生命の長さはイコール幸福ではなく、
酋長の登場に、同族であるミザールとナシラ、そして昨日顔を合わせたリアラが頭を下げる。
酋長はその場にいる面々に目を配り、何か逡巡する様に目を瞑りつつ1つの墓標の前へゆったりと歩く。
墓前に花を添え、酋長は懐かしむ様な面持ちで手を合わせる。
「この下に、私の夫が眠っているんだよ。私達の住処を切り拓いてくれた、優しい夫だったよ」
「酋長に、旦那様が……」
「意外だろう? 私は長として、外部と関わらない様にしていたからねぇ」
リアラの声に意外だという思考が漏れ出ていたのか、ミザールやナシラより角度の落ちた耳をピクリと動かしながら言う。
だが若い
「あれは……250年程前だったか。私は番を探すべく領域を出た。当時は自由に相手を選べたのでな。そこで出逢ったのがこの方……ジンダイ様だった。彼の優しさに触れ、私は恋に落ちた。当時の酋長を何とか説得して、領域で共に暮らす許しを得たよ」
そう語り始めた酋長の隣に座り、魔王はジンダイの墓前に手を合わせる。
「酋長様、お聞かせください。何故そんな貴女が、この森を閉鎖的な環境へと変えてしまったのでしょう?」
そして墓標を見据える酋長に、そう問いかける。
誰かと共に在る事、他者と何かを共有する事は、魔族という大きな枠から逸脱している魔王にとっては素晴らしい事だと考えていた。
だが
「生命の長さに、差があり過ぎるのだ。もし森魔族と私達が硬い絆で結ばれても、私達の半分程度の寿命で森魔族は死ぬ。私は愛したジンダイ様を亡くし、長い寂寥を享受した。睦言を交わした時間に対して、あまりにも長過ぎる寂寥をな」
森精族の寿命は400年程度、森魔族は200年程度。
そんな異種族が愛し合った時、余程の事がなければ先に亡くなるのは森魔族だ。
その残酷なまでの与えられた時間の差に、酋長は心を削られてしまったのだ。そして自分が味わった苦しみを次世代に味わわせぬ様、閉鎖的で機械的なシステムを考案したのだろう。
「森魔族だけではない。もし外の人間と友好的な関係を築けたとして、遺されるのは私達だ。そんな寂しい想いを、子供達にさせるわけには────と思っていたのだが、それは私の傲慢だったのかも知れないな」
「そう、かも知れません。ですが、子供達を悲しませたくないという酋長様の優しさは、私は素晴らしいモノだと思いますよ。方法としては行き過ぎだったかも知れませんが、貴女のお気持ちは、きっと伝わりますよ」
魔王は酋長の肩に手を置きつつ、後方で跪くミザールとナシラを見て言う。
「勝手に領域を脱した事、申し訳なく思っていますわ。ですが、私はブーちゃ……ブーデンへの愛に生きていたいと思うのです。たとえ、彼を愛する日々より長い寂しさが待っていたとしても、私は今の衝動を大切にしたいと思っております」
「私は父の顔を見る事が叶わず、先に父は亡くなってしまわれました。たとえ自分が大人になる前にいなくなってしまうのだとしても、記憶の中に家族を捉えるという事こそが、私は幸福なのだと考えています」
「お前達……そうか。ふふ、若いな」
酋長は2人のその若さを眩しそうに見つめ、心底嬉しそうに笑う。
そんな酋長を見たバルミュエルもニコリと笑う。
「ですがその眩き若さこそが、未来の明るさと言えると思いませんか?」
「バルミュエルさん、胡散臭いけど良い事言いますね!」
『胡散臭イハ余計ナ一言デハ……? マァ、従者トシテ否定ハシマセンガ』
「可愛い配下に梯子を外されてしまった……僕はとても悲しい」
せっかく良い事言ったのに、よよよ。とバルミュエルはあからさまな嘘泣きをして場を和ませる。
フハハ、と愉快そうに笑う酋長が立ち上がり、若き森精族達に「行こう」と告げる。
「これからは領域など気にせず、3種族仲良くやって行こう。ブーデン、といったか? お前さん、森魔族側の酋長に取り次いでくれるか?」
「勿論です。さ、今夜は宴だあ!」
「…………それは流石に気が早くないか?」
「善は急げと言うでしょう、げいるーくん」
「そうだな、私もいつ死ぬか判らん。今夜にでも一杯
紅葉舞の森、墓場を出た多種族の面々は、その晩各種族の領域を超えて盛大に騒いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます