第2章 ストレンジャーの森
プロローグ 桃色エルフから赤い森への誘い
──かくしてママな魔王、マクシミリアム・マグノリアは人間と歩み寄る第一歩を進めた。
魔王個人としては滞在を許されたものの、それは角以外人間に近く、あまり怖くないという人間的観点も大いに含まれている。
それ故従者のゲイル・ルーは肌が青いという事もあり、人間の街には自主的に距離を置いていた。
「王。貴女だけでもルフィンで寝泊まりすべきでは?」
という
同じ魔族で『人類との共存』という目的に賛同する者はそう多くない。中級以上の魔族でなら尚更だ。
それ故、ゲイルという存在は彼女の根底に寄り添う様にして魔王を支えているのだ。
「あ、おふたりさん。久し振り〜」
「街の近くにキャンプって、中々面白い光景ですね。子供とか遊びに来ません?」
そんなこんなで街の外にある荒野にキャンプを設営し、周囲を視察する拠点にしていたところ。
魔王が出逢った勇者一行にいた
「一ヶ月ぶりくらいか。また会えて嬉しい」
「ええええ。とても嬉しいですっ」
真っ昼間から荒野の真ん中で火を起こし、紅茶を淹れるためのお湯を沸かしていた2人は、その訪問に声を跳ねさせた。いつもテンションが変わらぬゲイルも、心なしか表情にハリがある。
リアラから葉を分けてもらい、紅茶を4人分淹れてまずは雑談に花を咲かせる。
「子供はたま〜に遊びに来ますね。げいるーくんにも見慣れたみたいで、あんまり恐れていないみたいです」
「まあこいつ、怖いのは見た目だけだもんね〜」
「山魔族の子供に愛の歌を教えるくらいですもんね」
「…………王よ。私は今とてもやり辛いのですが」
女性3人にニヤニヤとした顔でイジられ、困った顔を見せるゲイル。
根が真面目な彼はその様にイジられる経験に乏しく、またそのため対応にも慣れていない。
「ゲイルさんは真面目だなあ」
「ふふ。げいるーくんもお困りの様なので、早速本題に入りましょうか」
「はーい。ちょっと前に付近の森精族がいる森に顔出してみたんだけどさ。なーんか様子が変っていうか、一応同族なのに余所余所しい感じがしたというか……」
勇者一行の2人が訪れて、何の用もなく遊びに来ただけ──という事はない。
スピカから相談事があるそうで、事前に魔法で手紙を寄越していた。
「余所余所しい、ですか……。確かに森精族はあまり外の者達と関わろうとしませんが、同族は歓迎するはずです」
「…………と、噂されていたのですか?」
「本で読みましたっ!」
魔王は人類側の事を知ろうと、積極的に勉強していた。その事がやはり嬉しいのか、スピカとリアラはニコニコと笑顔で「人類史の本でもお土産に持って来れば良かったね」と言い合う。
魔王、そして山魔族がルフィンと魔法都市ラケルスの行き来を楽にしてくれた事により、ラケルスに溜まっていた知識が一気に本となった。
まだ暫く先になるだろうが、大陸全体の知識レベルや魔法の水準が向上する事に間違いはない。
特にスピカがその事に好意を示しており、今回の様な魔王への情報提供にも積極的になっていた。
「ただですね。その森というのが、どちらかといえば魔族側の勢力が強い土地なんです。ピークちゃんは運良く魔族との接触を逃れましたが」
「なるほど。それで私達に調査を願いたい、と」
「確かに
そこで魔王は嫌な予感がして、いつも柔らかで温かで母性に溢れて思わず赤ちゃん帰りしたくなる様な笑顔を引き攣らせる。
そんな魔王に一切の遠慮をせず、神官たるリアラが森の名を告げる。
「はい。
「ふえっ」
リアラが勢い良く放った土地の名に、魔王がまるでおぼこ娘の様な声と泣きそうな顔を見せる。
そんな魔王の姿に、従者ゲイルは悩ましげに顔を抑え、人間2人は顔を見合わせて疑問符を浮かべるのであった。
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