03話.[気になっただけ]

「おい亮太、あのふたりのクリスマスの予定ってどうなっているんだ?」

「え、それは直接聞いてもらわないと分からないぞ」


 他の友達を優先したり家族を優先することが多かったから一緒に過ごしたということはなかった。

 去年から岩本とも関わるようになったわけだがそっちも同じで、だから今年も一緒に過ごさないまま終わるんだろうと考えている。

 そりゃまあ、クリスマスにわざわざ野郎と過ごそうとする野郎はあんまりいない、よな? 俺が知らないだけなんだとしたら謝ろうと決めた。


「もし予定がないなら今年はここに来てほしいんだよな」

「ちょっと気に入りすぎだろ、変な関係になったりしないでくれよ?」

「父さんがいるのにそんなことするわけないだろう、がっ!」

「いった!? た、叩くなよ……」


 はぁ、一応話をしておいてやろうか。

 先程あんなことを考えておいてあれだが、男友達と集まれば楽しめるからそういうのも悪くないだろう。

 参加してくれる感じは全くしないものの、それこそ言ってみないと分からないってやつだった。


「あ、二十四日は家族と過ごして二十五日は友達と過ごすから」

「そうか、教えてくれてありがとな」

「青ちゃんを誘ってみたらどう?」

「あ、連絡先を交換していないんだよな」

「えっ、そうだったのっ?」


 そういう話になったことがないからずっとそのままだった、学校に行けば会えるというのが別に急ぐ必要はないという考えに繋がったのかもしれない。

 それこそ時間があるから明日にでも話してみようと決める。


「あ、お母さんに呼ばれているから切るね」

「おう、また明日な」


 寝る時間まで適当に過ごして、寝る時間がきたらさっさと寝た。

 朝食作りも洗濯干しも母がしてくれているから早く起きる必要はないが、大体五時半には勝手に目が覚めるようになっている。

 もしかしなくても眠たくなるときがあるのはこれのせいだろう、でも、勝手に目が覚めてしまうからどうしようもないことなんだ。


「ふぁぁ~、……意識すればするほどなんか眠たい感じがするな」


 だからって夜ふかしをして起きる時間を遅らせようとなんて考えられなかった、それは生活リズムが崩れてしまっていることを意味しているから駄目だろう。

 逆に今日みたいな時間にアラームを設定してしまうのはどうだろうか? うるさいと止めて気づけば七時ぐらいまで寝てしまった、なんてことになったりも……。


「大きなあくびですね」

「丁度いい、岩本ってクリスマスはどう過ごすんだ? 母さんが可能なら一緒に過ごしたいと言っているんだけどさ」


 少しの恥ずかしさを誤魔化すために言わせてもらった。

 一応こうして言っておけば仮に実現しなかったとしても怒ってくることはない、流石の母もそこまで鬼というわけではない。


「特に予定とかないですよ、誰にも誘われなければどっちも普通に家で過ごすだけですね」

「それなら来てくれないか?」


 こう言いながら俺はしまったと後悔していた、母が~なんて言ったらこの前みたいに断れなくなってしまうというのに馬鹿だ、全く学んでいない。

 とはいえ、いまから無理しなくていいからなとか言ったところでそれはそれでプレッシャーになる、ただただ黙って待っておくしかできないんだ。


「この前から杉先輩や由舞さんにはお世話になってばかりですけど、それでもいいなら……」

「ありがとな、じゃあそういうことで頼むわ」


 よし、これで冗談でもぶっ飛ばされることはなくなった。

 まだ結構時間があるからなんとなく大人しく教室には向かわずにこの前の場所に行くことにした、何故か岩本も付いてきたからひとりというわけではなかったが。


「あ、岩本的には残念だろうが励は参加しないぞ、昨日誘ったけど断られたんだ」

「そうなんですか、俺らと違って沢山の人といるから仕方がないですよ」

「でも、残念だろ? 岩本は励のことをかなり気に入っているんだから」

「え、特にそういうのはないですよ? 去年に励先輩とも出会いましたけど、去年だって別々に過ごしましたからね」

「そうか」


 いきなり中学生の岩本を連れてきたときは驚いた、明らかに彼も困っていたのに励だけ楽しそうでなんだこれって考えたぐらいだ。

 ただ、そうやって一緒に過ごすようになってからは結構すぐに仲良くなれた気がする、いまみたいに「杉先輩」と何回も話しかけてくれていたから俺が勝手にそう思っているだけ、というわけではないはずだった。


「ここ、励には内緒な」

「はは、そんなことしなくても来ないと思いますよ?」

「それでもだ、なんか気に入ったんだよ」


 ただの校舎の裏側で、ここから見える景色も特にいいわけじゃない。

 そもそも目の前にあるのはネットと道路だ、車が通れば静かな時間だって終わることになる。

 だが、だからこそいいのかもしれない、ほら、奇麗な景色が見えるような場所ならみんなが来ようとするはずだから。


「はっくしゅっ、……教室に行くか」

「はは、はい」


 ……ここでゆっくりするのは春とか夏とかにしようと決めた。




「青ちゃん、亮太朗を見なかった?」

「杉先輩ならここにいますよ」

「あ、青ちゃんで見えなかった、なんでこんなところにいるのさー」


 教室が嫌だとかそういうことじゃない、あれからはこういう静かな場所を求めてしまっているというだけだ。

 岩本とだって約束をしていたというわけではなく自然と現れただけだった、もしかしたら彼もこういう場所を自然と求めているのかもしれない。


「で、どうしたんだ? 探していたってことは用があったんだろ?」

「違うよ、なんかすぐに出ていくから気になっただけ」

「じゃあこれからはちゃんと言ってから出るよ、探してもらうのは申し訳ないから」


 大して離れていないところに教室があるのに本当に境目のところでぴしゃりとロックされるんだ、だから大きな声を出しがちな励が叫ぼうときっと聞こえてくることはない。

 俺がこの場所に合わせて静かになるというのもある、もっとも、表面上はともかく内側は考え事をしたりしているから賑やかなんだがな。

 今日はなにを作ろうかとか、こういうところで過ごすときになにかがあったらもっと楽しくなるのかとか、そういうことばかりを考えていた。


「あとね、青ちゃんがあんまり教室に来てくれなくなったから心配になるんだよ」

「いつだって行けるわけじゃないだろ、そのときの気分次第で変わることだ」

「でも、亮太朗のところには行くの?」

「それは励が友達と過ごしているからだろ、励がひとりで座っていれば間違いなく励の方に行くよ岩本は」


 俺が呼んできたわけではないということを説明しておく。

 ふむ、元気である励が現れても特別壊れたりはしないみたいだ。

 まあこれはずっと一緒に過ごしてきた励だからだ、他の人間が同じように来たとしたらあっという間にここは落ち着く空間ではなくなってしまうか。


「亮太朗が言っていることはほんと?」

「はい、この階に移動したタイミングで杉先輩に気づいただけですから」

「僕の方にも来てほしいなー」

「ちゃんと行きますよ、そもそも励先輩があのとき話しかけてきてくれていなかったらこうなってもいないですしね」


 んー、これなら昼休み以外はちゃんと教室で過ごした方がいいか。

 そうすれば探す必要なんかなくなるし、励も岩本も目的を達成しやすくなる。

 正直に言えばこっちはおまけみたいな感じでよかった、ひとりならひとりで寝て過ごしたりと時間をつぶす手段には困っていないからだ。


「じゃ、戻ろー」

「そうだな」


 そうか、人が多いところが苦手なんだからこういうところに行きがちなのは普通のことだ。

 ましてや行き先が先輩の教室ということになればどうしようと悩んだっておかしくはない、友達がいたところでそういうのは変わらないだろうからな。


「待った、どうせならここで昼休み終了時間まで過ごそうぜ。俺らは自分のクラスだからよくても後輩である岩本にとっては違うんだからな。ちなみに俺は先輩の友達がいたとしても先輩の教室でのんびり過ごすのは無理だぞ」


 ポジティブ思考をする人間でもベースが俺だからそんなもんだ。

 もし気にせずに過ごせるという人間がいたら真っ直ぐに褒めよう。


「え、亮太朗に先輩のお友達はいないでしょ?」

「だからいたとしても、って言っているだろ」

「なるほどー」


 それに彼は励といたがっているんだからたまには一緒にやってほしかった、そういうのもあって勝手に来てくれたことには感謝しかない。

 いやほら、先輩としてなにかしてやりたいだろ? 卒業するときとかに「杉先輩がいてくれてよかったです」とか言ってもらえたら嬉しいだろ。

 まあ、そういうのを意識してしているわけだし、そもそも彼にとってこれがよかったのかどうかも分かっていないからあれだが。


「でもさー、寝てばかりだと思ったら今度はふらふらしだして亮太朗も心配になるよ」

「励に言われるのはむか、複雑だ」

「あ! いまむかつくって言おうとしたでしょ!」

「違うよ」


 ところで、どうして彼は黙ったままなんだろうか? 余計なことをしてくれやがってと内をごちゃごちゃにしている最中なのか?

 見たまんまだからいま気づいて~というわけではないものの、気になってしまうのは確かなことだった。


「今日の放課後も一緒に帰ろうね、青ちゃん」

「はい」


 一緒に帰らなかった日を思い出そうとする方が難しい。

 これもまた当たり前のことじゃないが、当たり前のことのようになっているのが面白かった。

 だってこの中の誰かひとりでも別行動をしようと考えたらできないことだからだ。

 ただ、彼の場合はなんか最近は断れないだけなんじゃないかってそんな風に見えてきてしまっていて……。


「ん? どうしたんですか、あ、な、なにかついているとか?」

「いや、俺達に付き合ってくれて可愛げのある後輩だと思ってな」


 違うことを言って終わらせておいた。

 励は「なんかその言われ方だと複雑なんだけど」と被害妄想をしていた。




「亮太朗起きてー」

「……なんでいるんだ?」

「そんなの相棒だからですよ、起きて起きて」


 相棒とか親友などと言ってくれるならゆっくり寝かせてほしかったが仕方がない、ちゃんと体を起こすと「おはよ!」と言ってくれたから返しておく。

 どうやら今日はひとりで来たみたいで岩本の姿は見つからなかった、いつだって一緒にいるわけじゃないからそういうものだよなと終わらせる。


「この前の告白を断ったことで少し複雑な状態になっているから付き合って、たまには親友のために動いてくれるよね?」

「分かった、だけどもう少しぐらい寝かせてくれ」

「駄目ー、お布団没収ー」


 まだ八時とかそこらだから急いだところで意味がないというのに……。

 今日は珍しくあともう五分を繰り返していた結果、こんな時間になっていた。

 ただ、これは休日だからこそできることであるためいい方法とは言えないのは確かだな。


「ふぅ、亮太朗が青ちゃんばっかりを優先しているからなんか凄く久しぶりな感じがするよ、なんかちょっとそれでも複雑なんだよね」

「岩本といることは多いけど岩本ばかりを優先しているつもりはないぞ」

「つもり、だよね? 僕からしたらそんな風に見えるんだよ」


 他者にこう言われてしまっては延々平行線だからやめておいた。

 布団がなければ寒いだけだからベッドから移動して椅子に座る、まあ、たまには励とふたりだけで過ごすのだって悪くはない。


「どこに行きたいんだ?」

「昔行った上の方にあるお店だよ」

「ああ、なんか凄く静かな店だよな」

「うん、お喋りをしようものならじろっと見られてしまいそうな感じのね」


 やたらと古い物が売っている店で、どうして続けられているのかと自然と考えてしまうようなところだった。

 中学生の夏休みに適当に遠いところに行こうと決めて移動した結果、見つけた店でもある。

 上手くは言えないが男心をくすぐるなにかがあるのは確かなんだ、だってそうでもなければこうして励がまた行こうと誘ってくるわけがないから。


「実際は店員さん……店主さん? はいないけどね」

「盗まれることはないと考えているんじゃないか? それか座っているだけでも辛くてそうしている可能性があるぞ」

「今日行ったら話してみようかな」

「俺を巻き込んでくれるなよ? そうしたいならすればいいけどさ」


 バスを利用するとはいえそこそこ時間がかかる場所だから移動を開始、しようとしたところでインターホンが鳴った。

 もうこの時間は両親は仕事に行っているから自分で出るしかない。


「って、岩本だったのか」

「急にすみません、あ、今日って予定とかありませんか?」

「これから励と出かけるところだったんだ」


 いちいち探さなくても真後ろにいたから持ち上げて前に置いた、が、そうしたらなんか複雑そうな顔で「あ、それなら今日はいいです」と言って帰ろうとする岩本。


「そうか? それなら――ぐえ!?」

「青ちゃんも行こうよ!」


 ……それなのにこれだ、なんなら物理攻撃も仕掛けられて損だ。

 帰ろうとしているんだからそのまま見送っておけばいい、無理やり連れて行こうとしたら駄目なんだ。


「……杉先輩は大丈夫なんですか?」

「え? 普通に大丈夫だけど」


 なんでそんなことを聞くのか分からないが大丈夫と答えておいた。

 つか、寧ろ俺が聞きたいぐらいだ、俺らはこうして岩本を誘うことが多いが大丈夫なのかと聞きたくなる。

 でも、俺らにそうされたら後輩としては大丈夫としか言えないだろうからできないことだった。

 本当のところを知るためには俺らじゃない誰かの力を借りる必要があるというのが難しいところだ。


「ほら、亮太朗もこう言っているんだから行こうよ!」

「それならお金を持ってきます」

「参加してくれるなら一緒に行くよ、わざわざまたここに来てもらうのは違うから」

「……ありがとうございます」


 んー、こんなことでありがとうと言われても困ってしまうんだよなあ。

 考えないようにしていたが、こういうところは本当に励を見習ってほしい。

 誘った側ではなく今日急に誘われた側なんだ、こっちのことを考えて参加することを決めてくれたのにそれは違うだろ……。


「無理やり連れて行こうとするなよ」

「え、だって青ちゃんとも一緒にいたかったから」

「それなら今日は俺のところにじゃなくて岩本のところに行けばよかっただろ?」

「む、そもそも誰のせいでこんなことになっていると思っているんだか……」


 ま、マジで励からこういう顔をされるとむかつく! ……が、休日に言い争いなんてしたくないからこれ以上はやめておいた。

 割とすぐに岩本が出てきてくれたから、というのもある。


「えっ!? あー……」

「ん? どうしたんだよ?」


 また母に帰ってこいとか言われてしまったんだろうか。


「……お友達から遊ばないかって誘われちゃった、僕が欲しいって言っていた物が近くのお店で見つかったみたいでさ……」

「俺はどっちでもいいぞ、このまま行くのでも解散でも」

「俺も同じです」

「ま、また今度付き合ってよ!?」

「ははは、俺でよければいつでも付き合うよ」


 欲しい物、買いたい物が見つかったとなればこんないつでもできることよりも意識がいくというもんだろう。

 一緒にいるときに相手がそうだったらいる意味なんかないので、そっちを迷いなく選んでくれてよかったとしか言えない。


「今日来た理由を教えてくれ、さっき本当はどうしたかったんだ?」

「俺は最新のゲーム機を買ったので杉先輩とやりたかっただけですよ」

「お、それならいまから行ってもいいか? 励は興味がないし、家にはなかったから気になっていたんだよな」

「はい、杉先輩さえよければ来てください」

「行くよ、このまま解散になるより嬉しいよマジで」


 って、これだと無料で最新に触れられるから喜んでいるみたいだよな……。

 彼の家に向かっている最中、年上がこれでいいのかとずっと考えていた。

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