第二十二章 お兄様の婚約者にて
第一話
「おめでとー!」
「幸せになれよ!」
あの一件の後。アリアは穏やかで何も変わらない日々を過ごし、そして今日はケビンお兄様の結婚式だった。
「おめでとうございます。お兄様」
「ありがとう。アリア」
お兄様から婚約の話は聞いた事はなかったが「彼女の話」は聞いていたので、アリアは特に驚きはしていない。
むしろ、長期休暇で会った時も「結婚」について何も言っていなかったので「いつご結婚されるのかしら?」と思っていたくらいだった。
式自体は貴族の割に小さい規模ではあったが、親しい人たちしかいないからなのか、みんな楽しそうだ。
ちなみにアリアは当初キュリオス王子を招こうか迷っていたのだが『僕が言ったらみんな萎縮しちゃうから』と断られ、その代わりにお祝いの手紙をもらった。
それがちょうど式の二週間ほど前。
その数日後にお兄様はウォーレン家の当主となり、位も男爵から伯爵になった。
お父様たちはそれに対して当然猛反発をしたのだけれど、お兄様がずっと集めていた証拠から横領などの罪で捕まった。
その際に発した言動が仇となり、不敬罪もトッピングされ、もう二度と牢から出てくる事はないらしい。
アリアはその事実をお兄様から聞いた時。特に何も感じなかった。
正直、そんな自分に心底驚いて「私って薄情なのかも」と落ち込んだ。でも、キュリオス王子は「そんな事はない」と言ってさらに「むしろ、今までの自分たちの行いが何倍にもなって返って来た。ただ、それだけの事だ……と思う」と励ましてくれた。
「――お二人とも、幸せそうですね」
「ええ、それにとても楽しそう」
祝福されているお兄様たちを見て、アリアはふとキュリオス王子の事を考えた。
キュリオス王子はリチャード王子が廃嫡された事により、正式に「王太子」となった。でも、そうなると、周りが気にしたのは「婚約者」の話である。
順当に考えると……やはり「クローズ」という事になるのだろうが、当の本人はその可能性を完全に否定した。
それも「自分よりももっとふさわしい人間がいるから」という理由で。
しかし、公爵家の令嬢であるクローズよりもふさわしい人間とは一体誰の事だろうか。
むしろ、アリアとしては「この二人なら……」とすら考えていたほどで、一番の似合いのベスト……。
「――あれ?」
「どうかされましたか?」
「うっ、ううん。何でもないわ」
突然感じた胸の痛みに、アリアは困惑した。ここ最近、どうにもこうした事を考えると胸が痛くなる。
しかも、それは考えれば考えるほどひどくなっている様にすら感じて……。
「ねぇねぇ。そういえばあの二人って……」
「そうそう! あの『星空会』がきっかけで仲良くなったのよね!」
「しかもジンクス通りに手を繋いで!」
「え! 本当に!?」
「本当にジンクスの通りになるなんて……」
「ロマンチックよね」
「いいなぁ」
話をしているのは新婦のご友人たちだろうか。どうやらみんなお兄様たちの馴れ初めの話で盛り上がっている様だ。
「そういえば……」
結局『星空会』は「中止」ではなく「延期」になったんだった……とアリアはふと思い出していた。
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