第86.5話 聖女様と絵師と探偵のオフコラボ 後編

「――はい! ここで速報です。うかまるとママがチューしてます」


《やっぱり……》《はいありがとうございます》《てぇてぇ》《うかんきつてぇてぇ》《はやく結婚しろ》《私からうかまるを奪わないで》《俺からかんきつを奪うな》《問題ナシ!》


「突然大嘘つくな!」

「ママと娘なので何も問題ありませんね」

「お前も乗るな。止める側だろォ!?」

「家族だもんね」

「はい!」


 雑談中、急に澪璃が放った大嘘にびっくりするが、いつもの事なので庵は心は冷静に、そして大きめのトーンでつっこむ。

 ボケはいつものこととはいえ、少し過激な話題だ。

 庵としては意識するのでやめてもらいたい。


 明澄はといえば、澪璃に同調して人差し指を口許へ押し付け、明澄がたまにする小悪魔の表情で笑っていた。


(なんなんだこいつら……)


「ていうか、先生と家族って絶対良いよねぇ。料理もできるのが強いよ。今度私の家に料理作りに来ない? あ、サシでオフコラボしよっか。なんならそのまま嫁に来てもいいよ?」

「は? 何を言ってるんですか? 私のママなんですけど? サシはうかんきつのオフコラボしか許しません」


 適当な口振りで澪璃がそう言うと、明澄が食い付いたというか噛みついた。


 いつもの如くかんきつに異常な執着を向け、一部からは『闇氷菓』と言われるモードになった明澄が、澪璃に怖い顔で迫り、割り箸を逆手で握る


「怖い怖い。割り箸を向けないで!」

「おい零七、早く謝れ!」


《零七殺される!?》《謝れ! そいつは危険だぞ》《あーあ、またやってる》《香典スパチャです》


 この闇氷菓は普段彼女がかんきつが絡む時にしか見せないということもあって、ネタとしてかなり好評だ。

 ファンアートだったり、公式である事務所ですらいじってくるほど有名な持ちネタである。


 リスナーやファンはそんなおふざけと思っているのだろうが、実際の現場にいる庵から見ると、明澄は割と本気そうな眼をしていて背筋が寒くなる。

 ただ、今回の明澄は闇氷菓というよりは、稀に明澄が作る不服そうな表情だったので、庵は不思議に思った。


「まぁ、というわけで、次はうかんきつのオフコラボになります」

「勝手に決めるなよ」

「まぁまぁ、いずれすることですし」


(こいつ……狙ってやったな?)


 澪璃が自然な流れで明澄とのオフコラボに持っていったように見えるが、澪璃はにやぁと悪い笑みを向けてきている。

 計画性の高い犯行だ、と庵はすぐに理解した。


 明澄とのオフコラボも既に企画はしていたし、明澄も望んでいたとはいえ、最近は色々と気恥ずかしくて具体的な日にちなどは決まっていない。


 こうなると、近い内やらざるを得ないだろう。

 これも澪璃からのアシストということだろうか。庵は複雑になりながらも、明澄に袖を掴まれたので「その内やります」と宣言する羽目になった。


《おお! うかんきつのオフコラボきた!》《うかんきつ良いですわぁ》《やっと結婚式なんですね》《御祝儀もって待機してます》《あれから二年かぁ。感慨深い》《氷零コラボも待ってるよ》


「ま、時間だし締めよっか!」

「私たちのオフコラボも決まりましたしね!」

「お前らほんと勝手なことばっかりして……」

「はい。せーの! おつKー」

「おつKーです」

「はいはい。おつKおつK」


 こうして、三人の配信は明澄とのオフコラボの予定を勝手に取り付けられ、ぐだぐだしたまま終わりを迎えるのだった。

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