エピローグ マ魔王達のご多忙なこれから


「荷物良し。服も臭くない。じゃ、行きましょうかげいるーくん」


 山魔族ゴブリン達の洞窟で、フレイ達の一行と出会って数週間。魔王マクシミリアム・マグノリアは大きなバックパックを背負ってその地を後にしようとしていた。


『プギィ……ママオウサマ……』


 1匹の山魔族が魔王の脚へ擦り寄り、行って欲しくないと悲しそうな声を上げる。


「あーんもう、何て愛らしいのっ!」


 蕩ける様な笑顔で山魔族を抱き締め、次々寄ってくる山魔族達を抱き締めたり撫でたりし始める。

 プギプギと魔王に甘える山魔族達。

 そんな魔王の姿は、やはり王と言うより母親などのそれに近いとゲイルは思う。山魔族達も『マ魔王』などと呼んでいるし、魔王自身その呼び方を否定しない。

 一頻り愛で終えると、魔王は再び立ち上がり、今度こそ旅立つべく外へ歩き出す。



 フレイ達には、事前に旅立つと言っておいた。

 彼らは見送りに来てくれると言ってくれたが、あまり遠くへは行かないので遠慮した。実際魔王が次に足を運ぶ場所からも、岩山に空けられた『山魔族の洞穴』のお陰で依頼を受ける様になったらしい。

 フレイ達は今、主にルフィン──ラケルス間の行商の護衛を受け持って、何とか依頼にありついている。その合間を縫って、他の冒険者仲間や一般人に『あの岩山の山魔族は無害だ』と喧伝してくれているらしい。

 効果は期待するな──‬とスピカには念押しされたが、実際に岩山を通る行商人に被害が出ていないという実績のお陰か、この辺りに討伐目的でやって来る冒険者は現状いない。


「少しずつ、上手く行っていますかね?」

「ええ。本当に小さな一歩ではありますが」


 中級以上の魔族で唯一魔王の思想に従うゲイルは、少し嬉しそうに頬を緩ませて肯定する。

 外の陽光は眩しく、魔王の白い肌に刺さる様。

 だがその日の元で人間達と手を取りたい。それがごく一部であれ叶った事に、彼女の心は満たされて、しかしもっと多くの人間達と──‬と魔王らしい欲深さを巻き起こす。


「ところで王よ。山魔族達が『マ魔王』と呼ぶのを、何故直さなかったのでしょう」

「うふふ。だって私からすれば、彼らは愛しい家族の様なモノ。何なら魔王の冠を取って『ママ』と呼ばれても、私は一向に構いませんよ。その第一号として、げいるーくんも私を──‬「いいえ。私は遠慮しておきます」

「即答な上に強めの否定っ!?」


 冗談半分の提案を即座に否定され、魔王は落胆する。


「王よ。リアクションがスピカに似てきています」


 ──‬などと魔族らしからぬ会話を繰り広げながら、彼女達は己が大望のために世界を歩く。



 魔族の寿命は長く、しかし世界に蔓延る『常識』を覆すのには足りないのかも知れない。

 それでも魔王は足を止めず、忙しい日々を過ごす。

 自分の望みを叶えるには、自分の足で歩く他ないのだから。

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