第17話 新たな決意
その晩、ゾフィはゲオルクに呼び出されていた。部屋にはギルベルトとアマンダ、アリーもいた。
「どうだい、嬢ちゃん。ここも大分変わっただろ?楽しんでるか?」
「はい!とても賑やかになりましたね。孤児院の
「そうか、そりゃよかった・・・それでな、お前さんの身柄なんだが」
「・・・はい」
ゾフィの心に不安がよぎる。
「実は大公家がな、嬢ちゃんを預かってもいいと言っているんだ」
「へ?大公家・・・」ってあの方のお家?
「大公家は王家とは近いが、独立しているからな。王家の言いなりにはならねえ。それにあの家は、いや、あの双子なら一度、
ギルバートの方を見ると、まだぎこちない笑みを浮かべて頷く。アリ―も優しく頷いた。
「でも、お邪魔ではないでしょうか・・・」
「お邪魔なんかじゃないわよ。向こうにも思惑がないわけじゃないもの」
おもわく、ゾフィが繰り返して首を傾げる。「アマンダ!」小さく兄が
「・・・大公家にとっても、あなたの存在は損ばかりではないということよ。あなたは『聖女』なんだもの」
「そういうことだからな、あまり時間はないが、考えてみてくれ」
「わたし行きます」
「ゾフィ、そんなに急いで決めなくていいのよ?」
一日二日なら考える時間があるのだから、心配げに言うアマンダにゾフィは首を振って見せる。
「いえ、わたし行ってみたいです。もっと色んなものを見てみたい。それで、わたしにも出来ることを見付けてみたいです」
わたしにしか出来ないことがあるかしら。わたしの力を「特別」と言ってくれたあの人の近くにいたら、見付けられるかしら。
若者が一たび広い世界に興味を持ってしまえば、その心は誰にも止められない。大人達は、少し寂しいけれど、内向的だった少女が徐々に独り歩きを始めたのを微笑ましく見守っている。
だが、彼女は今この世にたった一人の「聖女」だ。この先、波乱なくしては過ごせないだろう。どうか女神の加護のあらんことを、と願うのであった。
幕間~おしゃべり~
「じゃあ、結局ここを出ていくんだ?」
「うん、ディローゼンでお世話になるの」
「・・・んだよ、それ」
「仕方ないよ。ゲオルク様だって、また王様からの命令があったら逆らえないわ。ここにいたら結局迷惑が掛かっちゃうもの」
「まあ、マルクの場合はそこに怒ってるんじゃないのよねえ」
ひひひ、とメグが変な笑い声をあげる。
「うるせーな、俺だってお前をまもっ・・・!・・・何でもねえよ!」
心なしか、顔が赤くなっている。どこか悪いわけでもなさそうだし。どうしたの、と声を掛けようとして、ザックさんとアグネスさんが二人で歩いているのを見付けた。
「はあ~、あの人めちゃくちゃ強いんだぜ」
マルクがため息をつく。なんでも、先日ディローゼンの一行も混じって剣の稽古をしたそうだ。
「えっ、噂の美少年も?」
「ああ、公太子デンカだろ。俺らより三つ四つ年上だぜ?うん、ギル様とまともに打ち合ってた。あと魔法もなあ、全属性使えるんだと。他の騎士様たちも強かったよ。特にあのザックさん、もとは農民の出なんだって。カッコいいよなあ」
「そうねえ、騎士になれば、あんな美人さんとデート出来るもんね」
あ、アグネスさんが笑ったわ。ザックさんも心なしかいつもより柔らかい雰囲気だ。
「なあ、お、俺がもし騎士になれたら・・・」
「マルク、どうしたの。さっきから具合が悪いの?」
さらに顔を赤くして、黙り込んだマルクを心配してゾフィが問う。
「ななな何でもねえよ!俺っ、仕事、あるからっ!」
そう言って走って行ってしまった。そんなに急ぎの仕事なのかな、と見送るゾフィの横で、「ヘタレねえ」とメグがため息をついている。
「ま、何にせよ、この先あんたが無事ならそれでいいってことよ・・・けど、ちょっと羨ましいな。そんな遠い所まで行けるなんて」
マルクについてヘンプトまで来たくらいだ。メグも新しい世界を知りたいと思ったのだろう。ゾフィとて、その力ゆえに苦労も絶えないのだが。何と返事をしたものかとゾフィが悩んでいると、いつものいたずらそうな顔で笑った。
「手紙、書きなさいよね。あんたの恋愛事情とか、カッコいい人の事とか」
「うん、絶対書くから」
恋愛事情はともかく、近況くらいは知らせたい。
メグがゾフィを抱きしめた。二人は孤児院ではよく同じベッドで眠っていた。その頃の匂いを思い出して二人で笑い合う。じゃあね、メグも駆け出す。一度振り返って笑い、手を振った。そうして今度こそ走り去って行った。
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