第四話
普通であれば「地面が抜けた瞬間」というのはかなり驚くだろう。
そして、人によってはどうすればいいのか分からなくなり、パニック状態になってしまうかも知れない……のだが。
「――思ったより、深いわね」
アリアはあまり動じていなかった。
昔からこうした事態が起きた時でも動じない精神を培ってきたというのもあるが、一番の理由は……。
「最初から私が狙いだったというワケね」
どことなく「こうなるのではないか」と思っていたところがあったからだ。
主人公はどうやらアリアと同じ転生者らしく、ゲームの知識があるのは彼女の方から接触をされた時から分かっていた。
それを踏まえて考えると「ひょっとしたら事前に何かしかけてくるかも」とは少し思っていたが……。
「はぁ、まさか落とし穴に落とされるとは思っていなかったわ」
正直。この深さは……前世で見ていたテレビのバラエティ番組で芸能人が落とされていたくらいはある。
つまり、アリアの身長よりも深く掘られていた。
一応、クッションの様なモノはあるモノの、突然こんなところに落とされるなんて……普通に考えれば「事故」だ。
「……」
普通の人であればこの状況は下手をすればトラウマになり、最悪の場合は学校にすら行けなくなるかも知れない程なのだが……。
アリアは「はぁ」とため息を吐きながら軽く近くの壁に触れると――。
『土の壁:土魔法によって帆あられて出来たモノ。魔法使用者・シュレイン・フォーガス』
こうした説明文が浮かび上がった。
「……やっぱり」
アリアはコレが『鑑定の魔法』だと分かっている。しかし、実はこの「魔法使用者」まで分かるようになったのはつい最近の話で、主人公のソフィリアがアリアに接触して来た時はまだここまで細かい事は分からなかった。
「それにしても、参ったわね」
アリアは鑑定の結果を見て小さく呟いた。
本来はアリアの膨大な魔力を使ってここから脱出したいところなのだが、どうやらシュレインが魔法道具を使ってここで魔法の使用を封じている事が分かった。
いくら膨大な魔力があっても、封じられてしまってはただの宝の持ち腐れである。
「……」
しかし、このままここでボーっとしていても埒が明かない。
それに「何も出来ない」という事は他の登場キャラクターたちに何かあってもどうする事出来ないというワケだ。
「それに……」
たとえ出られたとしても「そもそもどうしてこうなったのか」という説明をしなくてはいけないだろう。
何となくコレを仕掛けてきたのが誰なのかは分かっているモノの、それを説明するためには『鑑定』の話をしないといけないかも知れない。
それに「怪しい人影」が本当にシュレインなのかも謎だ。
もちろん、別の人だった可能性も否定は出来ないし、協力者がいる可能性も十二分に考えられる。
それに、今でも影でコソコソとアリアの事を言っているのは貴族の令嬢たち。その中にシュレインに協力者となる人物がいるかも知れない。
「……」
可能性としてはゲーム開始当初よりも主人公に陥落した今では高くはないかも知れないが、ありえる話ではある。
シュレインもだてに攻略キャラクターの中で「プレイボーイ」と言われているワケだし。
もしかしたら、身分の低い貴族令嬢や庶民の女子生徒がシュレインに唆されて手伝ってしまった可能性がある。
もしそうだとしたら――。
「……」
アリアの頭の中では「ここを出られなかったらどうしよう」という事よりも「ここを出た後の事」でいっぱいだった。
正直「ここを出られないかも」という事はこの時心配していなかった。なぜなら――。
『アリア!』
そうアリアを呼ぶ大きな声が上から降って来た。
「殿下! クローズ様!」
そう、きっとこの二人が見つけてくれる……そう信じていたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます