第24話 聖女様たちのお風呂配信
四人による麻雀コラボはカレンの最下位が決定し、配信の裏にいた夜々も含めてお風呂配信へと移行することとなった。
「よし、連れていきなさい」
「嫌だぁぁぁ! 風呂は嫌だぁ!」
「ハイハイ、大人しくしましょうねぇ。みなさーん、準備するからまた十五分後よろしくねぇー。じゃ、先生は場を繋いでてー」
「うい。まかせろり」
「そんなわけで、カレンさんの配信以外は切りますので、私たちの視点は終わりますねー」
風呂を嫌がるカレンは駄々をこねるも、にこにことしながら零七が風呂へ引き摺っていく。
連行許可を出した庵は場を繋ぐために残り、そして明澄が一旦配信を閉じる。
《うおおおおぉ! お風呂配信だぁぁぁ!》《きちゃ〜!》《おっふろおっふろおっふろー♪》《俺、湯船になります》《ウチの猫もこんな感じで嫌がる》《シャワーヘッドになりてぇ》《同接10万人以上いて草》
貴重なお風呂配信ということで、コメント欄は異様な熱気に包まれ、あからさまに視聴者の数が増えていく。
SNSのトレンドのタグは、上から「風呂配信」「カレン・アズライール」「カレン・フロハイール」「汚物の消毒配信」「ふろぐれす」「オフ呂コラボ」などがランクインしている。
またそのトレンドから視聴者を呼び寄せ、残ったカレンの配信だけとんでもない速さで同時接続者数を増やして行くのだった。
「夜々ちゃんそっちの足持って」
「おっけー。んじゃ風呂いくぞ、汚物」
「やめろぉぉぉぉ」
そして、最後にそんな断末魔が聞こえてから、一旦庵以外の四人の音声はミュートになった。
「よし、準備出来た。先生ありがとー」
「十万人がいる配信を一人で持たせるのやばかったわ」
「ママ、お疲れ様です。ここからは私たちがやりますので」
「まって、話せばわかる!」
「大人しくしてなって」
およそ時間通り十五分弱経つと戻ってきた彼女たちとバトンタッチし、庵は完全にフェードアウトする。
女子達の間に庵が混ざるのは邪魔だし、百合百合しくなるであろう所に男は不要だ。
コメントも残しづらいので、後は一人のリスナーになるのだった。
「じゃ、脱がせるか。よいっしょっと……うわでっか!」
「おお、これはこれは〜良い果実ですなぁ」
「さっさと洗えよッ!?」
「こんな良い身体してるのに、風呂入らないの勿体無い。わたしにも分けろ」
「やーい、ひんにゅーちゃーん!」
「あ? その脂肪もぐぞ?」
《デカいんだ》《ごくり……》《サイズは?》《全員脱ごう》《映像求む!》《ママのお風呂配信ないの?》《衣擦れの音、たすかる》《草》《でかいのかぁー!》《ママ、後でファンアート描いて!》
VTuberはその性質上、当然自身の実写姿を見せることは一部を除いてない。
そのため、リアルの情報は貴重だ。
きゃっきゃとしながら着々とカレンの服を脱がしたりと洗体の準備が進んでいけば、夜々や零七の実況にコメントは沸き立っていた。
「ほら、カレン全部脱ぎな。わたしも脱ぐから」
「くっ!」
「わたしも脱ごうっと」
「え? ゼロちゃんもデカくない?」
「そうだよ。わたしもでかいよ〜。ほれほれ」
「は? キレそうなんだが?」
カレンをひん剥き、零七と夜々も脱いでいく。
リアルのカレンの姿は長い黒い髪の高身長の女性で、また零七は小柄な体型に似合わぬスタイルと金髪のロングヘアが実際の姿だ。
また夜々は黒髪のショートカットにスレンダーな体つきをしていた。
「というか、うかまるもそこそこでかいよ」
「ま? 何? 最近の高校生ってみんなそうなの? ねぇ、うかまるは何カップよ?」
「私に聞かないでください。あと答えませんからね?」
「はぁーけしからんわぁ。わたしってば価値ないじゃんね」
因みに明澄は機材担当しているため、彼女だけ服を着ていて風呂には入っていないが、零七に身体情報をバラされる。
そして、零七のはっきりとしたボディラインに彼女は嫉妬しつつ、明澄の身体をみてやさぐれ落ち込んでいた。
《やば、四人中三人がでかいのか》《神様、カレンの家のお風呂に転生させてください!》《エッッ!》《カスは胸もカスw》《うかまるとゼロさまでかいとか、マ?》《えっっど》《みせて!》《ひんぬーにも価値はある》《夜々、強く生きて……》
「おい誰だ? 胸もカスとか言ったやつ! コメント見てるからな!?」
「リスナーに絡むのやめなよ。Bカップの夜々ちゃんにも価値があるよ」
「おい、ブラのサイズ見んな! くそう、こいつEあるじゃん。身長はちっこい癖に。なんでだよぉぉちぎってやるぅ」
「いやーん」
《怖っ》《キレてて草》《E!?》《ゼロ様はEなんだ》《夜々、サイズバラされてて草》《Eはやばい》《ロリきょぬー最高》《これが百合か……》《ゼロさま江戸!》
零七と夜々の絡みはよりコメント欄を熱くし、さらにトレンドに新しいワードが上がっていく。
もうそれは一種のお祭り状態で、ぷろぐれすが開いている小さなイベントや大会よりも人を集めるほどだ。
「いや、お二人とも早くカレンさんを洗ってください」
「そーいやそうだった。このIカップ風呂嫌いお化けを綺麗にするか」
「うわ、まって全然髪の毛が泡立たない。何日入ってないのぉ?」
「三日」
「はぁ? 頭に栄養行かなかったんだろうね」
「人の勝手でしょうが。風呂とか入らなくても死なないしぃ!」
「衛生的にこれから事務所とかスタジオ出禁ですね」
《汚すぎで草》《汚さもサイズも化け物で草》《何この配信?》《そんな汚いのみんなには任せられない。僕が洗うよ!》《Iカップ!?》《きちゃない》《今すぐ垢擦りに行け》《デケェ!!》《消毒とかそういう次元の話かよ》
あまりにもの情報量の多さにリスナーたちは困惑していたり、相変わらず気持ちの悪いコメントだったりと賑やかさは一層増している。
お風呂に掛けて青色のスパチャが収拾が付けられないほどの飛び交っていたりと配信は伝説になりつつあった。
「すげぇーデカすぎて手が消える!」
「これがエデンか」
「うわあぁ触るなぁ!」
「見た目はいいのにでも汚いんだよなぁ、これ」
「たわしありますけど、いります?」
「たわしは死ぬでしょっ! 削れるわっ!」
「いいじゃん胸ごと削ろーか」
「ぶっ殺すぞてめー」
と、いよいよ配信はカレンの洗体となり、佳境を迎える。
「もう、うかまるもおいでよ」
「あ、そうだ。何一人だけ服きてんのぉ?」
「私は機材担当って話じゃないですか!」
「おりゃあっ!」
「きゃぁ、やめてください!」
「あ、ほんとだ! うかまるもでかっ!」
「だって、氷菓はわたしとおn…むぐぐ」
「零七! それ以上喋ったら捻りますよ?」
機材を担当していた明澄だが、夜々や零七に巻き込まれ、ついにはそのTシャツを捲られてしまう。
加えて零七にサイズまでバラされそうになり、慌てて彼女を羽交い締めにして口元を押さえ込んだりと、もうやりたい放題な配信となっていく。
「てかさー、何その下着めっちゃ可愛いじゃん。なんか勝負下着みたい」
「けっ、色づきやがってよー」
「そ、そんなんじゃありませんからっ。もう、全員カメラに映しますよ!」
「きゃーライバーとして終わるー」
「こわーい!」
「アタシ、もう上がっていい?」
(凄い配信だなぁ)
ボイスチャットから抜けていた庵は、トラブルが起きた時の場の繋ぎ役として配信を閲覧しているが、その生々しいやり取りに圧倒される。
何より良くないのは明澄の身体情報が流れてくることだ。
いつも明澄と顔を合わせているからスタイルがいいのは分かっていたが、色々と想像してしまってこれでは次会う時が気まずい。
(ちょっと大きめの衣装とか買っておくか)
ただ、資料として衣装を着てもらう側である彼はネットで新たにそんな注文をしてもいた。
それから、後に伝説として語られるお風呂配信も終了し、未成年ということもあって夜々に送られて帰ってきた明澄と会うと、
「す、凄い配信だったな」
「変な想像してませんよね?」
「し、してない、してない!」
そんなやり取りをすることになり、しばらく彼女は厚着をしたり資料のためのコスプレを渋るのだった。
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