人間と下級魔族
自称魔王、マクシミリアムがママであると判明(?)して数分後の事。
フレイ達は『彼女が魔王であろうとなかろうと、変わり者の魔族である事には変わりない』という結論に至り、詳しく話を聞いてみる事になった。
そして
「あら? ん〜……ふんふん、あ〜」
1人楽しそうにその視線の理由を探していると、リアラが発している匂いに気付く。
「リアラさん、だったかしら? 貴女、薬草を幾つか持ち歩いていらっしゃるの?」
「え? あーはい。傷病に効く物から、お茶にすると安眠効果があるのも持っていますよ?」
「うふふ。だからなのね。山魔族は草木のない山で育つから、薬草の香りが珍しいみたい」
「ほうほう……」
それを興味深げに聞いたリアラが、薬草の入った麻袋を一つ空っぽにして、子ブリンに手渡す。恐る恐る受け取る子ブリンの長い爪は、丸く整えられていた。
『プギ〜〜……』
尖った鼻に麻袋を寄せて匂いを嗅ぐ。すると子ブリンはリラックスした様な声を出し、スンスンと袋の匂いを嗅ぎ続ける。
「……ちょっと可愛いかも」
「えぇ〜〜!? ちょっとアラちゃん!?」
珍しい薬草の残り香に夢中な子ブリンに、リアラが好感を抱く。スピカは有り得ないという様子で、目を細めて手を繋いだりしているリアラと子ブリンを嫌そうに見る。
『プップギー! プギ〜、プギッギギー!』
「ふふ、上手なお歌だね」
「……なぁ、ガロッサ」
麻袋をリアラに返し、空いた手をブンブン振りながら調子良さそうに唄う子ブリン。
その様子を見たフレイが、違和感を抱いた様に目を細め年長のガロッサを呼ぶ。
「なんだぁ?」
「唄う山魔族なんて、見た事あるか?」
「……いんや、ねぇな。自分らを鼓舞するために声を上げる事はあっても、ゴブリンの歌なんて聞いた事ねぇど」
「……だよなー」
「うふふ。げいるーくんが山魔族達にお歌を教えたんですよ」
男2人でこそこそ話していると、耳聡く聞きつけたマクシミリアムがフレイの隣まで行き、先頭を歩くゲイルに聞こえるような声で教える。
「……へぇ〜。アンタ歌なんて趣味があったの?」
その情報が面白かったのか、嫌そうな顔をしていたスピカが長い耳をぴくぴく動かしてゲイルに訊く。
「聞いた事がないか? 鳥の中には鳴き声で求愛行動を取る種がいる。
愛だの何だのと、そういった話を嫌いそうな雰囲気のゲイルは、意外にも落ち着いた様子で自身らの特徴を説明する。
「ふ〜ん……つまり、あの子が唄っているのは、愛の歌って事?」
ニヤニヤと笑顔の止まらないスピカが、身を乗り出してゲイルの左肩から顔を出す。
「まあ……そうなるな」
他者から訊かれるのは少し恥ずかしいのか、ゲイルは先程よりも歯切れの悪い話し方になる。
「ふ〜ん……。ま、そういう種族の特徴みたいな事大事にするの、良いと思う。アタシなんか、小さい頃から魔法魔法で、本来誰より詳しいはずの薬草学を勉強して来なかったし」
スピカはニヤけ面をやめ、少し真面目な顔になって独り言の様に呟く。
その雰囲気の変化に何か感じるところがあったのか、ゲイルは下顎に手を当てて脳内で言葉を選ぶ。
「魔法の勉学となると……
「そ。人間の建てた魔法学院に通ってたから、その街でフレイと知り合って。その流れで加わったの」
「なるほどな。まあ何と言うか……魔族にも色々いる様に、人間や森精族にも色々個性があるわけだな」
そうゲイルは、驚くでも褒めるでもなく。受け流す様にして相槌を打つ。
ともすれば『興味がない』という意思表示にも見えかねないそんな態度を、スピカはどうやら好ましく思ったらしい。彼らと相対した時よりも随分柔らかな態度で「そういう事よ」と同意する。
そうして子ブリンをきっかけに幾分打ち解けた勇者一行と魔王一行は、和やかな雰囲気のまま山魔族の住まう岩山に辿り着いた。
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