第11話 お悩み相談室 その2 クリエイター編

「これは手に負えないだろ。上手く収まる未来なんか見えないが?」

「無理ぽ」

「うーん」


 新年早々、難問中の難問とも言うべき相談内容に三人は頭を悩ませていた。

 明らかに詰んでるような状況で、何をアドバイスすればいいと言うのか。


 高校生三人にとって荷が重すぎるし人生経験が足りない訳だが、明澄が選んだのは配信やコメントが盛り上がると思ってのことだろう。


 ただ、明澄の口調には少しだけ後悔しているような雰囲気が滲み出ていた。


「浮気、浮気からの妊娠コンボとか関係リセットも無理だしねぇ」

「こんな無理ゲークリア出来んの、某とんち坊主くらいだろ」

「ポクポクちーんってね」

「とりあえず何か考えましょう! 三人寄れば文殊の知恵と言いますから」


 最早、諦めムードの庵と零七。

 明澄は自分が持ち込んだこともあって二人に思い留まらせようと頑張っていた。


「もうあれじゃない? 時を戻そう! 的なやつじゃないと」

「それができるのはあの二人だけです」

「ダイバージェンスメーター……死に戻り……」

「タイムリープから離れましょう」

「じゃあ、もうひたすら謝るしかないじゃん」

「無駄に尾が引いたら丸く収まるってか、その間にこの相談者のお腹がどんどん丸くなっていくしな」


 真面目に悩んだところで、ロクな案を思いつきそうになかった三人は所々、茶化しながら解決策を話し合う。


「もういっその事、浮気した四人全員で暮らすしかないでしょう」

「「それだ!」」


 そして、ツッコミに回っていた明澄が諦め半分にそうコメントすると、残りの二人が喜色ばんだ声を上げた。


《気まずくて草》《解決になっとらんw》《四人で子育ては理に適ってるな》《新しい育児スタイルや》《投げやりすぎw》《昼ドラから子育てテラス〇ウス?》《天才w》


 コメント欄も様々な反応を示していたが、明澄の意見を解決と思っているリスナーは少なかった。


「というわけで、我々の結論は」

「「ひたすら謝って、みんなで暮らす」」

「です。以上で解決とします」


 と、一応、解決とした。

 無論、解決になっていない事は三人とも百も承知だ。


 というか、相談者も解決出来ると思っていたかも疑問である。

 こんな相談を高校生VTuberのお悩み相談室に送ってくる時点で不毛だろう。


「はい、では気を取り直して次にいましょう」

「んじゃ、わたしからね、えっと『こなつ』さんからね」


『氷菓さん、零七さん、かんきつママ、こんうかです。あけましておめでとうございます。かんきつママに質問です。私はイラストレーターを目指しているのですが、努力が続きません。机に向かうのも嫌になる時があります。どうやったら努力出来ますか? また、頑張る秘訣、ママはどうなのかお聞きしたいです。学生でプロになったママの事を尊敬しています、これからも頑張ってください』


「ん、先生宛てだね」

「こういうのでいいんだよ、こういうので」

「確かに、ママが普段どうしてるのか聞いてみたいですね」


 零七がチョイスしたのはイラストレーターかんきつに対する、クリエイターを目指す人間ならではの悩みだった。


 前の相談とは違いお悩み相談室にぴったりなお題と言えるだろう。

 庵は生き生きとし始める。


「ま、俺も机に向かうの嫌だよ。面倒臭いもん」

「あークリエイターの人はみんなそういうよねぇ。パヤオも言ってたし」

「それに俺が努力してるのは別に上手くなりたいとか、もっと仕事を貰えるようにとか思ってないし。なんて言うか、怖いんだよな」


《分かる》《はへー》《絵を描くの面倒だよね》《そうなんや》《小説もそう》《パヤオは草》


 語り出した庵はアドバイスよりも、まず自分のことから話し始める。

 その内容に零七はやっぱりそうなんだ、と反応し、コメント欄でも共感する声は多かった。


「と、言いますと?」

「サボって下手になるのが怖いし、やらずに後悔する未来を考えたら怖いだろ? だから努力してるってのはある」

「ママらしいですね。私もそういうところがあるかもしれません。配信してないとアイデンティティを失った気分になります」


《マジでこれよ》《ママも怖いんだね》《ほんとそう》《下手になるの怖いもんね》《はー》《配信者もそうなんだ》《無職のオレって……》


 庵が本音を話すと、今度は明澄が共感していた。

 コメント欄も引き続き似たような意見で溢れている。


 恐らく何かしらクリエイター志望のリスナーがいるのだろう。

 彼の話には色々と通ずるものがあるらしい。


「氷菓は配信モンスターだもんねー」

「あなたはもう少し配信して下さい。先月、三回しかやってないじゃないですか」

「面倒いもんにー」


《草》《#零七、配信しろ》《配信お化けとサボり魔》《うかまるは休んでくれ》《#零七、配信しろ》《うかちゃんは休め、零七は配信しろ》


 零七がお気楽そうに言えば、明澄やリスナーからツッコミが殺到した。

 明澄は毎日のように配信をするし、土日は2回行動なんて普通にする。

 長期休暇の時は三回行動している日もあった。


 一方の零七は気が向かないと配信しないことが多く、酷い時には明澄の言ったように月三回が普通だったりする。

 そして「#零七、配信しろ」という変なタグも生まれていた。


「そうだな。俺から送れるアドバイスは、とりあえずペンを持ってみて? って感じだなぁ。やる気ってやり始めないと出ないらしいし」

「それもよく言われますね。心理学でもそういうお話を聞くことがあります」

「ドーパミンだっけ?」

「あと、やりたくない時はやらなくてもいいんじゃないか? 休むことも大事だからな」

「そうそう、私みたいに」

「零七は休んでる方が多いじゃないですか……」


 庵は自分の経験や感覚を交えながら相談者にアドバイスを送る。

 彼は相当な努力をしているが、手が止まる時なんて良くあることで、相談者の気持ちがよく分かっていた。


 その分、同じくクリエイターを目指したり、創作活動をしているリスナーたちのコメントから、庵のアドバイスには勇気づけられている印象があった。


「ま、休み過ぎるのも良くないわな。けど、休めているうちが幸せかもな。フフフ……」

「ええ、ですね。フフフ」

「おう……神絵師と人気配信者は大変だぁ」


《急に闇を見せてて草》《草》《社会人もそうである》《2人共休んで!》《でも売れないよりはマシ》《草》《絵も描いて学生して配信するママはバケモノ》《休んでくれ》《休め》


 休むことの話題になると、その声音に充分な闇を孕ませて語り出す。

 忙しさがピークに達している明澄も同調すれば、自分のペースを守っている零七は他人事のように呟く。


 もしかすると人気を集めつつも、適度にしか配信をしない零七が一番正しいのかもしれない。


「よし、闇も見せたところで俺の選んだ相談も行こうかね」

「よろしくです」

「はいよ」

「じゃ、読むぞ『僕のアレは極細大根』さんから。ひでぇ名前だな」


『御三方、あけましておめでとうございます。そして、こんうか。実は零七さんに憧れていて、僕もVTuberになりたいと思っているのですが、どういう人に適性がありますか? あとVTuberの生活ってどんな感じでしょうか。また、人気になると誹謗中傷されたりアンチが現れたりしますが、どうしてますか。そこはかんきつ先生にも聞きたいです。よろしくお願いします』


「だってよ。Vになるには何が必要なんだ?」

「お金」

「お金です」

「生々しいねぇ」


 VTuberのお悩み相談室に送られてくる内容として、とても相応しいお題が登場した。


 庵自信、配信者になるために必要な要素については、気になっていたことでもあったのでこの相談を選んだ次第だ。


 明澄と零七に尋ねてみると二人揃って同じ回答が飛び出していた。


 そして、ここから配信は生々しい内容とVTuberの実情が二人によって語られていくことになる。

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