『海の舞』
「これ、本当にあの風切音を防げてるの? 見えないし聞こえないんじゃ確かめようがないじゃない」
「四方を囲っているわけじゃないから確証はない。だけどこうして近くで話していても、いつもより聞こえ難いだろ? 白渓石の吸音性が高い証拠だ」
「普通の石なら、反響して寧ろうるさいくらいだもんなあ」
「確かにね。他人を石に変えてしまうなんてぶっ飛んだ能力、貫通までしたら止めようがないもん」
「では、これで防げたと仮定して動くしか──あら?」
剥き出しになった魔王の白い膝に、冷たい感触。
下を見ると、砂がじっとりと濡れている。
「満ち潮、でしょうか?」
「にしたってこんなとこまで来ないと思うけど」
「となると、まさかあの人魚の力か?」
「そう考えるのが自然だど。ならここから出るしかね」
ガロッサの決断が早く、3人も続いて一夜城砦の影から飛び出す。
「そう……綺麗な街だと思っていたけど、私の力とは相性が悪いのね。つくづく自分の不運を呪いたくなるわ」
「やはり、彼女にも何かあるのか」
海中から顔を出してこちらを窺う
「何か、ですか?」
「ああ。彼女の言動から、事情というか何というか……とにかく。悪意だけでこんな事やってるわけじゃないっていうのが伝わってくるんだ」
「楽しいお話? なら私と一緒に海の中でしましょう!」
フレイが魔王と意識の共有を行っていると、人魚の言葉と共に大きな波が砂浜へと押し寄せる。
「やっぱりあの人魚が波を起こしてたのね!」
「こっちの対応は俺に任せてくれ」
迫り来る2メートル超の大波を前にしたフレイが、剣を砂浜に突き刺して柄を両手を握る。
柄にあしらわれた黄金色の宝石と青いフレイの魔力が結びつき、翠の光が粒子状になって彼の周囲を覆う。
「
光は風を喚び、勢いのある高波を真正面から押し返す。
不可視の力比べは相討ちとなり、勢いを削がれた波はただの海水となってフレイ達の足元に軽く当たり、海へと帰っていく。
「ナイスフレイ! 腐っても女神が選んだ勇者ね!」
「防御形はリアラの専売特許だから、大得意ってわけじゃないけどね」
「『腐っても』にはツッコまないんですか?」
「と、とにかくっ。俺が波を防ぐから、スピカとミリアであの人魚を止めてくれないか! ガロッサはやる事ないから待機!」
「任された!」「はいっ!」「んだなあ」
また緩みそうになった空気をフレイが指示で締め直す。とはいえ近接戦闘専門のガロッサは、特にやる事もないのだが。
「拡散魔法陣、展開」
「えっと、角は折らずに、収束させずに、えいっ」
スピカが小さな身体の周囲に髪と同色の光で魔法陣を展開し、魔王は1日かけて教わった方法でそれぞれ魔法攻撃を放つ。
どちらもが広範囲への低威力な攻撃。当たれば痛いし多少の傷は負うかも知れないが、大きな怪我はしないであろう、という程度の威力だ。
だが被弾を嫌った人魚は、その身を完全に海へと沈め、再び大波を起こす。
「同じ手を──何っ!?」
フレイが再び風を起こして波を押し返すも、その中に隠れていた魔法が飛んでくる。
圧縮した海水を槍の刺突の様に飛ばす、いかにも水棲の種族らしい魔法だ。
「ちょっ」「スピカァ!!」
「はっ!」
ガロッサが斧でスピカを庇い、魔王は出力に余裕があったため防御の魔法を展開。
残るフレイは回避が間に合わず、浅いが左肩に傷を負ってしまう。
「フレイ、大丈夫なの!?」
「擦り傷だ! だが厄介だな。海中にいられると無力化が難しい」
「スピカちゃん。海上の牽制は任せても良い?」
「え、うん。良いけど、魔王様どうするの?」
何か意を決した様に、慈悲を湛えた瞳に強い光を宿す魔王。
スピカの返答と質問を聞いた魔王は、躊躇いなく白いワンピースを脱いで素肌を晒す。
突拍子のない行動に言葉も出ない3人へ向け、魔王はいつも通りの微笑みを見せて言う。
「私が、泳いであの方を捕らえます」
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