やさかわマジカルエルフと天然ハルピュイア
「ええ。世界全てに風を届ける女神が、人類側だけに肩入れするだなんて狭量な事、しないんじゃないかなって」
微笑みを湛えつつ人間の文化への独自解釈を述べる魔王に、いわゆる『人類側』に属する3人は顔を見合わせる。
「じゃあ貴女は、魔族にとっても魔王という存在はプラスにならないと考えているんですか?」
フレイの指摘に、魔王は頬に指を当てて考えながら言葉を紡ぐ。
「うぅん……そうね。少なくとも歴代の魔王は、あまり下の者を考えていなかったと思うわ。貴方達も体験している通り、ここの
魔王は語気をどんどん弱めながら、悲しい顔をして下級魔族たる山魔族達を見る。
王が命令すれば、望まぬ事でもさせられてしまう。ここの山魔族やフレイ達の知らぬ場所に住む下級魔族達は、そんな立場にあるのだ。
「確かにそれは、良くないかも──」
スピカが抱いた感想を魔王へ伝えようとすると、彼女の周りに数匹の山魔族が集まり始める。
『プギ……ママオウサマ……』『カナシム……ダメ……!』
山魔族が魔王の夜空色の髪を撫で、王たる者とは思えぬ程細い肩を抱く。
彼らなりに励まそうとしているのだろうか。いや、あんなふうに寄り添う事すら、魔王に教えてもらったのかも知れない。
「あらあらみんな……すっごく嬉しいわ〜。みんなみーんな、戦わなくて良いように頑張るからね〜」
山魔族と魔王が寄り添い合い、まるで仲睦まじい家族の様にして笑い合う。
「これは……今回の依頼も失敗ね」
「だな」
苦笑するスピカに同意するフレイと、黙って頷くリアラ。
今日初めて知った魔族達の姿を目に焼きつけ、フレイ達は岩山の洞窟でのティータイムをゆったりと楽しんだ。
山魔族達が魔王のことを『マ魔王』と読んだ事を、ごく自然な事の様に受け入れて──────。
「……なるほど。失敗続きの勇者ご一行である、と」
「そんなストレートに刺しに来るような略し方やめてもらえません?」
魔族達の事を知ったあとは、自分達の身の上を簡単に話していた勇者一行。
恐らく天然でフレイの心に突き刺さる様な表現をした魔王に、彼は反射的に言葉を返してしまう。
「いやまあ実際、
「だが、我々の事を慮ってもらう以上、どうにかしてやりたいとは思うな……。かと言って山魔族や俺の首を差し出すわけにもいかん」
見逃してもらう代わりにと、ゲイルは険しい顔をして代替案を考える。彼の口から出るのがあまりに物騒な案なので、スピカがげんなりした顔になる。
「あったりまえでしょ。そんな後味悪いの、こっちから願い下げよ」
指先から小さな光の魔法を放ち、火花の様に散らして山魔族と遊ぶスピカ。
『プギ、エルフ、ヤサシイ!!』
『エルフヤサシイ!』
一緒に遊んでいた山魔族が、プギプギとスピカを褒める。
それに悪い気がしなかったのか、スピカがフフンと胸を張って、発した光の粒子をクルクルと指先で弄る。
「アタシはやさかわマジカルエルフのスピカちゃんだからねー!」
『プギ……?』
突然わけの判らない事を言われ、山魔族達が至極素直に疑問符を頭上に浮かべる。
優しくて可愛い魔法使いのエルフ──を略してやさかわマジカルエルフと言ったのだが、通じなかった上に自称するには少しイタ過ぎたので、スピカに精神的なダメージが返ってきた。
「うん、今のはアタシが悪いわ……」
「おい『痩せ渇きマジ怒りエルフ』のスピカ」
「間違い方ァ!!」
ゲイルが芸術性すら感じる程の言い間違いをして呼ぶので、スピカが激しくテンションを上下させつつツッコむ。
ゲイルはいつも真面目な顔をしているので、天然なのか彼なりに寄り添おうとしたのかが判らない。
「ん、何か間違っていたか。それよりもだ、良い案を思いついたんだが」
「『今のがわざとじゃなかった』以上の仰天ニュースある???」
烈火の如きテンションで話すスピカにも、ゲイルは動じず続きを話そうとする。
「傍(はた)から見る分には面白いですね?」
「ああ。スピカとしては気が気じゃないだろうが……というかリアラと話してる時もたまにあんなだぞ」
「………………またまた〜」
リアラは自身がゲイル寄りの人格をしている自覚がないのか、フレイの発言を信じていない様子。
「……で、何よ。思いついた案って」
自分が仕切らないと場が収まらないと判断したスピカは、一つ咳払いをして話を戻す。
「ここの山魔族達が人間への『手土産』にしようとしているモノを、お前達が贈れば──「大変だど!!」
ゲイルが案を話そうとしたところで、外からドタドタとガロッサが駆け込んで来る。
「今度は何……?」
場を掻き回す要素が多過ぎる洞窟内で、スピカが頭を抱えつつ応対する。物々しい表情のガロッサを見て、フレイは既に立ち上がっていた。
「真魔王だなんて名乗る連中が、外に待ち構えているど!!」
「「──ッ」」
真魔王という単語を聞き、魔族の2人が苦虫を噛み潰した様に表情を歪める。
「な、何ですかその真魔王って……?」
「貴方達もおいでください。彼らは……その」
リアラの問いに、沈痛な面持ちで魔王が言い淀む。
そして意を決した様に、彼女は桜色の唇から言いたくない事実を言葉にして放つ。
「彼らは、私達の敵です」
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