エピローグ マ魔王達のご多忙なこれから
「荷物良し。服も臭くない。じゃ、行きましょうかげいるーくん」
『プギィ……ママオウサマ……』
1匹の山魔族が魔王の脚へ擦り寄り、行って欲しくないと悲しそうな声を上げる。
「あーんもう、何て愛らしいのっ!」
蕩ける様な笑顔で山魔族を抱き締め、次々寄ってくる山魔族達を抱き締めたり撫でたりし始める。
プギプギと魔王に甘える山魔族達。
そんな魔王の姿は、やはり王と言うより母親などのそれに近いとゲイルは思う。山魔族達も『マ魔王』などと呼んでいるし、魔王自身その呼び方を否定しない。
一頻り愛で終えると、魔王は再び立ち上がり、今度こそ旅立つべく外へ歩き出す。
フレイ達には、事前に旅立つと言っておいた。
彼らは見送りに来てくれると言ってくれたが、あまり遠くへは行かないので遠慮した。実際魔王が次に足を運ぶ場所からも、岩山に空けられた『山魔族の洞穴』のお陰で依頼を受ける様になったらしい。
フレイ達は今、主にルフィン──ラケルス間の行商の護衛を受け持って、何とか依頼にありついている。その合間を縫って、他の冒険者仲間や一般人に『あの岩山の山魔族は無害だ』と喧伝してくれているらしい。
効果は期待するな──とスピカには念押しされたが、実際に岩山を通る行商人に被害が出ていないという実績のお陰か、この辺りに討伐目的でやって来る冒険者は現状いない。
「少しずつ、上手く行っていますかね?」
「ええ。本当に小さな一歩ではありますが」
中級以上の魔族で唯一魔王の思想に従うゲイルは、少し嬉しそうに頬を緩ませて肯定する。
外の陽光は眩しく、魔王の白い肌に刺さる様。
だがその日の元で人間達と手を取りたい。それがごく一部であれ叶った事に、彼女の心は満たされて、しかしもっと多くの人間達と──と魔王らしい欲深さを巻き起こす。
「ところで王よ。山魔族達が『マ魔王』と呼ぶのを、何故直さなかったのでしょう」
「うふふ。だって私からすれば、彼らは愛しい家族の様なモノ。何なら魔王の冠を取って『ママ』と呼ばれても、私は一向に構いませんよ。その第一号として、げいるーくんも私を──「いいえ。私は遠慮しておきます」
「即答な上に強めの否定っ!?」
冗談半分の提案を即座に否定され、魔王は落胆する。
「王よ。リアクションがスピカに似てきています」
──などと魔族らしからぬ会話を繰り広げながら、彼女達は己が大望のために世界を歩く。
魔族の寿命は長く、しかし世界に蔓延る『常識』を覆すのには足りないのかも知れない。
それでも魔王は足を止めず、忙しい日々を過ごす。
自分の望みを叶えるには、自分の足で歩く他ないのだから。
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