母のおままごと

白飯に漬物をのせてお茶をかける。自分の好きなおかずがないとき、父はきまってそうして食べた。母は肉と野菜をあまり好まず、希望を伝えなければ魚料理ばかりがでてくることもあって、わたしもずいぶんと偏った食生活を送っていると思う。


「あの人、文句は言わないけれど行動で示してくるタイプだからね。受けとる側は、好き勝手なものよ」


母は父が食卓をあとにすると、いつもそうやって父の悪口を言っていた。父がそばにいたとしても言った。そんなけんかを仕掛けるようなことを本人を前にして言うとなれば、母は本当は父に叱ってほしかったのだろうか。ふたりにわたしの知らないやりとりが交わされていたかもしれないが、その都度わたしは体がこわばってしまっている。


「ごめん。明日はお肉が食べたいな。野菜炒めなんかどうだろう。足りない食材があれば、帰りがけに買って帰ってくる」


ときどき父はそうして意見を口にする。か細い声で、それでも言いよどむことはなくたしかな意思を言葉に込めて。そのとき、母はうれしそうな顔をするのだ。まるで父が言葉を発することを待っていたかのように、もしくは、好きな人にほめられたときの女の子のように。


わたしはそれがとても不思議だった。それ以外にも、母が文句を言っては父が要望を口にして、母がよろこびながらその要望に応える。けんかしているところは見たことがなかった。わたしは口をはさまなかった。けれど、なかまはずれにされているわけではなくて、ふたりのおままごとに混ぜてもらっているようで、とても心地がよかった。

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