05話.[寝かせないから]
「クリスマスだな」
「だな」
「そうですね」
「そうだね!」
今日を迎えたということは学校が終わったということだからまた時間つぶしが大変になる気がした。
それでもわざわざクリスマスに計画を立てることもないので、楽しもうとしたところで違和感に気づく。
「母さん、なんか変なのがいないか?」
「励のことだろ? さっき拾ってきたんだ」
「友達と過ごすんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけど断ってこっちに来たんだ、だから今日はちゃんと相手をしてねー」
まあいいか、こういうときは人数が増えるほどいいってやつだ、母が色々買ってきてくれていたから早速食べることにした。
「急に参加できなくなったと言ったら怒られちゃったんだよねー」
「当たり前ですよ、当日に言われたら困るじゃないですか」
「でも、参加して空気が読めない存在になるよりよくない?」
「それでも当日に断るのは余程の理由がない限りは駄目ですよ」
ふざけることは多くあってもそういうことはこれまで一度もしてきたことがないのになにをしているのかという話だ。
俺達なら焦らなくたってちゃんと相手をする、向こうは今日のこれで一緒にいられなくなる可能性だってあるのによ。
「青の言う通りだな、だが、私は励が来てくれて嬉しいぞ?」
「あ、その言い方はずるいですよ、俺だってそれがなければ純粋に喜んでいました」
「ふっ、後からならいくらでも言えるよな」
「ち、違いますからっ」
それから何故か三人でこっちを見てきた。
俺は岩本と同意見であり母の言いたいことも分からなくもないから、注意しつつも過ごせることになってよかった的なことを言っておいた。
そうしたら分かりやすく「でしょ!」とか言って調子に乗りそうだったので、これ以上はなにも言わずに食べておくことにした。
「おい亮太、ひとりで食べすぎだろ、父さんの分も残しておいてくれ」
「励が参加した時点で無理だろ、食べ終えたら追加で買ってくるからさ」
「あ、そのときは僕も付き合うよ」
「おう、頼むわ」
なにか物を買っていなかったことを後悔していた。
クリスマスプレゼントとして渡すことに微妙さを感じてそうしたわけだが、いつも世話になっているからとかそういうことで渡すこともできたというのに馬鹿だったことになる。
もっとも、この後は本当に出来合いの物を買いに行くだけでそういう物を買うために言ったわけではないからあれなんだが。
「ふぅ、励、行くか」
「行こう!」
「はい金」
「おう、行ってくるわ」
一応確認してみても行かないということだったからふたりで家を出た。
一階はエアコンによって暖まっていたから外がとにかく辛かったが、戻るわけにもいかないから急いで店を目指す。
が、残念ながら楽をしようとするのが人間なので、ほとんどいいのがもう売っていなかった。
「違うお店に行ってみる?」
「そうだな、そうしよう」
流石にちょびっとしか食べられる物がないんじゃ可哀想すぎる。
父だっていつも頑張ってくれているんだからこういう日ぐらいは贅沢をしてもいいはずなんだ、というか、マジでこのままだと泣きそうだからできなかった。
「お、可愛い」
「ん? 小さなクリスマスツリーだな」
「こういうのって欲しくなるよねー」
「それは売り物じゃないぞ、それより早く行こう」
仮になにかがあってもこれは食べ物を買うために受け取ったわけだから買うことなんできない、そうだ、五千円だとしてもそういうことになる。
寧ろクリスマス以外の方が渡しやすいだろうからそのことはもうどうでもいいと言えた。
「ちょっと遠いけど来た甲斐があったな、買って帰ろう」
「うん、あ、袋は僕が持つから」
「そんなのいいよ」
普段から走っているわけではないから走るのは結構厳しかった、だが、急げば急ぐほど自分のためになるわけだから頑張れた。
明日から冬休みが始まるという状況で風邪なんか引きたくはない、励にだって風邪を引いてほしくなかったから必要なことだったんだ。
「ま、待ってー」
「あ、悪い」
いつもあんなに元気なのにこれはまた意外なところを見せてくれたもんだ。
「ゆ、ゆっくり帰ろうよ、急いだって特に変わらないんだし」
「はは、そうだな」
来年もこうして励と過ごせるか分からないんだからそうしておくべきだったか。
冷静じゃなかったのは実はこっちだった、ということになる。
それかもしくは、クリスマスだからこそなのかもしれないが。
「さっき怒られたって言ったけど後悔はしてないよ、寧ろこっちに来てよかったと思ってるよ」
「それならよかった、やめておけばよかったとか言われても困るからな」
もしそんなことを言われていたら俺はどういう対応をしていたんだろうな。
怒っていたのかもしれないし、そんなこと言ってくれるなよといま言ったみたいに困っていたかもしれない、単純に寂しく感じていた可能性もある。
「それに今日はほら、こうして亮太朗が相手をしてくれているしね」
「どこかの誰かさんがふらふらしているからなあ、相手をしようとしても相手がいなければできないんだよなあ」
「ふらふらしているのは亮太朗なんだけどね」
「それはない、岩本が自然と来てくれるから大抵は教室にいるだろ?」
「絶対に違う、ふらふらしているのは亮太朗なんだよ」
これもいますぐどうこうと解決する問題ではないからとにかく家まで歩いて、家に着いたら客間から布団を持ってきてそれをかぶっていた。
一秒でも早く冷えをなんとかした方がいいということでしているわけだが、何故かそれを取ろうとしてくる意地悪マンのせいで上手くはいかないという結果に終わる。
「なんだよ励」
「……亮太朗が悪いんだから」
「相手をするから取ろうとするのはやめてくれ、明日熱を出したら風邪を移すぞ」
それでもやめてくれなかったから実際にしてやろうと決めた。
こうして一緒にいるのに不満がありますといったような顔はやめてほしかった。
「励先輩はもう寝たみたいです」
「そうか、正直、今日のあの感じだったら寝てくれた方が助かるな」
お互いに合わせて変えることはないことだったからどうしようもないことだった。
母が止めてくれたからよかったものの、もしそうじゃなかったら二十一時半現在でも続けていた気さえする。
「悪いな、なんか放置することになって」
「いえ、こうして集まれただけで嬉しいですよ」
「クリスマスぐらいわがままを言え、そういうところだぞ」
「それなら……」
それならなんなのか、ちゃんと全部話してくれないとこれもどうしようもない。
勝手に想像して○○なんだろ? とか言ったところで冷たい顔で見られるぐらいにしかならないだろう。
「このまま会話を続けたいです」
「夜ふかしをするってことか? はは、たまにはいいかもな」
「……いまからなにかを買いに行きませんか?」
「そういうところだぞと指摘したのは俺だ、付き合うよ」
追加で買ってきた方にもあんまり意識を向けていなかったから腹が減ったんだ、食べなければ誰だってそうなるからおかしなことじゃない。
あと、緩い時間を過ごすならそういうやつがあってくれた方がいい、菓子とかジュースがあれば眠たさもどこかにやれるはずだった。
「途中で寝そうになったら遠慮なく起こしてくれ」
「分かりました」
世話になったということで買ってくれるみたいだったから任せておくことに、一応世話になる側にもなるわけだからそこそこな感じの袋は持たせてもらう。
今日は何回も外で過ごしているからいまは寒さはどうでもいい気がする。
「そろそろいいですよね? 亮太朗先輩って呼んでもいいですよね?」
「亮太でもいいぞ」
亮太朗と名付けたくせに「面倒くさいから亮太でいいや」とか言う人達だった。
一文字省略しても問題ない名前だから特に不満というのはないものの、それなら亮太でよかっただろと言いたくなってしまうのは大人な対応ができていない証拠なんだろうな……。
「いえ、亮太朗先輩って呼ばせてもらいます」
「そもそも俺だけ呼んでなかった理由はなんだよ、いままで信用できていなかったということなのか?」
「ち、違いますよ、これは……」
「それやめろよ、相手をしている側はどうしようもないんだぞ」
言い切ってから固まってほしい、言うつもりなら五秒以内に言ってほしい。
そんなに引っかかってしまうぐらいならちゃんと引っかからずに言えるようになるまで内に留めておいてほしかった。
簡単に不安な状態にさせられる最強とまでは言えなくても強力なそれ、俺は自分勝手だから俺のときはしてほしくないと真っ直ぐに求める。
「ちょっと恥ずかしかっただけです」
「おいおい、別に恥ずかしい名前じゃないだろ……」
言ってくれたら言ってくれたでこっちが不安になるって青は強すぎだろ……。
俺は自分の発言で相手を困らせたことなんて一度もないから堂々と言える、そういうのは学生時代の内に直しておくべきだ。
良好な人間関係が築きたいなら尚更そうだ、また、トラブルとかに巻き込まれたくない場合でもそうだと言える。
「違いますよ、相手が亮太朗先輩だからですよ」
「いやそれ、余計に悪くなっているだろ……」
「ち、違いますから!」
そうか、違うと言ってもそうじゃないと言う励の気持ちってこんな感じなのか。
いやでも、悪いことをしたとは思えない、だって一緒にいられない理由を作っているのは励本人だからだ。
俺だって小さい頃から一緒に過ごしてきた励といたい、でも、何度も言うように他を優先されていたらできないことになってしまうんだ。
「なんかむかついたから今日は朝まで寝かせないからな」
「じゃあ勝負ですね、あ、普段は夜ふかしとかしないので多分俺が負けると思いますけど」
「俺もそうだよ、だからいい感じの勝負になるんじゃないか?」
励とのそれはともかく、起きられて二時ぐらいまで、と予想してみた。
五時半とかは普段自分が起きる時間だからその時間まで起きている自分なんて想像できない。
言ってしまえばそれで翌日の昼とかまで寝てしまうんであれば早く寝て早く起きてしまった方が自分のためになるからな。
「寝たら起こさないようにしますね」
「俺はちゃんと起こしてやるから安心しろ」
それでも青から勝負という単語が出たわけだから負けるつもりでいるわけにもいかなかった。
俺が勝ったら再度もっと遠慮しないでほしいと言おうって決めたのだった。
「負けた……」
「亮太朗先輩は十二時――」
「全部言うなっ」
いちいち言わなくても日付が変わった後の記憶がないんだから分かっている。
くそ、悔しさよりも言えなかったということが嫌だった。
自分が決めたことだから負けた以上は言わないが、励が俺の代わりに言ってくれたりしないだろうか?
「おはよう……」
「おはようございます」
「おはよう、少し遅かったな」
「亮太朗ー……」
これは期待できなさそうだ、それどころか自分のことで忙しいらしい。
なんでも夜中に目が覚めてからはは昨日の絡み方が問題だったことに気づいてずっと寝られなかったみたいだ。
それでも俺らとは違って早めに寝ていたというのもあって眠たさというのは全くないらしい、が、俺にしてしまったことで引っかかっているからスッキリしない状態でもあるらしかった。
「俺ならちゃんと相手をするから安心してくれ」
「怒らないの……?」
「とにかく困ったから発散するために青と夜ふかし勝負をしたんだけどな、残念ながら負けちまったんだ」
「当たり前だよ、早寝早起きタイプの亮太朗に勝てるわけがないよ……」
「ははは、だな」
ちなみに不満だったのか「俺だって夜ふかしなんてしませんよ」と青が言っていたが、本人から直接聞いていたから知っているよとだけ返しておいた。
「そういえば青、クリスマスなのに早く寝るわけがないだろとか言っていた母さんはあの後どうなったんだ?」
「翌日、今日も仕事があるからということで亮太朗先輩が寝た後すぐに部屋に戻りました」
「そうか」
意地を張って朝まで起きようとする人間じゃなくてよかった、多分、俺が寝ていなかったらその結果になっていただろうからよかったのかもしれない。
おまけに、遠慮していないと言っているのに何度も遠慮している認定をされても青としたら嫌だろうからな、やめておけと止めてくれたと考えておこう。
「ふぅ、なんか亮太朗に座ったら落ち着けたよ」
「俺は椅子じゃないんだけど……」
あと、なんか問題児を相手にするときみたいにずっと腕を掴まれているんだ、そういう点でも言わなくてよかったのかもしれない。
「あ、そうだ、どうせ集まっているなら勉強をしよう」
「れ、励から言うなんて……」
「その反応は失礼だよ! よし、青ちゃん一緒に行こう!」
「分かりました」
いやマジで励の方からこう言うなんて思っていなかったから驚いた、青の方もやけに簡単に拘束を解いたから同じだ。
まあ、やっておけば後の自分が楽になるのは確かだ、寧ろ最終日付近に励が泣きついてこなくなったということなんだから変な風に考えなくていいか。
「ただいまー、さ、やろやろー」
「おう」
部屋だとベッドに転びたくなるからリビングでやることにした、そもそもふたりにとってはつまらない場所だから移動する意味もなかった。
で、励から言い出したのもあって今日はやけに集中していて、喋りかけることもできなかったぐらいだった。
「なあ青、理由って分かるか?」
「いえ、特には……」
「そうだよな」
昨日変な絡み方をしてしまったことからこれまでのことを考えて反省したということなんだろうか。
ちゃんとやってくれるようになったのは嬉しいが、励らしくないのは確かだからなんか素直に喜びづらいそれがある。
「ふぅ、今日はこれぐらいかな」
「あ、集中力はいつもの励のままでよかった」
「む、なんか失礼だなあ……」
今度は攻撃を仕掛けてきたからそれを躱していたら何故か青に腕を掴まれた、勘違いするなよと言いたいのだろうか。
分からないことも多いからふたりには自由にやらせてこっちは集中することに、攻撃や謎の行為をされていても今日の分をやり終えるまでは続けられたからよかった。
「今日のお昼ご飯は僕が作るから任せてよ、それで亮太朗に『美味しい』って言わせてみせるから」
「それなら俺も手伝います、なんにもせずに食べさせてもらうのは違うので」
「よし、それなら一緒に『美味しい』と言わせよう!」
明らかにひとりで作りますと言っている感じだったのに違うらしい、励からしたら俺にそうやって言わせたいだけで手段はどうでもいいのかもしれない。
こちらとしては作らなくて済むんだから感謝しかない、休みの日の昼間ぐらいはのんびりしたって悪くはないだろう。
ただまあ、部屋でもリビングでも時間をつぶせる道具ってのはやっぱりないことになるが……。
「それでなんで青ちゃんは亮太朗の腕を掴んでいるの?」
「相手をしてもらいたいからです、励先輩といるのでいつもこっちの存在を亮太朗先輩は忘れてしまうので」
「んー、確かに僕がいるときはそうかもね」
「はい、だからこれが必要なんですよ」
母が見たら俺がわがままを言って青がなんとか止めようとしている的な風にしか見えないはずだ。
断じて俺はそんなことをしたわけじゃないから堂々としていればいいが、やることがなくなると気になることは確かだった。
せめて逆だったなら……って、青はそんなことをしないかと終わらせる。
「亮太朗は壁性能が高いから寄りかかっても問題なーい」
「いやあるよ、重いからやめろ」
「嫌だー、僕は自分がしたことを反省してこれからはもっとふたりといることにしたからこうするのー」
「それ反省じゃ、いててっ! せ、青っ、なんか力が強いぞ!」
「あ、なんかすみません」
全くすみませんと思っている顔じゃねえ……。
自分から励みたいになってほしいと考えておきながらあれだが、正直、こういうことになるぐらいだったらそのままでよかったと感じている自分がいた。
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