第4話

 

 死神の顔は相変わらず見えない。僕の問いかけに死神は淡々と答えた。


「そうですね。あなた方が想像するようなものとは少し違うかもしれませんが、死神と理解していただいて差し支えありません」


「どうして私達を殺すのですか? 私達、何か悪い事をしたのですか?」


 女はそう聞いたが、恐れている様子でもなく、怒ってもいなかった。それを見て、僕はまた不思議な感覚を覚えた。まだ出逢って間もないけれど、この女と自分の感情は面白い程に一致するのである。


「悪い事など何もしていませんよ。むしろ、お二人は美しい精神をお持ちです。それ故に、お二人が求める愛情もまた、美しいものです。私の仕事は世界の命と愛を循環させる事です。孤独で、それでも懸命に愛を求めて生きる命を引き合わせて、新しい愛を創ります。お二人は、結ばれると新しい愛となり、世界中の愛を求める孤独な人と人を引き合わせる力となる。つまり、私となるのです。私はあなた方の鏡だと言ったでしょう?」


そう言って死神は微笑んだ。“死神が微笑む”なんて恐ろしい事の筈だが、僕はこの死神が恐ろしいものとは思わなかった。


「本来、愛し合うのに障害などありません。たとえ愛し合う二人の時代が違っていてもね。必要なのは、お互いがお互いを愛する気持ちだけ。多くの命は、その感情や本能に従って命と愛を育み、繋いでいきます。しかし人間は、マイノリティを嫌います。年齢や性別・身分を明確に区別したがり、そこから少しでも外れた愛を歪んだものとして否定する傾向があります。そうして否定されて孤独になってしまう人を、私は結び屋として引き合わせるのです。お二人のように美しい精神を持ちながらも、生まれた環境や時代によって孤独になってしまう人もね」


 孤独。そう感じる要因にはどんなものがあるのだろう。今死神が言った事は、ほんの一例にすぎないと思った。満たされない愛なんてものは、世界中を探せば無数に存在するだろう。時を超えて探せば、尚更だ。


「ならば、私達は、あなたになるのですか? あなたになって、世界の命と愛を循環させる存在になるのですか?」


「はい。それが、この世界の創造主が願う世界の形です」


「創造主? それは、神様という事ですか?」


 未来人と死神が同じ空間に存在している時点で既に僕の中の常識など覆されているが、まさかそこまで話が大きくなるとは思わなかった。


「そうですね。創造主は命と愛によって世界を創りました。お二人には想像もできないような高次元に生きる存在ですから、神様に等しい存在です。私は創造主に触れる事はできませんが、見た事はあります。とても純粋で可愛らしい子ですよ」


 最後に神様のイメージまで見事に覆されたところで、僕達は本当に結ばれる時が来たようだ。

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