやがれ!」




「あ、あ、あの、」




もう女の子は泡を吹くんじゃないかというほど顔を真っ赤にして固まっている。




うすうす感づいてはいたがわたしも少しパニックになっている。あまり冷静な思考ができなくなっている。いや、こんな思考ができているからまだ冷静なのか?だめだ、やはりパニック状態なのだろう。




何を考えてかわたしは自動ドアに向かって歩き出していた。




もう無心だ。ただ、歩みを進める。周りからの目線はすべて無視する。理由は一つ。祝われたいから。




「おい、おまえどこに行く?そこのお前だよくそ野郎が!」




だめかー----!!!!いや、わかってはいたんだ。




「お前裏から出てきたな。このガキは役に立たない。お前が金を出せ。」




そ、そうきたかーっ!まさかの展開だ。待てよ?これ、チャンスだ!




さっさと金を渡せばこの強盗は満足するし私は面倒に巻き込まれず帰れる。




よし。渡そう。




「わかりました、少し待っていてください。」




その場にいる全員がきょとんとする。




そんななかわたしは堂々と一歩を踏み出す。




「しゃらくせぇおらぼけぇ!!」




え?




あの女の子だ。私のほうに気が逸れていた強盗の口にいくつもの防犯用のカラーボールを詰め込む。




「おらぁ!」




べしゃぁ。




「どらぁ!」




げしゃぁ。




「えりゃぁあ!」




ぎっちゃぁ。




女の子は震えていた。強盗に対する恐怖と、歯止めがかからなかったカラーボールを詰める手に。




強盗は口での呼吸ができず床に倒れこみ、ナイフを弱々しく振り回す。




カラーボールを詰め込んだ女の子が強盗を心配してかレジから出る。




「あ、あのぅ、す、しゅみません!大丈夫ですか?そ、その、息できますか?」




聞こえるか聞こえないかぎりぎりの声量だ。その状態にしたのは自分だろう...。




「で、でめぇ!ゆるざでぇ!くっ、げほっげほっ」




カラーボールが口の中を満たしているのだろう。酸素が脳に回っていないかもしれない。




「あ~とりあえず警察を呼ぼうか。」




バックヤードからひょこっと顔を出した東西さんが提案する。あんた今まで何してたんだよ感が否めない。まぁふつう怖くて隠れるのかもしれないが。




「そうですね、警察はよろしくお願いします。強盗は...。」




わたしは先輩に警察を頼み、女の子と強盗に目を向ける。




「ん、んん!んん!ん!」




襲われた女の子が強盗の足とナイフを持った腕、それに口を押えている。




「え、な、何してんの?」




困惑にしたわたしは目をうるわせた女の子に聞いた。いや、聞いてしまった。考えるより先に声が出てしまったのだ。




「あ、えぇと、この男の人が暴れだしたので...危なくて、ごめんなさい。」




今にも泣きそうだ。




「え、いやいやいいんだよ。それより助かったから、ありがとね。」




よし。終わったな。あとは帰ろう。なかなかの非常事態に少しパニックになってしまったが、もう安心だ。




そのままコンビニの外へ出ようと歩き出した。外の空気はおいしいというのを初めて感じた気がする。最高だな!




と。思った矢先だった。なにかが服を引っ張りコンビニの中へと引き込む。まだわたしの、わたしだけの祝日を邪魔するつもりか?




「あのぉ?もう帰らせて...。」




「だめですよ八城さん。警察がの人が来るまではじっとしてけって言ってましたよ。」




お前かよーー!知らねぇよ、頼むから、帰らせて...。




それからすぐ、警察がやってきた。その場にいた全員に事情聴取をしていく。




「それで、そこの馬乗りになっている女の子は...。」




警察は困った顔で尋ねてくる。




「あ、あのぅ、えぇーっと。」




あからさまにてんぱっている。




「その子は犯人を捕まえてくれたんです。かっこよかったですよ。」




そう言ったのは東西さんだった。まあこれはファインプレーだろう。この状態では何を聞いてもあわあわされるだけだろうし。




「犯人に...カラーボールを食べさせたんですね。ご協力感謝します。」




なんとなく面白い状況に立ち会えている気がする。今日はわたしの誕生日で、祝われるはずの日だがまぁいいか、とも思える。




さぁ、帰ろう。






---警察署だ。...なんでだぁぁぁ!でもしょうがない。受け入れよう。




警察署なんて初めてくる。意外と散らかっている。どうやらわたしはガラス張りの部屋で話を聞かれるようだ。




「それで、あなたはそのとき何を?」




「あぁえぇっとシフトを終えてすぐだったので帰ろうとしてました。」




真面目に質問に答えていく。




「おや?あなたもしかして...。」




やましいことはして、いない。うん。していない。




「今日誕生日じゃないですか!おめでとうございます!」




二連続でどうでもいい奴に祝われた。




「ぁあ、ありがとうございます。」




面倒くさいとはいえ露骨にダルそうにしてしまったかと心配になる。さぁどうだ?




「いやぁめでたい!」




よかった!ばかだ!




そんなことを思っているとどこからか声が響いてくる。




「うっ、あのぉ、わたし、防犯用のボール三個も食べさせちゃって...店長に、うっぐすっ怒られますかぁ?」




関心すらする。こんな壁が分厚いのに聞こえてくるなんてどんな大声で泣いているんだろうか。






---ようやく外に出て自由になれた頃にはもう昼過ぎだった。もうくたくただが帰ろう。




家の前についた。ついに、ついにわたしに主役が回ってくる。まったく今日はおかしいんじゃないか。呪われてるみたいだ。




「ただいまー。」




あせらず元気よく行こう。なかなか人が出てこない。サプライズかもしれない。しつこく言わずもう中に入ろう。




がつがつとリビングのドアを開く。




「ただいまー。」




主役が返ってきたというのにみんなで座っておしゃべり中だったようだ。




「あなた、だれ?」




母がわけのわからないことを言い放つ。何なのだろうか、入る家を間違ったのか?




「何言ってるの、わたし、千尋だよ!」




父に母、妹が立ち尽くし、ポカンとしている。




「ママーこのおじさん誰ー?」




お、おじさん?何の話だ。




「あなたもしかして、千尋が相談してた、ストーカー?」




母が怯えているように見える。




「何言って...。」




「なんにしろ君は勝手にこの家に入ってきたんだ。次はないと思いたまえ。」




ちちが怒っている。




「わかったらさっさと出ていけ!今日は娘の誕生日だぞ!」




男は俺を追い出した。




俺はストーカーだったのか。まぁそんなことはどうでもいい。




おや、ちょうど向こうからチヒロチャンが家に向かって歩いてくるぞ。




うれしいな。




そうだ!あれをプレゼントしよお。




アサモラッタニクマンガソノママノコッテイルンダッタ。


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