マ魔王様の女神観概論
「……ふぅ。お茶美味しいですね。もう一杯いただいても良いですか?」
紅茶好きのリアラがカップを空にして、魔王へ訊ねる。
「勿論構いませんよ。寧ろ嬉しいですっ。人間の方にお茶を振る舞うのは初めてですから。美味しいって言っていただけるなんて光栄です」
「へぇ〜。魔族にはお茶の概念がないんです? それとも単に舌や鼻の好みが違うとかですか?」
「お茶の概念はありますが、使うのは魔草と呼ばれる非常に味の主張が強い物なんです。ゆったりとした時間を過ごすという目的もありますが、栄養摂取──食事の観点で摂る者が多いですね」
「…………」
魔王と雑談するリアラを興味深げに見つめるのはゲイル。その視線に目敏く気付いたリアラが、そちらを見て首を傾げた。
「どうしたんです?」
「いや。『色々いる』のは知っていたが、神官であるキミが魔王や魔族に興味津々な姿を見ると、どうも不思議な気分になってな」
「まあ、変わり者ではあるよね。アラちゃん」
「神官になったのも、本当に女神様なんているのかどうかっていう興味本位なところがありますからね」
魔王に淹れてもらった茶を啜りながら、ゲイルの疑問に答えるリアラ。
リアラの分に続いて自分とフレイの茶を注いだ魔王が、興味深げに耳を傾けていた。そのせいでカップを溢れさせかけたが、フレイがその手を取って止めた。
「女神を信じていなかったのか?」
主人と勇者が手を取っている姿もゲイルにとっては感慨深いものがあったのだろうが、彼の興味はリアラの発言に持っていかれていた。
「信じていなかったというか……目に見えないモノってあんまり実感が湧かなくて。まあ色々成績が良かったんで、無事冒険者に加わるとこまでいけましたけど……」
自身の神官としての自覚に疑問があるのか、リアラは苦笑気味。
「それで。女神がいるかいないか、キミの中で結論は出たのか?」
「まあフレイさんを見ていると、いると思わざるを得ませんよね」
「こいつ女神の力を使うのはほんっっっっとに上手いからね。魔物も命だからって倒したがらないだけで。ま、だからついて来てるんだけど」
罵りたいのか褒めたいのか。スピカがリアラの言葉に便乗してフレイを指しつつせせら笑う。
スピカの振る舞いを称賛と解釈したフレイは、後頭部を掻いて照れている。
それを褒めるポイントと見た魔王が、フレイの隙を突くかの様に「命を慈しめて偉いですね〜」とまた彼の頭を撫でる。彼女としてもフレイの思考はありがたいものなので、感謝の気持ちもあるのだろうが。
その光景に見慣れてしまったリアラは、デレデレするリーダーを放置して自身の考えを披露する。
「でもなーんか違和感あるんですよね。『あらゆる風を司る女神様』が、人間側だけに加担するの。ここの
世界で最も多い信徒を持つ宗教、聖風教。物理比喩関わらずあらゆる風を司るという女神を唯一神とし、崇めている組織だ。
風は時に森へ栄養を運び、時に砂漠へ更なる熱を運ぶ。環境や強さ、方角により希望にも絶望にもなり得る存在だ。
そして追い風、向かい風というのは比喩表現として表れ、ポジティブにもネガティブな表現にも扱われる。
「時に北風や熱風で人の強さを試す神様が、人間だけに加担するなんて、おかしくないですか? それともそれくらい魔族というのは、滅ぼすべき存在なのかな〜なんて思っていましたけど。魔王様を見て、やっぱり違うんじゃないかなって、今も迷っているんですよね、実は」
「うふふ。リアラさんは思慮深〜い方なのですね」
「そーなの! アラちゃんは割とぼーっとしてるように見えるんだけど、すっごい色々考えてるの」
友人を褒められて嬉しいのか、スピカがテンションを上げて魔王に食いつく。
「友達を大切にするスピカさんも偉い偉いですよ〜」
(……うん。私が切り出したのが悪いんだけど、魔王様は逐一褒めなきゃ気が済まないのかな……)
誰にも聞こえぬ程度に呟き、スピカは逆巻く母性の中心に座す魔王に軽く会釈する。
「リアラさんは、女神が『人類を救うために勇者へ力を齎した』と聞いたのかしら?」
「ええ、まあはい」
「私はね、ちょっと違う解釈をしたの」
「魔王が宗教の解釈するって面白いわね」
「確かに。なんにでも興味あるんだろうな」
フレイとスピカが話す中、リアラは神妙な面持ちで魔王の口元がどう動くかを待っている。
「私はね、女神は魔王から人類を守るために力を与えたのではなく、人類も魔族も全て救うために力を与えたんじゃないかって、考えたの」
「魔族をも、救うために……?」
考えた事もなかった、というふうにリアラは復唱して魔王を見つめ続ける。
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