第12話 カオスなお悩み相談室 その3 VTuberに必要なもの

「金かぁ……だよなぁ。マイク、スマホ、PC、イラスト、ソフト。マジで金かかるし」

「私たちがデビューした時の投資金額ってかなりしてますからね」


 VTuberになるためには何が必要か? という質問に明澄と零七はお金と答え、庵は生々しいとは言いつつも概ね同調していた。


 イラストレーターがメインとはいえ、配信をする庵もそれなり良い機材を揃えているから、結構お金が掛かっている。

 かんきつの立ち絵は自分だからその辺はタダというのは大きいが、そうじゃないVは大変だろうなと思っていた。


「最初は会社に助けてもらったけど、全然お金なかったら多分なれてないねぇ」

「元々、個人で何とか収入を得ていたのは大きいですね」

「お金があればなんでも出来る! 1、2、3、ダー!」

「嫌な猪木だなぁ」


 企業、事務所に所属する配信者となればある程度サポートやフォローはあるだろう。

 けれども機材等は自分で揃えていくのが基本。


 個人から事務所に入った明澄と零七は少しでも稼いでいたのが大きかった。

 また、それぞれに特技があって、それほどお金をかけず個人でやっていたから貯められたというのもある。


 明澄と零七は配信者になる前からの知り合いで、明澄はイラスト、零七は機材等やLive2Dなどに明るかった。

 その為、二人で補い合って費用を抑えていたという過去がある。


 プロとは言えずとも個人でやる分には問題なくやっていけていた。

 そうして企業に誘われ事務所所属となって今に至る。


「また事務所に入るなら今は配信経験が必要ですかね」

「Vの黎明期なら未経験でも募集しているところは有ったんだけど」

「今はあんまりないもんな」

「それにメンタルも弱いと辛いと思います」

「めちゃくちゃ言われるもんね。大根さんの質問にもあったけど、スルースキルは必須だしアンチコメなんて気にしてたら病むし」

「Vは必要なもんが多すぎるな」


 お金以外にも配信経験だったりメンタルだったりと、VTuberとしてやっていくにはそれなりに必要なモノが多いようだ。


 明澄はともかく零七の口振りからするとアンチだったり批判意見、コメントに多少の悩みがあるらしい。


 実際、語っている最中の表情はどんよりとしていて、眼は少し死にかけていた。


「絵師さんもメンタル大変でしょ?」

「まぁな。俺のDM見る? やべぇぞ。アンチとか誹謗中傷めちゃくちゃ来る時あるし。あと、タダで描けとか言われるぞ」

「うわぁー、やだね。先生はどうしてるの?」

「とりあえず、こいつより稼いでるわって感じでスルーする。あと、俺が絵を描くだけでアンチとかロクでもない奴が不快になってんのは楽しいね。普通の人達を不快にはさせたら良くないけど」

「ママ、超合金みたいなメンタルしてますもんね」


《ママさいつよ》《ママ最強ママ最強》《俺も見習いてぇ》《先生のメンタル論だけで本出せる》《言ってることそれなりにアレだけど真理ではある》《草》《強すぎる、さすがプロ》


 庵も配信者よりはマシではあるのだが、SNSで人気を集めるだけあって、やはり厄介なファンだったりアンチが存在する。


 ただ、彼は幸いなことにメンタルがもともと強いし、鍛えられてもいるからそれほど辛くはなかった。


 よくイラストレーターに限らずネット上のインフルエンサーはアンチや批判コメントに悩まされていると聞く。

 そういう意味で庵はネットで活動するのに向いていると言えよう。


 そしてリスナー達の間ではそんな彼を敬ったり持ち上げるようなコメントが目立っていた。


「俺の師匠が言ってた絵師の十ヶ条というか十戒にな、『アンチは俺たちが殺す、その間に描け』っていう悩める絵師に向けた言葉があるんだよ」

「そういうの良いですね。言葉は強いですけど」

「だな。でも向こうが刀を抜いてんだからこっちも抜くわな」

「確かにね。私も変なコメントはBANするし、言い返すもんね」


 アンチや誹謗中傷に対して三人のスタンスは、かなり似ているようだった。

 まともに取り合うのも馬鹿らしいし、それだけ心を削るのだろう。


 零七は言い返すとは言うも、論破したり完全に追い返せる時しかしない。

 それくらいでないと配信者はやっていけない、ということだった。


「じゃあ、大根さんにはそんな感じで頑張ってもらいましょうか」

「ね」

「金とメンタルと配信経験が必要ということで」


 あらかた話し終えると三人は相談を打ち切った。

 リスナーたちはかなり満足したようなコメントを残しているし、結構タメになったのではないだろうか。


 庵も気になっていたことが分かったし、イラストレーターとも変わらない部分は多いと知れた。

 やはり仲間とやっていくのは楽しい。そう思える時間だった。




「そんじゃ、今日はこの辺にしときますかぁ」

「はい、続きはまた次のK3コラボということで」

「今度はゲスト呼んでゲームするか!」

「いいね! 誰呼ぶ?」

「おじさん系がいいな」


《お疲れ様!》《おつ!》《面白かったー!》《今日も面白かったよ》《次楽しみ》《乙!》《タメになったわ》《おつかれ!》《K3しか勝たん》《おじさん!?》《楽しかったよ》


 楽しく配信をしていると時間が過ぎるのは早いもので、配信から一時間半ほどが経ちコラボはお開きとなる。


 それでも話は次回の配信の話題になって、ゲストや配信内容だったりと、まだ熱は冷めていない。


 コメント欄のリスナーたちも思い思いに感想をコメントしているが、配信の感触は良さそうだった。


「ではまた考えましょうか。お二人は、宣伝ありますか?」

「ねーな。しばらく配信には出ないし」

「わたしはどこかでガチャ配信かな。詳しくはTwitterでお知らせするよ」

「では最後は私から。皆さん、来週末にぷろぐれすの公式チャンネルで新春大喜利大会があります。是非見に来て下さいねー。では締めましょう。せーの」

「「「おつKー!」」」


《絶対見に行く!》《おつK》《おつK!》《おつうか》《おつKです!》《大喜利大会、楽しみ!》《おつかれー》《今日も良かった!》《おつKー》


 チャンネルの主である明澄が音頭を取って締めれば、コメント欄のスピードは再加速しスパチャやメッセージと共に配信は終了した。




「二人とも、おつかれー!」

「お疲れ様です」

「おつかれさん」

「次はゲストどーする?」

「ん、和倉わくらのおっさんでいいだろ。まだ呼んだことないし」

「おっさんは暇そうだしねぇ」

「和倉さんですね分かりました。どうせならもう一人呼びません? 夜々さんあたりとかどうです?」

「いいんじゃない? あの二人なら盛り上がるよねぇ」

「また詳しいことは後日にしましょう」

「うい。もう抜けるねー」

「またな」


 庵たちは明日も学校がある。

 大方の方針だけ固めて打ち合わせは程々にしておく。


 そして先に零七から抜けていった。

 やはり忙しいのかもしれない。寝坊したのも理由があるのだろう。


「俺たちも終わるか」

「はい。お疲れ様です。あ、直ぐにそちらに行きますね」

「了解。待ってる」


 残された二人は零七がボイスチャットから完全に抜けたのを確認して、コソッと話し合う。


 今日もまた明澄が晩御飯を食べにやってくる約束だった。

 前回から一日しか経っていないが、今日は特別だ。


 翌日が学校だしテストもある、今日は明澄のチャンネルで配信をしたので彼女の負担が大きかった。

 そんなこともあり、三日に一度という取り決めを変えて、この後二人で食卓を囲む予定である。


「なんかもう一緒に食うのが普通になってきたなぁ」


 初めは事務的だったのに早くも彼女とは、数回目の食事になる。

 このままだといつか毎日、食卓を囲むことになりそうだと庵は思い始めていた。


 そして、そんな感想を呟いていると、


「お邪魔します」


 玄関が開く音が聞こえ、私服姿の明澄が部屋にやってくるのだった。

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