マ抜け勇者、マ入ります。


 真魔王軍を名乗る集団を蹴散らした数分後。


「……その、大変お見苦しいところを」


 魔王は勇者一行と目を合わせる事ができず、オロオロとしながら頭を下げようとする。


「いや……凄かったですね、あれ」

「私スッキリしちゃいました。反逆者の制圧って大変そうなのに、最低限の力でやってしまわれるなんて」

「そうだなぁ。それに、あんな強さを持っていながら、見せつけようとしねぇのは何つうか……カッコいいど」

「わかるー!! アタシ惚れちゃいそうかも!」


 魔王の後ろ暗い気持ちに対し、勇者一行は気にする様子もない。寧ろ英雄でも見る様な、輝く瞳で彼女を見ていた。

 そうしてくれる彼らにこそ本音で話そうと、魔王は己の心を吐露する。


「でも私は……彼らの力に力で対抗するなんて野蛮な事」

「あの、魔王。ああいう手合いを力で抑えつけるという行為は、人間もやってる事です。いや寧ろ……圧倒的な力を見せて士気を削ぐというやり方は、ある種の交渉手段とも言えるかも」

「だなぁ。殺されちまった魔族に思うところがねぇわけじゃねぇけんど、そもそも殺す気で来た奴らなんだ。殺されても文句は言えねぇど」


 魔王の憂いを、男性2人が理論的に払おうとする。


「私もフレイ達に賛成です。何より彼らを退けなければ、ここに住む山魔族ゴブリンの平和はなかった。民を護るそのお姿は、正に王の振る舞いでした」

「げいるーくん……」

「いるるんメッチャ良い事言ったのに、渾名で台無し……」

「それピークちゃんが言うの?」

「うふふ……皆様ありがとう。下の魔族達の前ではしっかりしなきゃと思って頑張ってましたけど、これで良いのかな〜って迷う事もたくさんあって。そういう時に『正しいよ』って言ってくださる方がいるのは、とっても心強いです」


 魔王は目に涙を溜めて、対等に話し合える者がいる事に感謝する。魔族の考え方故に、そういった仲間に乏しかったのだろう。


「ま、その代わり間違ってるって思ったら、容赦なく突っつくからねっ」


 強気に笑うスピカが、魔王を指して言う。


「ふふ。よろしくお願いします」

「そうだ。ゲイルはさっき何か言いかけてたけど、あれは何だったんだ」


 と、フレイが真魔王軍の来訪前の事を思い出す。


「ああ。君達に持って帰ってもらう『手柄』の話か。まあ元々山魔族達でやっていた事らしいんだが──‬」





 それから2日後。


 日を跨いでラケルスに戻った勇者一行。そしてある報告をした翌日、依頼案内所ワークサイトの者と共にアスファラス荒野は山魔族の岩山へと蜻蛉返りしていた。

 今回は山を登らず、麓に用があった。


「ほ、本当だ。こんなところに向こうへ繋がる穴が」


 依頼案内所の観測員が、岩山を貫通する様な洞穴を見て驚愕を見せる。こんな穴は、今まで観測されていなかったらしい。


「これでルフィンへの行き来が楽になりますね」

「しかし、何故こんな穴が……?」


 観測員の疑問に、勇者一行はふっふと4人して不敵な笑みを溢す。


「山魔族からの友好の証ですよ。


 代表してフレイが言うと、観測員は怪訝な顔をして首を傾げた。



 言葉の真意はどうあれ、ラケルスとルフィンの交易路を確保した勇者フレイの一行は、その功績を認められ無事『間抜けな勇者』という汚名を少しずつ雪ぐ事に成功した。

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