第16話 くそ雑魚サムネの聖女様
「雑い! うかまるはとにかくサムネが雑い! ほんとくそ雑サムネだな。ざぁこざぁこ」
「私だって時間を掛けたら、
(やっぱ、二人ともおもしれぇ)
YouTubeの画面の向こうでは、言い合いをする二人のVTuberがいた。
そして、そんな配信をBGMにして庵はイラストを描いている。
今日の明澄(氷菓)の配信は、事務所の先輩である
夜々は黒髪ロングのお姉さんといった印象で、緩いTシャツから左肩を出し、髪には白のメッシュをあしらったデザインのニートキャラ。
配信歴は四年目を迎えチャンネル登録者が百万人に到達した数少ないライバーの内の一人だ。
配信スタイルは明澄と似た様なものだが、違うのはリスナーとの関係。
明澄はアイドル的な立ち位置であるのに対して、彼女は芸人よりのタレントと表現するのが正しいだろう。
よくリスナーと喧嘩という名のプロレスをしている。
だから彼女に対するコメントはかなり辛辣なモノが多かったりするが、ちゃんと愛されていてるのも確かだった。
「サムネ技術世界一のわたしに勝てるとでも? ニート舐めんな」
「私は中身で勝負してますから!」
《は? うかまるのサムネは最高だが?》《先輩が教育しないからだろ》《は?》《氷菓ちゃん、このカスがごめんね》《後輩をいじめるな》《は?》《こいつを燃やせ》《はい、炎上》
このようにコメントは大荒れで、初見の視聴者が見ればまるで炎上しているかのようなチャット具合だ。
ただこれが通常運転であり、夜々もまた芸風として受け入れていた。
また、今日の話題であるサムネとはサムネイルの略称のこと。
サムネは動画や配信の枠に表示される画像を指し、小説や漫画の表紙に当たる部分。
これはとても大切なもので、その配信や動画の情報が詰まっており、タイトルとの兼ね合いもあるが出来によっては再生回数や視聴者数に差が出るくらいだ。
そしてそのサムネ作りが上手いのが夜々で、クソ雑魚やらくそ雑サムネと称されているのが氷菓という、ぷろぐれすの中でも対象的な二人だった。
「ホントおもしれぇ。俺もコメしとこ」
《ママは氷菓のサムネが大好きだぞ!》
そうやって絵を描きながらたまに庵もコメントを打ち込み、チャットを盛り上げていく。
《ママ!?》《ママもようみとる》《ニート風情がよぉ》《ママの言う通りだ!》《ママもようみとる》《カス、働け!》《ママおって草》
「あ、ママ! 夜々さんが虐めてくるんです。助けて下さい!」
「うかまるはいい歳してママに頼って恥ずかちくないんでちゅかぁ?」
庵のコメントを見つけた明澄はすかさず拾っていく。
それに対して夜々は自分が求められる振る舞いを見極め明澄を煽る。
《俺の娘をいじめるな! 同人誌にするぞ?》
「ママ、もっと言ってやって下さい」
《選べ。オークに
「すみません。それだけは辞めてください」
そしてまた庵がコメントを返せば、夜々が負けを認めて謝る。
これが、夜々の芸風で明澄とはまた違った立ち回りの上手さとそのキャラクター性が人気を博していた。
因みに庵は契約上、夜々の同人誌は作れない。
彼女にはネタで言っているだけ。
正確には、ぷろぐれすを運営する『株式会社
青雲Liveは所属ストリーマーのプロデュースにおいて、イメージに関わるから成人指定の要素を排除しているのが理由だ。
もちろん、青雲Liveと無関係の人間はガイドラインに沿っていれば、R-18指定の作品でも作成可能となっている。
「それじゃあ、うかまるは今度、配信で最高のサムネを作るということで」
「分かりました! 受けて立ちます」
「よし、かんきつ配信者化計画として、アイツも呼んでサムネ作らせるか」
《ママを巻き込むな》《ママはお前と違って忙しいんだぞ》《同人誌にされろ》《あいす応援しとるよ》《クズニートめ》《うかちゃん、頑張って!》《ママは断っていいよ》《お前が作れ》
配信は進むに連れて、明澄がサムネ力向上のために勉強して、また次の配信で披露するという流れになり終わりを迎えた。
そして、何故か配信者ですら無い庵も巻き込まれていた。
「今日もとっても面白かったです! 配信を盛り上げて下さってありがとうございます」
「コメントしただけだがな」
「それでもです。あ、この生姜焼き美味しいですね」
夜々のコラボ配信後、いつものように明澄が部屋を訪れ庵と食卓を囲んでいた。
また、先日の彼女の手伝いたいという申し出から数日置きに掃除をしに来てくれたりしている。
いずれイラストの制作作業が佳境に入った時は、料理を振舞ってくれるそう。
余裕がある今はまだ、庵が夕食を彼女に振舞っていた。
「にしてもサムネどうしましょうね」
「俺は多分イけるな。ゲーム配信なら自分でキャラを描けばいいし、イラストで構図とかいつも考えてるからサムネも大丈夫なはず」
「それは確かにアドバンテージがありますね」
「でもお前のクソ雑サムネ芸も良いよな。親娘としてそれで売るか」
「なるほど。一理ありです」
明澄はサムネを雑に作る。
それは配信初期の頃に一度、時間が無くて雑に作って配信したことが始まりだ。
その時にリスナーからのウケが良くネタにもされたことによって、一つの芸としてネタとして彼女はくそ雑魚サムネなどと言われるサムネイルで配信を続けてきた。
となれば、氷菓の親であるかんきつも雑な方が面白いかもしれない、と庵は気付く。
ママと娘のてぇてぇ営業もまたファンサービスの一環である。
それにしても目の前で自分の作った料理を食べる美少女に、配信やネット上ではママと呼ばれているのだ。
性癖が歪みそうになる、と庵はふと思った。
「今更だけどお前にママって呼ばれてると思ったら、変な感じがするなぁ」
「そうですか? 私としてはご飯を作ってくれますし違和感はありませんよ、ママ」
そのことを明澄に伝えみると、彼女は人の悪い顔を見せ始める。
揶揄う気満々だった。
「やめろやめろ。性癖がぶっ壊れる」
「ママのご飯美味しいです。ありがとうございます、ママ」
「くそったれ。恥ずかしすぎる」
明澄は生姜焼きを口にし口角を歪めながら、恥ずかしがる庵を弄ぶ。
それはもうとても愉快そうだった。
妙な性癖と遭遇してしまった庵は、どうにか羞恥に耐えようと肩を震わせる。
「ふふっ。弱点を晒したのが悪いんですよ」
そして、明澄は口元を手で抑えながら、楽しそうに笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます