新春特別編 聖女様とラヴ・イット

※去年なろうに投稿した新年IFバージョンです

機会がなかったので卯年のお話ですが放出しときます


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「あけましておめでとうございます……ぴょん」


 2023年一月一日。零時を回った辺りで庵の部屋に一匹の兎が出現した。


 大晦日のラスト配信の後始末のため年越しの瞬間は一緒に居なかったのだが、庵の元へぴょんぴょんとやってきたバニーガール姿の明澄がそう言い出して、年が明けたのを実感した。

 そう、なんと明澄はバニーガールの衣装を纏って兎年というのを知らせてくれたのだ。


 頭上でひょこっと指を曲げて、うさぎのポーズを披露する明澄に見蕩れつつ、わざわざ用意したのか、と感心する。


 一般的なバニーガールの衣装のように、ボディスーツスタイルではなくタキシード風。上に合わせて九分丈のパンツスタイルと、露出は少ない。

 明澄らしい清楚可憐な姿だった。


「……お気に召さなかったですか?」


 ロクに反応を示さなかったからか、明澄はややしょげた様子で庵の隣に座り「兎年だったはずですが……」と今年の干支を疑い始める。


 薄い反応だったのは野生のバニーガールの出現に驚いただけで、庵の琴線に触れなかったという訳ではない。

 わざわざ今日のために、サプライズを仕掛けてきた明澄を可愛らしく思いながら「あけましておめでとう」と口にした。


「はい。改めてあけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いしますね」

「おう。今年もよろしく、な……えっ……?」


 お互いに会釈程度に腰を折り合う。静かな新年の挨拶となる予定だったのだが、頭を垂れた明澄に目を向けるや否や、庵は自分の目を疑った。


 露出は少なくて清楚。そう思っていたのだが庵は見事に手のひらを返した。

 それもそのはずで、衣装の背中側はぽっかりとがら空きだったのだ。


「あ、明澄……さ……ん? そ、それ……」

「気付きました?」


 驚きで目を丸くしていると、明澄はサプライズ大成功と言わんばかりの笑顔で、再び頭上でうさぎのポーズをとる。


「お前もそんな格好をするんだな」

「今年は攻め攻めで行こうかと」

「攻め攻めで行くのか……」

「……はい。攻め攻めです」


 僅かに耳が赤く見えるのは気のせいではないだろう。自らこんな格好をしておきながら恥ずかしいらしい。

 その羞恥が無ければもっと過激だったのだろうか。今でさえ目のやり場に困るので、明澄がほどほどに清楚な少女で良かった。


 バニーガールと言えば、のあの衣装姿でもスタイルの良い明澄なら当然映える。胸元やら足やらを露出したタイプだったら、きっとすぐに毛布を巻かせたことだろう。

 今でさえ狼狽えるというのに、明澄の攻め攻め宣言に庵は戦々恐々とする。


 今年は大変な年になるかもしれない、と握りこぶしを口許に当てて呟くと、不敵な笑みが耳にかかった。


「ふふ。バニーガールお好きなんですね」

「なぜ決めつける?」

「好きじゃないんですか?」

「好きか嫌いで言えば好きだけども。……そう背中を見せつけられるとだな」

「見せ付けられると?」

「新年のお祝いどころじゃなくなるかもしれないし」


 堅牢で紳士的と明澄から評判の高い庵の理性だが、一線を越えないように頑張るのにも限界はある。

 あまりに刺激的なのは困るのだ。


 信頼の厚さ故か「なんのことでしょう」とぱちぱちと瞬きしている明澄に苦笑しつつ、「このやろう」と庵は背中に手を伸ばして抱き寄せ、明澄の顎を持ち上げる。

 へ? と驚く明澄だったが、そんなことは知らんと続けざまに顔を寄せて庵は、悪い笑みを浮かべた。


「俺がまだ寅年の気分だったらどうするんだ?」

「あ、えと、……う。で、でもあけましておめでとう、って」

「何の話だ?」

「ず、ずるいです! そんな庵くんにはうさぎさんキックをお見舞いしますからねっ」

「お、おっと!」


 キックとは言うものの、それには速さも強さも無い。紅を差した表情でげしげしとつつくように明澄が蹴ってくるのだが、もちろん痛くなどなかった。

 涼しい顔で笑っている庵に、頬を膨らませながら明澄は長い御御足をじたばたとさせる。


 それから庵は優しくソファの上に明澄を寝転がして、そのまま覆い被さった。銀色の髪は乱れ散らばり、千種色の瞳が膜を張るように輝きを帯びる。


 格好も相まってか、明澄は肉食動物に捕捉されたうさぎそのもの。更に赤らんだ顔に向けて庵は小さく笑いかけた。


「攻め攻めのうさぎさんも形無しだな」

「知りませんっ!」


 ぷい、と明澄は顔を背ける。押し倒された体勢でも怖がったりしないのは、庵がまだ揶揄いを口にしているからだ。

 目を合わせない明澄にはほんのりと余裕がある。やれるものならどうぞ、というスタンスで徹底抗戦の構えを見せる。


 ちょうど顔を背けたおかげで首筋に隙が出来た。

 ならば、と明澄の首の付け根辺りに牙を立てる。


「えっ、!? ちょ、ちょっと! んー!」


 噛み付きはするが吸い付くことはしない。跡が残ったら多分消えるまでむすっとされるので、控えめに留めておく。

 ギリギリのラインを見極めながら、明澄の反応を楽しみつつ、太腿の辺りを撫で付ける。びくびくと震える様子は子うさぎのようで、ちょっとした嗜虐心を募らせた。


 それから、唇を離してやると、ふにゃふにゃにふやけきった明澄がそこにいた。


「……な、なんてことするんですか」

「……つい。魔が差した」


 真っ赤な表情で蕩けた明澄は、必死に漏れる声を抑えていたからか、息を荒くしながら庵を睨みつけてきた。

 やりすぎだったかもしれないが、おめでたい元日なので許してくれるだろう。希望的観測に近いもの胸に抱くのだが、しかしあっさりとそれは甘いのだと知ることになった。


「許しません。えい……あむっ……」


 機嫌を損ねた明澄にセーターを引っ張って引き寄せられると、今度は庵が噛み付かれた。

 恥ずかしさを堪えながらも、かぷりと先の庵のように歯を立て反撃してきたのだ。


 やられた、と庵は笑って噛み付いてくる明澄の頭をしばらく撫でる事にする。


 その後、満足するまで甘噛みの応酬を続けてしまい、初詣で二人揃って首を隠すことになったのは言うまでもないだろう。

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