境界に立つ者達


『私ニ御用ガ……?』

「そうだ。是非君に訊きたい。この森の森精族エルフ森魔族オークの事だ」

『キシャッ!?』

「うわぁ……ゲイルさん容赦ない」


 鳥魔族ハルピュイア蟲魔族セクタス。同じ魔族であるため取って食ったりはしないが、元々の生物は本当に捕食者と被捕食者の関係であった。

 魔の血が入る前の本能が生きているのかは定かではないが、遠巻きに見ると正にそんな関係性だ。


「げいるーくん、あんまり脅しちゃ、めっですよ〜?」

「クティーグには悪いけどよお、多分これが効果的だからなあ。あいつ鳥苦手だし」

「魔王様の甘やかし攻撃でも良かったかも知れませんけどね」


 相対するゲイルとクティーグを見て、他の者は好き放題口々に言う。


「君が領域を越える森精族や森魔族を『ある程度』許容しているのは、種族の繁栄のためだろう?」

『ハイ……』

「だが昨日、君は怪我を負わせてでも森精族の少女を止めて見せた。飽くまで予想に過ぎないが、君は繁殖のタイミング、若しくは繁殖に出る者の顔を事前に聞いているのではないか?」

『ソ、ソレハドウイウ……』


 クティーグの焦りは露骨だ。蟲魔族の表情の判別などつかないかも知れぬと考えていたが、ゲイルの目と耳にもそういった感情が理解できた。


「どちらかを知っていれば、繁殖の邪魔をせず、尚且つ森魔族と森精族の過度な干渉を諌められるからな。そしてもし私達の予想通りであった場合、君は森魔族だけでなく森精族とも繋がっている、という事になるが?」

『ソ、ソンナ!! 我々魔族ガ人類側ト結託スルナド!』


 魔王の従者たるゲイルに指摘され、クティーグは大慌てでその様な事実はないと弁明する。

 だがゲイルは冷たい目に優しさを宿し、首を振る。


「たとえ人類側と結託していようと、何の罰もない。寧ろ私達はそういった者がいた方が嬉しいよ。君も聞いていないか? 当代の魔王は『変わり者』だと」

『ソレハ、聞キ及ンデオリマス……』

「変わり者のマ魔王様でーす!」

「「「それ自称するんだ…………」」」


 魔王がゲイルの言葉に乗っかり、ダブルピースで堂々のママアピールをする。

 周りの3人はまさかの自称に、異口同音にツッコミを入れる。


「だから、真実を話してほしい。君もこの森を自由に歩きたいと、そう思うのなら」

『ソレハ……』


 魔王の発言も華麗に流すのは、流石の従者といったところか。

 ゲイルの言葉に絆されかけているクティーグが何か言いかけると、そこに「──‬なるほど。僕の思っていた以上に面白い魔王様みたいだ」という声がどこからともなく聞こえてくる。


「──‬?」


 だが森のどこにも、その場にいる者以外の姿は見えない。流暢に言葉を話す辺り、かなり人型に近い魔族か人類側のはずなのだが。

 全員が周囲を見回していると、魔王の正面、ゲイルと彼女を挟む様な位置に羽虫が集う。


「ひゃあっ! げいるーくん……!」


 持ち前の母性で昨日は何とかなったものの、魔王は虫の見た目が苦手だ。飽くまで見た目だけだが。

 思わず従者に助けを求める魔王に対し、ミザールは至って冷静に彼女を諌める。


「いや、大丈夫よ。多分ここの『王様』が現れただけ」

「フフフ、その通り。この森の魔族を支配する者にして上位の蟲魔族。バルミュエルですよ、魔王様」


 集合する羽虫達が人の形を成し、鮮やかな緑色の髪をした男性が現れる。

 男性な顔立ちに人を食った様な笑みを浮かべた男。細身ではあるがその長身からは並々ならぬ魔力を感じる。


 そして何より──‬その頭部から生えた2本角。それがバルミュエルの言葉を裏付けていた。


「はじめまして。魔王マクシミリアム・マグノリアです。お恥ずかしいところをお見せしました……」

「いえいえ。僕が見たかったんですよ。虫が苦手なのは、昨日見ていましたからね」

「──‬?」


 バルミュエルの不敵な笑みとその言葉に、魔王は首を傾げる他なかった。

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