第三話


 乙女ゲームでは「各キャラクター」つまり攻略キャラクター同士で何かしらの関係性である事が多い。


 それは兄弟や婚約関係だけでなく、幼馴染や腐れ縁も含まれ、関係が深かったり業種……つまり商売敵だったりという関係で事「恋愛」においては「ライバル」という形になる事が非常に多い。


 ただ、実は今の主人公が攻略したであろうキャラクターたちでこういった関係性なのは一組しかおらず、こうしてみると……随分と偏りがある様にも感じるが……それも仕方のない話のだろう。


 ちなみに、リチャード王子のライバルはキュリオス王子である。


 でも、主人公は今の状況を少し後悔しているかもしれないと思った。


 なぜなら、既に攻略したキャラクターのステファンとライアスはライバルの関係なのだが、揃いも揃って嫉妬深いのだ。


 ひょっとしたら主人公はクリスの攻略に早く移りたいのかも知れないが、先ほどのやり取りの様子を見る限り……なかなか一人きりになるのはどうにも難しそうだ。


「……」


 ゲームでは「一回につき一人を攻略」という形だったため「二人同時進行」という事がなかった。そして、先ほどのやり取りで主人公が右往左往しているところを見ると……リメイク版なところは変わらない様だ。


 つまり、主人公は実は「攻略済みの複数人からのアプローチ」にあまり慣れていないかも知れない。


 アリアとしてはこの事実に驚いたのだが、思い返しみると……彼らがメインとなるイベントではいつも主人公と攻略キャラクター一人という形が多い。


 それを考えると「複数人いる中で一人になる」というのは意外に難しいのかも知れない。


「――おかしいわね」


 辺りを見渡し、先ほど見かけた人影を探しているのだが……全然見当たらない。


「うーん」


 キュリオス王子とクローズには適当な理由を言ってここまで来たのだが、実は王子を納得させるのに少し手間取ってしまった。


 そのせいも多少はあるかも知れない。


 でも、客観的に見てあの時の自分は……確かに「何か事情があります」と言っている様にも見えたかも知れない。ただ、それは単純に「早くいかないと!」と焦っていただけなのだが……。


「早く確かめて戻りたいのに」


 これを聞いただけでは「何を?」と思うかも知れないが、簡単に言うと「飛行魔法の使用をさせなくする魔法道具」についてだ。


 ただコレはゲーム本来ではないのだが、アリアとしては「十分ありえる可能性」の一つとして考えていた事だった。


 それは「シュレインが学校側からの要請を受けて準備をした魔法道具に細工をしてクリスを貶めようとしている」というモノである。


 もし、魔法道具に負備があってそれで怪我などがあれば、評判を落とす事にもつながり、クリスを学校から追い出す事が出来る。


「……はぁ」


 こうった時に探知の魔法を使えるといいのだが、基本的にそういった魔法は私用で使う事はいけない。


「でもせめて……」


 アリアはクリスに「念のために言っておこう」と歩き出そうとした瞬間……。


「――え」


 突然立っていたはずの地面が音もなく消え、アリアはその事実を受け入れる余裕もなく、そのまま真下へと落ちて行ってしまった――。

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